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日米関係の「安定」を本当に願うのであれば、まず地位協定を改定せよ

2017-01-27 | いろいろ

現代ビジネス より

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日米関係の「安定」を本当に願うのであれば、まず地位協定を改定せよ 親米/反米を超えた課題
 伊勢崎 賢治氏 東京外国語大学教授


日本は米軍の世界最大の「宿主」なのに…

 「活米」という言葉があるそうです。

 トランプのようなリーダーが出現するにあたって、それに振り回されることなく、いかに日本が平常心を保って、日本の国防、国益のためにアメリカを活用してゆくか。

 これは、米軍の世界最大の「宿主」としての日本が、アメリカとの関係を考えることに他なりません。在日駐留米軍との関係です。

 そこでまず思い浮かぶのは「地位協定」の問題です。

 地位協定は、米軍と日本政府との問題というより日本社会との問題に焦点が当たりがちです。ですが、日本の自衛隊にとって日米地位協定はどうなのでしょうか? 何も問題はないのでしょうか?

 例えば陸上自衛隊は、もう十数年、アメリカの海兵隊と一緒に共同訓練を行っています。水陸機動団といって、尖閣諸島での中国の脅威が話題になっている島嶼(とうしょ)防衛を念頭に、海と陸の両方で即応できる部隊をつくろうとしているようです。

 この訓練、もちろん国内、国外的にも政治的に非常にセンシティブな問題なので、日本の近海でアメリカと大々的にやるのではなく、ほとんどがアメリカ国内で共同訓練をやっているのです。

 この時、自衛隊員は、どういう外交ステータスでアメリカに滞在しているのか?

 「公用パスポート」だそうです。

 「外交パスポート」ではないので、外交特権はありません。日米地位協定で米軍人と軍属が享受するような特別の裁判権上の特権も何もありません。JICA(国際協力機構)なんかから派遣される民間の専門家と同じです。

 つまり、訓練でアメリカ滞在中の自衛官が、例えば「公務」で自動車を運転中に米市民を轢いたとしましょう。その事件の処理において日本に一次裁判権はありません。

 ところが、これがドイツやイタリアの兵士だったら、一次裁判権はこの両国にあるのです。アメリカ国内で起こった事故にもかかわらず、「公務内」であれば、アメリカに一次裁判権はありません。

 このようなアメリカとドイツ、イタリアとの関係を「互恵的(reciprocal)」と言います。

 アメリカの宿主をしている国はたくさんあります。アメリカが持っている地位協定は、実に、100以上あるそうです。

 地位協定の問題というのは、裁判権だけでなく、環境権、基地や空域の管理権が焦点となるのですが、アメリカは、全てのNATO同盟国に、この全ての分野において「互恵的」な関係を認めています。

 日米間にはそれはありません。

 日本と同じ敗戦国でもドイツやイタリアは白人だし、NATOという軍事同盟だからしょうがないと言う向きもあるでしょうが、アメリカは二国間地位協定において、裁判権での互恵性を、例えば、フィリピンとイスラエルにも認めています。

 イラク(後に決裂しますが)やアフガニスタンにおいては、「準互恵性」を認めています。例えば、アフガニスタンにおいて米兵が公務上の過失を犯した場合、一次裁判権はアメリカにありますが、アフガン側にアメリカの軍法会議に立ち会う権利を地位協定で明記してあるのです。これも日本にはありません。

 横田空域みたいなものは存在しません。ドイツ、イタリアを含む全てのNATO諸国、イラク、アフガニスタン、フィリピン、そしてPartnership for Peace (PfP)という旧ソ連邦構成国においても、米軍の基地、空域、海域は、全て受け入れ国の主権の下に管理されています。

 米機が落ちた現場を、米軍兵士が出かけて行って封鎖するなんてことは、まず、あり得ません。主権国家の中で、そういう事故によってつくられる非日常を統制し、日常から隔離するのは、その主権国家の、まず警察であり、必要であれば国軍であり、外国軍であるハズがないのです。

