今を読み解く 法政大学教授 小峰 隆夫 文中黒字化と拡大は芥川。
大震災の経済的影響が次第に明らかになるとともに、いかに経済復興を進めるかについての議論が本格化している。経済学者も強い危機感を胸に活発に発言を続けている。
経済学者が大震災の進行過程で何を考えたのかをドキュメンタリータッチで記述した竹森俊平『日本経済 復活まで』(中央公論新社)は、構成がユニークだ。第1部「震災発生」では、著者が震災の中で、日々何を考えてきたかが日記形式で臨場感豊かにつづられており、第2部で、震災の影響と対応についての主張が展開されている。
●何を変えるべきか
多様な経済的な論議が展開される中で、次第に意見の一致する点と対立する点が明確になってきた。
一致点の一つは、今回の大震災が戦後日本経済社会にとっての大きな転機であり、この転機を生かして新しい経済社会を生み出していくべきだということである。確かに、大震災という起きてしまった悲劇を元に戻すことは出来ないのだから、我々は、この悲劇を将来のための改革の契機としていくしかないのだ。
では何を変えるべきか。この点については、堺屋太一編『緊急提言 日本を救う道』(日経プレミアシリーズ)が全体を俯瞰するのに役立つ。
この本では、堺屋氏の巧みなリードで、各方面の専門家が、従来型の経済社会の問題を指摘し、多くの人々の心の中に染みついている発想を変えるべきだと述べている。
例えば、岩田一政氏は通貨の決済という基本的なインフラ面で日本が遅れていることを、圓尾雅則氏は電力会社相互の競争がなかったことを、柳川範之氏は幻想の終身雇用を前提とした制度的枠組みとなっていたことを、大滝精一氏は東京への一極集中体制を、そして宋文洲氏は日本の技術は一流で、絶対間違いはないとしてきた傲慢さを指摘している。
もう一つの一致点は、復興に際して経済学の知見を生かしていくことであり、特に電力不足に対して価格メカニズムを活用すべきだということである。
野口悠紀雄『大震災後の日本経済』 (ダイヤモンド社)は、経済学の標準的な議論に基づいて鋭い切れ味の診断と処方箋を提示したものだが、ここでも電力消費抑制に価格メカニズムを活用すべきことが強調されている。後述する岩田規久男氏の著作も同様の主張をしている。
ピーク時の電力料金を高くすることによって電力消費を抑制することは、統制的な割り当てに比べてはるかに効率的でかつ公正な電力消費抑制手段である。しかし現実の政策決定では、値上げを嫌う世論に配慮してほとんど検討もされていない。
経済学者はあきらめずに説得的な議論を続けていくべきだ。
●誰がコスト担うか
一方で、対立点も明瞭になりつつある。その一つは、これからの産業基盤がどうなるのかという点だ。野口氏は、電力の制約を重視し、脱工業化を図り、高度サービス産業をリーディング産業として位置づけるべきだと説く。
一方、前掲書で竹森氏は、エネルギー資源の輸入が必要となることから、今後はますます「輸出力」が鍵を握ると言う。
この点は、日本経済の復元力次第という気がする。私は、今回の震災、電力不足のような、経済全体に外から襲ってくるタイ
プの危機については、日本企業の適応力はかなり大きいという感覚を持つ。少なくとも当面1~2年は、日本経済はかなりの復元力を示すのではないか。
もう一つ意見が対立するのは、国債の日銀引き受けだ。岩田規久男『経済復興』(筑摩書房)では、今後5年程度の間に、総額40兆~50兆円程度の復興国債を発行し、これを日銀が直接引き受けるべきだと提案している。
これについては、財政の規律が緩む、インフレになる、国債価格が暴落する(長期金利が上昇する)といった批判がある。私は、これが「だれも負担しないで済む復興財源」として受け取られていることを危惧する。
「ただの昼飯はない」のだから、復興のためのコストは、誰かが何らかの形で担うような仕組みにしておかないと、将来に禍根を残すのではないか。
