【楽亭(中国河北省)=多部田俊輔】
中国北部の潮海にある国内最大級の海底油田で原油流出が止まらない。事故発生から2ヵ月余りが経過したが、汚染海域は東京都の2・5倍の面積まで広がり、漁業などへの被害額は13億元(約155億円)以上に達した。
中国政府は5年間で海底油田の原油・天然ガス生産量を2倍に増やす計画だが、事故の解決に手間取ればこうしたエネルギー政策全体に影響する恐れもある。
6月4日に原油流出事故を起こしたのは、中国国有石油大手の中国海洋石油総公司(CNOOC)が51%、米石油大手コノコフィリップスが49%の権益を持つ海底油田「蓬莱19-3」。
採掘のために油田に注水する際、圧力をかけ過ぎたことで海底の岩盤から原油が流出したとされる。
当初は原油生産を継続しながら、流出地点を巨大なフタで覆うことで押さえ込もうとしたが失敗。現在は原油生産を中止し、流出を止めることに専念している。
ただ、8月になっても新たに流出場所が見つかるなど、押さえ込みにはほど遠い状況だ。中国の海洋資源を監督・管理する国家海洋局はコノコに対し、8月末までに流出を止めるよう求めた。
実際の採掘作業を担当しているコノコによると、これまでに確認した原油などの流出量は約3200バレル。2010年のメキシコ湾での原油流出事故(490万バレル)に比べると桁違いに少ないものの、汚染された海洋面積は東京都の2・5倍に相当する5500平方キロに達した。
今回の事故について、中国政府は1ヵ月も隠蔽し、7月になって初めて事実を公表した。渤海に近い韓国は政府が中国側の情報開示の悪さに抗議したほか、中国産の海産物の安全検査を強化しているという。
今回の事故は、CNOOCを推進役とする中国の海底油田の開発計画に影響を及ぼす可能性もある。CNOOCによると、10年の中国の海底油田の原油・天然ガス生産量は原油換算で約5千万トン。中国の生産全体の2割弱を占める。
中国は経済成長に伴ってエネルギー需要が急増し、09年には原油の海外依存度が50%を初めて突破。11年1~5月には55%まで高まっており、中国政府は国内での油田・ガス田開発をてこ入れする。
ただ、陸上では大慶油田(黒竜江省)などで枯渇の恐れがある。新疆ウイグル自治区など内陸部での油田開発も難航しており、10年に生産が始まった新規油田の8割は海底油田だった。
そこで、CNOOCは中国政府の後押しを受けて15年までに海底油田の開発に最大3千億元を投じ、生産量を2倍の1億トンまで増やす方針だ。
5年以内に深さ3干メートル程度の深海でも開発に乗り出すが、今回の事故の深さは30メートル。技術力のある英BPでさえ、メキシコ湾の深海油田の事故で甚大な被害を防げなかっただけに、CNOOCの対応力には疑問が残る。
中国海洋学会の王詩成常務理事は「環境への影響防止を保証できないなら、拙速な油田開発はやめるべきだ」と指摘する。
今回の事故をきっかけに国内の海底油田の開発が遅れれば、中国は海外での資源の獲得を加速せざるを得ない。
事故の行方は将来の世界の原油相場にも影響しかねない。