文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

日本の時間、世界の時間。
The time of Japan, the time of the world

強気の中国に対して一番してはならないのが譲歩であり妥協である。

2023年03月02日 12時45分09秒 | 全般

以下は本日発売された週刊新潮の掉尾を飾る櫻井よしこさんの連載コラムからである。
本論文も彼女が最澄が定義した国宝、至上の国宝である事を証明している。
日本国民のみならず世界中の人達が必読。

ウ戦争、日本自身のために立ち上がれ
追いつくのが難しい程、国際社会が速いペースで動いている。 
2月18日、ブリンケン米国務長官と中国共産党政治局員で外交の総責任者、王毅氏の会談がドイツ・ミュンヘンで行われた。
目立ったのが双方の強気な姿勢である。
ブリンケン氏は中国に、スパイ偵察気球を米国土の上空に飛ばすのを止めよと強く要求し、ロシアへの中国の政治的援助が近い将来、ウクライナ戦争用の武器弾薬供給へと移行することに懸念を強めていると明言した。
会談直後、ブリンケン氏は積極的にメディア取材に応じ、米国のNBCに語っている。 
「殺傷兵器のロシアへの供給を中国が強く考えていることを示す、より詳細な情報を我々は持っている」
「(そのようなことは)米中関係に深刻な結果をもたらすと、王毅氏に率直に伝えた。バイデン大統領も習近平主席に複数回、伝えてきた」
「率直に」(directly)とは、外交用語で「厳しく」という意味だ。 
中国側は直ちにコメントを発表した。
王毅氏は米国の要請でブリンケン氏に会ってやったとし、「中露関係について米国の指図は受けない」と反発した。
そもそも外相会談前、王毅氏はミュンヘン安全保障会議の場で米国を「ヒステリーで馬鹿げている」と口汚く批判していた。
外相同士のやりとりは両国の緊張を緩和できなかった。 
20日、バイデン米大統領が突然ウクライナを訪問し、ゼレンスキー大統領に語りかけた。 
「1年前、ワシントンは夜中、キーウは早朝だった。大統領、貴方は私への緊急電話で、空にはロシア機が、国境には戦車が押し寄せ、大地が攻撃を受けていると、切迫した声で語りました。貴方のために何をすべきかを尋ねると、直ちに世界の指導者を招集してウクライナを支援して欲しいと貴方は答えました。1年が経った今、キーウは雄々しく耐え続けています。女性、子供、全ての人々が立ち上がった。世界もです。NATOが大西洋で、日本が太平洋で立ち上がりました」 
ゼレンスキー氏も応えた。 
「バイデン大統領はウクライナが最も困難な時に来て下さった。ウクライナは白身の自由のために、世界の自由のために戦い続けます」

「これがアメリカだ!」 
バイデン氏は世界各国による戦車700両をはじめ火器、砲弾、ロケットシステム、対艦対空防衛システムに加えて巨額の経済援助について語った。
「これがアメリカだ!」という勢いのある件りだった。 
翌21日、プーチン大統領が1時間30分を超える演説をロシア連邦議会で行った。
プーチン氏は平然とした表情で今回の戦争は西側が始めた、ロシアは平和的解決に向けて可能な全てのことをやっていると、自己主張した。 
また西側はナチス勢力を育てロシア消滅を図ってきたと氏独特の歴史観を披露した。
戦死した軍人だちとその家族に向けて長い時間を割いて感謝と敬意を表した。
ロシア経済のさらなる成長を促す大計画を紹介し、最後に訴えた。 
「国民の中には西側の魅力的な街やリゾート地区で快適に贅沢に過ごしたい人々もいる。ロシア政府はそれを妨げはしない。けれど彼らはいつもその地で二流の異邦人として扱われるだけだ。ロシア人にはもうひとつの選択肢があるはずだ。それは祖国と共にあることだ」 
100万人ともいわれる、主として知的な若い世代がロシアを去ってしまった現実を踏まえての言葉であろう。
長広舌の底流には歪曲された歴史観と西側社会、とりわけ米国への猜疑心と深い恨みの感情が溢れていた。 
22日、王毅氏が訪露した。
ブリンヶン氏との烈しい応酬を重ねた姿とは打って変わってプーチン氏と友好的な固い握手を交わし、語った。 
「現在、国際情勢は複雑で厳しいが、中露関係は国際情勢の変化による試練に耐え、成熟し、強靭で、泰山のように安定している」
「中露は戦略面でぶれることがない。戦略的合意を維持し、戦略的協調を強化する」とも強調した。 
プーチン氏は習氏に向けた「心からの挨拶」を王毅氏に託し、「国際社会の中で中国と連帯し協調していく」と誓約した。
両国間の貿易が2021年には1850億ドル(約21兆4000億円)に達し、これを24年には2000億ドル(約26兆円)にまで伸ばしたいとして、中国の経済協力に「最も深い感謝を表明する」と
語る姿は低姿勢だった。 
両国の基本姿勢は22年12月30日の習・プーチン会談の重視が基軸である。
一言で言えば軍事関係を深めるという意味だ。 
中国は今日に至るまでウクライナ侵略戦争を戦争とは呼ばない。
「ウクライナ危機」の表現にとどまる。ロシアが侵略したという事実に目をつぶり、非難もしない。
その中国のウクライナ戦争に関する考えは侵略から1年の2月24日に明らかにされた。
「ウクライナ危機の政治的解決に関する中国の立場」である。
「各国の主権の尊重」から始まり、「冷戦思考の放棄」「一方的制裁の停止」などに混じって「停戦」「和平交渉の開始」など12項目だ。

日本のすべきこと 
集約すればロシア・ウクライナ双方に歩み寄りを勧め、対話と交渉を再開せよと説くものだ。
ロシアの蛮行を責める箇所はどこにもない。
ウクライナの領土保全もロシア軍のウクライナ撤退も全く触れていない。 
ゼレンスキー氏は習氏との会談について「世界の安全保障のために有益だと考える」としながらも「戦争の当事国だけが和平案を提案できる」と語り、穏やかな口調で中国の仲介を退けた。
バイデン氏は「プーチン氏が歓迎している。これがいい案であるはずがない」と率直なコメントで直ちに中国の案を却下した。 
ここから中国はどう出るのか。
彼らは米国が日本とオランダを説得して共に実施しようとしている半導体供給網の確立と中国の排除に脅えている。
大きな痛手となる強力な制裁を何とか回避しなければならない。
彼らはバイデン氏や民主党が来年の大統領選挙に向けてウクライナ戦争で平和実現に成果をあげたいと願っているはずだと見ているのだ。
その「弱み」を突いて、自国の権益確保の道を維持したい。
ロシアに軍事的に肩入れする構えは米国の譲歩を引き出す戦術でもあろう。
強気の中国に対して一番してはならないのが譲歩であり妥協である。 
日本のすべきことは明らかだ。
王毅氏は林芳正外相にデカップリングは考えるな、(米国に従わず)独自外交をせよと迫った。
バイデン氏は「日本は太平洋で立ち上がった」と言った。
わが国は日本自身のために立ち上がるべきだ。
岸田文雄首相は安全保障3文書を着実に実現すること、ウクライナを訪問して私たちはウクライナと共にあると明確な意思表示をするのがよい。



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