 60年間ずっと変わっていない。まるで占領下のような地位協定は、日米地位協定しかないのです。

まずは地位協定の「改定」から

 「活米」。非常に良い言葉だと思います。

 でも、アメリカの活用とは、まず、日本の国のあり方が問われる問題だと思います。「従属」では、活用されることはあっても、活米など絵に描いた餅です。

 なら、「活米」をどのように実現していくのか。どこから手をつけるのか。

 地位協定の「改定」から始めるのが一番良いと思います。これは反米ということではありません。活米するために地位協定を改善する。こういう発想があってもいいと思います。

 それでも、日米地位協定の改定と言うと、「反米」のコンテクストで語られることが圧倒的に多いので、少しパラダイムを変えていかないといけません。

 「活米」のためにまず必要なのは、地位協定の安定であるというふうに。

 「地位協定の安定」。

 実は、アメリカは、駐留米軍が引き起こした様々な「事件」を契機として嫌米の国民運動が高揚し、フィリピンやイラクで完全撤退を余儀なくされているのです。

 これを歴史的な経験値として、アメリカ自身が、その「安定」ための妥協を地位協定の「改定」という形で試行錯誤してきたのです。


 それが、NATOの中でも、駐留米軍のプレゼンスが特に大きいドイツやイタリアとの補足協定に代表される「改定」です。

 ちなみに、日本の外務省のHPには、「ドイツは,同協定(上記補足協定)に従い,ほとんど全ての米軍人による事件につき第一次裁判権を放棄しています」とあります。

 これは、許しがたいミスリードです。真実は全くこの逆で、強盗、レイプや殺人については、どんな場合でも、ドイツの裁判権で裁くと明確に書いています。(1998年NATOドイツ補足協定第19条2項)

 アメリカが締結している地位協定を比較調査すると、それらの「改定」の歴史とは、まさに「“平和時”の異国に軍を駐留させるという、受け入れ国にとって異常な状況をアメリカ自身が認識するなかで、国益の保護と、国の命で赴かされる米兵が異国の法で裁かれるのをいかに阻止するか」の試行錯誤だということが分かります。

 ですから、「平和時の駐留」を強いる米と受け入れ国の関係の「安定」を希求するのは、まずアメリカ自身であり、だからこそ、現地社会の不満の「ガス抜き」の交渉に応じ、譲歩を、地位協定の「運用」ではなく、広く、透明性を持って、現地社会の感情に訴えかけられるように、衆知が及ぶ「改定」という形で示してきたのです。

 そう。「改定」でなければならないのです。

右/左を超えた課題

 地位協定の改定に向かう譲歩は、歴史的に以下のようにパターン化されております。(アメリカ政府自身の米連邦諮問委員会任命の国際治安諮問会議、2015年”Report on Status of Force Agreemnts”を参照)

  ① 互恵性:裁判権の特権をお互いに認め合う。つまり、受け入れ国の軍がアメリカに駐留した時も、同じ一次裁判権を与える。

  ② 透明性:互恵性を認めない場合でも、アメリカの第一次裁判権の行使における受け入れ国の監視権を認める。米軍事法廷に立ち会える権利です。

  ③ 「業者」の扱い:戦争の「民営化」が進み民間軍事会社を含む「業者」の役割が増す中、業者の社員は米軍と直接的な雇用関係にはありません。つまり米軍は直接的な監督責任を追えないので、「業者」については公務内/外ともに、全面的に受け入れ国側に一次裁判権を認めます。ちなみに、「シンザト」は業者でしたが、日米地位協定では「軍属」としての裁判権上の特権が与えられていました。

  ④ 基地の管理権、制空権:「平和時の駐留」なのですから、受け入れ国の主権が地位協定を支配するという考え方は至極当然で、訓練を含む駐留米軍の行動は、全て、受け入れ国政府の「許可制」です。

  ⑤ 環境権:④と同じく、最優先されるべき受け入れ国の主権の下、受け入れ国の環境基準に従う。

 「地位協定の安定」を目指すなら、地位協定が「改定」されないことは、おかしいのです。

 日本は改定なしで60年やってきたからいいじゃないかと言われそうですが、誰がフィリッピンやイラクでの全面撤退を予測できたでしょうか? 

 今まで壊滅的な反米の国民運動にならなかったのは、ひとえに米軍基地が、沖縄に集中しているからです。「迷惑施設」を押し付けられた地元民の不満は、どんな強権を用いても、抑え込むことはできません。それが、”民族意識”のようなアイデンティティで括られる場合は、なおさらです。

 歴史を紐解けば、こういう局地的なアイデンティティを基盤とする社会不満は、予測不可能な事故によって増幅し、分離独立運動へと帰着します。

 そういうところに「集団的自衛権」が悪用され周辺大国が介入し、内戦化するのが、互いに敵対する大国の狭間に位置する、いわゆる「緩衝国家」の末路です。日本は、地政学上、典型的な緩衝国家なのです。

 米軍の基地を集中的に受け入れている沖縄県民が周知できるように(*)、「運用」ではなく「改定」で、その不満を少しでも取り除いていく努力は、「活米」に不可欠なのです。

 これは、右/左、親米/反米を超えた課題なのです。

(*)駐留米軍最高司令官と国軍最高司令官が同等の責任を分かち合うイタリアの補足協定では、米軍基地があることで迷惑をかける県や市などの地方政府と当該米軍責任者は、オフィシャルなチャンネルを持つ、とさえ定めています。(1995年米イタリア補足協定第19条)
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