大震災の経済的影響が次第に明らかになるとともに、いかに経済復興を進めるかについての議論が本格化している。経済学者も強い危機感を胸に活発に発言を続けている。
経済学者が大震災の進行過程で何を考えたのかをドキュメンタリータッチで記述した竹森俊平『日本経済 復活まで』(中央公論新社)は、構成がユニークだ。第1部「震災発生」では、著者が震災の中で、日々何を考えてきたかが日記形式で臨場感豊かにつづられており、第2部で、震災の影響と対応についての主張が展開されている。
●何を変えるべきか
多様な経済的な論議が展開される中で、次第に意見の一致する点と対立する点が明確になってきた。
一致点の一つは、今回の大震災が戦後日本経済社会にとっての大きな転機であり、この転機を生かして新しい経済社会を生み出していくべきだということである。確かに、大震災という起きてしまった悲劇を元に戻すことは出来ないのだから、我々は、この悲劇を将来のための改革の契機としていくしかないのだ。
では何を変えるべきか。この点については、堺屋太一編『緊急提言 日本を救う道』(日経プレミアシリーズ)が全体を俯瞰するのに役立つ。
この本では、堺屋氏の巧みなリードで、各方面の専門家が、従来型の経済社会の問題を指摘し、多くの人々の心の中に染みついている発想を変えるべきだと述べている。
例えば、岩田一政氏は通貨の決済という基本的なインフラ面で日本が遅れていることを、圓尾雅則氏は電力会社相互の競争がなかったことを、柳川範之氏は幻想の終身雇用を前提とした制度的枠組みとなっていたことを、大滝精一氏は東京への一極集中体制を、そして宋文洲氏は日本の技術は一流で、絶対間違いはないとしてきた傲慢さを指摘している。
もう一つの一致点は、復興に際して経済学の知見を生かしていくことであり、特に電力不足に対して価格メカニズムを活用すべきだということである。
野口悠紀雄『大震災後の日本経済』 (ダイヤモンド社)は、経済学の標準的な議論に基づいて鋭い切れ味の診断と処方箋を提示したものだが、ここでも電力消費抑制に価格メカニズムを活用すべきことが強調されている。後述する岩田規久男氏の著作も同様の主張をしている。
ピーク時の電力料金を高くすることによって電力消費を抑制することは、統制的な割り当てに比べてはるかに効率的でかつ公正な電力消費抑制手段である。しかし現実の政策決定では、値上げを嫌う世論に配慮してほとんど検討もされていない。
経済学者はあきらめずに説得的な議論を続けていくべきだ。
●誰がコスト担うか
一方で、対立点も明瞭になりつつある。その一つは、これからの産業基盤がどうなるのかという点だ。野口氏は、電力の制約を重視し、脱工業化を図り、高度サービス産業をリーディング産業として位置づけるべきだと説く。
一方、前掲書で竹森氏は、エネルギー資源の輸入が必要となることから、今後はますます「輸出力」が鍵を握ると言う。
この点は、日本経済の復元力次第という気がする。私は、今回の震災、電力不足のような、経済全体に外から襲ってくるタイ
プの危機については、日本企業の適応力はかなり大きいという感覚を持つ。少なくとも当面1~2年は、日本経済はかなりの復元力を示すのではないか。
もう一つ意見が対立するのは、国債の日銀引き受けだ。岩田規久男『経済復興』(筑摩書房)では、今後5年程度の間に、総額40兆~50兆円程度の復興国債を発行し、これを日銀が直接引き受けるべきだと提案している。
これについては、財政の規律が緩む、インフレになる、国債価格が暴落する(長期金利が上昇する)といった批判がある。私は、これが「だれも負担しないで済む復興財源」として受け取られていることを危惧する。
「ただの昼飯はない」のだから、復興のためのコストは、誰かが何らかの形で担うような仕組みにしておかないと、将来に禍根を残すのではないか。