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ブラジル経済 ペダル重く…日経新聞7月9日6面より

2011年07月09日 16時17分28秒 | 日記
「通貨戦争」の悪影響続く

ブラジル経済は自転車に似ている。動き続ける限りはうまくいく。この10年はそれが容易だった。商品価格の高騰が輸出品の価格を押し上げ、潤沢な信用供与が経済の拡大を支えてきた。しかしここに来て突然、ペダルが重くなる。

「国際通貨戦争」(マンテガ・ブラジル財務相)が依然、猛威を振るい、悪影響を垂れ流す。西側の超低金利政策がブラジルなど急成長する新興国市場を資金で満たし、現地の通貨高をあおる。
  
ブラジル通貨レアルの実効為替レートは2006年比で4割も上昇した(インフレ調整後)。それ以降、輸入はほぼ倍増したが、輸出はたかだか5%しか増えなかった。

経常収支の赤字が爆発的に膨らまないのは、ひとえに商品価格の高止まりのおかげだが、そんな好況が続く保証はない。潤沢な資金流人は国内の信用拡大ももたらしたが、家計の可処分所得の約4分の1が借金返済に充てられるなど、消費者は相当な無理を強いられている。

これは信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)の危機がぼっ発する以前の米家計の水準すら上回る。これ以上の拡大は実質所得の拡大を伴わない限り不可能だ。

ブラジル経済の自転車が通貨戦争の塹壕(ざんごう)にドスンと落ち込む危険はここにある。国民所得が上昇すれば需要が膨らみインフレも加速する。インフレ抑制には金利引き上げが不可欠だが、利上げは海外からさらなる資金を呼び込みレアルの為替レートを一層押し上げる。

輸入が増えて国内産業の衰退を導き、輸出競争力も打撃を受ける。経常収支の赤字がさらに膨らむため、信用拡大を安全に持続するには賃金抑制が不可欠となる。

経済という自転車を動かし続ける第1の方策は為替レートの引き下げだが、同国は部分的な資本流入規制と大規模な為替介入をすでに試みていずれも失敗に終わった。

それに代わる方策は、歳出の無駄を削り内需を冷やすことだ。ブラジルには財政の赤字路線ではなく黒字路線こそ求められるが、歳出削減法案の議会通過は至難の業だ。

第3の選択肢は原材料部門への増税だ。いずれにせよ容易な解決策など存在しない。経済政策で勝る資源大国の南米チリやオーストラリアですら苦しんでいる。しかもブラジルは経済規模で両国をはるかにしのぐ故に抱える問題も特別に巨大だ。

ブラジル経済という自転車は、停止の恐れこそまだないものの、明らかにぐらつき始めている。
(8日付)=英フィナンシャル・タイムズ特約

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