▼なにしろ面積は全国の都府県でトップ。東京都が7つも入る。そんな広大な土地だというのに、県内の2市町で産した牛肉から暫定規制値を超す放射性セシウムが出てくると、岩手の牛すべてが出荷停止になった。2市町はともに県の南端。それでも「他地域で規制値を超えない保証はない」と厚生労働省は言う。
▼ことは食べ物の安全と安心だ。健康を考えれば慎重にならざるを得ないのだが、どこかで汚染が見つかれば全県でアウトとは農家にとってなんとむごい話か。名高い「前沢牛」のブランドもある岩手県が受ける打撃はとりわけ大きい。きのうは新たに栃木県の牛も出荷を止められた。波及を恐れぬ産地はなかろう。
▼原発事故の罪を、あらためて思う。事故が起きたころ、どれだけの人が牛肉汚染にまで考えを及ぼしただろう。そういう想像力を持ち合わせてこなかった日本でもあるのだ。童話「グスコーブドリの伝記」で賢治は、イーハトーブの国で災厄と戦う人間を描いた。知恵の力で、大きな困難を乗りこえる物語である。