文明のターンテーブルThe Turntable of Civilization

日本の時間、世界の時間。
The time of Japan, the time of the world

リンカン(上・下)ドリス・カーンズ・グッドウィン著 5/15日経新聞読書欄から。

2011年05月16日 00時36分20秒 | 日記

(平岡緑訳、中央公論新社・各3800円)   文中黒字化と*は私。
著者はニューヨーク生まれ。ハーバード大で学びリンドンージョンソン大統領補佐官、ハーバード大教授など歴任。米大統領の評伝をいくつか手がけている。
膨大な資料から政治的天分明かす
本書はオバマ大統領が愛読し、スピルバーグ監督が映画化を即決した話題の1冊である。
 著者はかつてルーズヴェルト大統領夫妻の評伝でピューリツァー賞を受賞した女性歴史学者。その彼女が10年もの歳月をかけて書き上げた渾身の作だ・
 あまたあるリンカンの評伝とは異なり、本書は共和党の大統領候補に指名された1860年から暗殺されるまでの5年間に焦点を絞り、同僚や家族の膨大な日記や往復書簡に新たな光をあてながら、リンカンの政治的天分を見事に浮かび上がらせている。
 大統領に当選後、リンカンは選挙時の政敵だった4人をそっくり主要閣僚に抜擢する奇手を用いて、南北戦争という未曾有の国難を切り抜けた。国政にとって有能とあれば、リンカンの失脚を謀略した財務長官でさえ、のちに最高裁判所長官に任命したほどである。リンカンの無比の情緒的な力と政治的な天分は彼らを魅了し、最後には入間として完璧に近い存在」とまで言わしめた。
 
ライバルからなるチーム(Team of Rivals)」と著者が称したその組閣手法がオバマ大統領によって再現され、クリントン国務長官やバイデン副大統領が登用されたことは記憶に新しい。
 著者によれば、そのリンカンを支えたのは、幼少時代から相次いだ苦境や不遇、絶望の淵から紡ぎ出した野心、すなわち「私は、同胞の者たちの尊敬に足る自分となって、心底からの評価を彼らに求めたい」という実存をかけた大志だったという。世俗的な権力や名声ではなく、自分自身を超えた善の実現こそが、真の生きた証しになるという達観が彼の政治人生を導いたというわけだ
 そうした超然的な生き方ゆえの苦悩や葛藤、矛盾も本書の読みどころだ。訳も解説も素晴らしい。
 9・11の後、米国ではリンカンのゲティスバーグ演説がいたるところで朗読され、国民の心の拠り所となった。わずか272語、3分の短い演説である。
 3・11の後、私たちはそうした言葉を持っているだろうか。
《評》慶応大学教授 渡辺 靖
*これもまた、先般、ご紹介した朝日新聞の書評と競演の形となった。


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