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文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

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「スエズ運河を消せ」デヴィッド・フィッシャー著…日経新聞11月13日23面より

2011年11月13日 13時47分15秒 | 日記
軍の手品師が仕掛けたトリック 評・作家 佐藤亜紀

もう何年も前、知人に紹介された商社の駐在の方と食事をしたことがある。話はJ・F・ケネディ空港に出没する置き引きと掏模の魔術という他ない妙技の話から手品の話に及んだ。

衆人環視の前で旅客機を消して見せる手品師がいる、と、いうのだった。勿論、種や仕掛けがあることはわかっているーーが、その種や仕掛けがどうしてもわからないことが、私などには想像も付かないような経験を積んできたビジネスマンを魅了していた。種や仕掛けがあることは百も承知であってこそ感嘆するしかない手品、というものがこの世にはあるのだ。

とすれば、おそらくありとあらゆる不意打ちや隠蔽に身構えているであろう軍人に対してさえ有効なトリック、というものもまたあるだろう。

第2次世界大戦中のイギリスにおける人材活用の徹底には時々驚かされるー-使いどころは幾らでもありそうな数学者は勿論、何に使うのか皆目検討のつかない作家から、特に特化した技能はない民間人に至るまで。が、まさか手品師まで動員していたとは知らなかった。

この本の主人公であるジャスパー・マスケリンは戦争が始まった頃、既に名を成した手品師であり四十に手が届きかけていたにもかかわらず陸軍に志願、工兵隊所属のカモフラージュ部隊を組織し、北アフリカ戦線で様々なトリックを仕掛けた。

ラクダの糞を使った迷彩塗装、戦車をトラックにカモフラージュ、機甲部隊や潜水艦どころか全長220メートルはある戦艦、物資集積所、果てはアレクサンドリアの港湾施設丸々のダミー、サーチライトを使ってのスエズ運河の防空などが、マスケリンの手掛けた仕事である。

本書は北アフリカ戦線の戦況の変化に応じて要請されたこれらのトリックの種と仕掛けを詳細に語ってくれる。
小説仕立ての語り口は極めて読みやすい。一種エンターテインメント的な語り口といおうか。

そうした語り口が惜しい、もう少し実録的な形で読みたかった、という気もしないではないが、休日に楽しんで読む読物としては悪くないだろう。

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