最高の食材にこだわり、仕入れで一切値切らず
母校近くの工場に郷愁、加工食品の監修務める
食にささげた人生、最後の晩餐も素材ありき
「世紀の料理人」と称されるシェフにまつわる挿話。食材の仕入れでは一切値切らない、というのもその一つだ。
鍋や洗剤の価格を交渉することはあります。でも店で使う生鮮素材は絶対に値切りません。世界一の食材を使わなければ世界一のレストランにはなれない。
わずかでも値切れば、流通業者や生産者は特別においしい食材をよそに回してしまうでしょう。だから支払いも迅速です。待たせたり遅れたりしない。そうしていると、鮮魚商はその日入荷した素晴らしいタイを必ず一番に融通してくれます。
ニンジンで例えましょうか。大きなホテルなら集中仕入れをするので安く手に入りますが、大きくて味気ないニンジンです。それに比べて私か店で使っているニンジンはサイズがそろい、小さく、葉付きで、新鮮でみずみずしい。
目の前で比べてもらえば、私かどれほど食材を大事にしているか分かっていただけるはずです。まず最高の素材ありき。だから三つ星レストランは高いのです。経験ある料理人はそれを知っています。
利益を追いかけ、食材にそれほどはお金をかけない人もいますが、そこに未来はありません。
「良い食材を得る」「技術を体得し仕事への情熱を持つ」「人を愛する」。良いレストランの3条件です。それさえ守れば、高い値段をつけてもお客さんは来てくれます。
自動車で言えば高級レストランはFIです。最高のマシンを最高のエンジニアが整備する。ほかの店は町を走るクルマです。町工場の整備士がみなFIマシンを整備できるわけではないでしょう。だから2つ目の条件も欠かせません。
経営者がこの3条件を熟知していても、プロフェッショナルな人材なしに実現するのは難しい。第1の条件の食材にしても、その食材の必要性が分かるスタッフでなければなりませんから。
最高の舞台で輝く一流の仕事にこだわる一方、対極にある。ような加工食品メーカーとの協業、テレビ出演も辞さない。三つ星イメージとは裏腹の柔軟さが同居する。
テレビの料理番組は知人に「半年くらい出ないか」と誘われ、結局12年の長寿番組になりました。フランスのある総菜会社とは、もう20年、商品開発を一緒にやっています。頼まれると「ノン」と言えないたちですが、この連携にはきっかけがあります。
工場で作る食品にはもともと興味がなかったのですが、その工場は実は、かつて通った中等神学校のすぐ近くだったのです。ノスタルジーをかき立てられました。
厳格な生活でしたが、人生の大切なことを教えてくれた場ですし、それならいいかと感じました。もちろんそれだけで決めたわけではなく、彼らは品質向上に真摯に取り組み、正直でした。添加物を使わない約束も守られています。
はた目には「三つ星シェフがなぜ加工食品の監修を」などと思われたかもしれません。しかし彼らは私のようなプロフェッショナルの知恵を必要としていたし、なにより、品質を高めたいという強い思いがあった。
それは、ひいては食べる人、つまりお客さんの役に立つわけです。だから私は、彼らの依頼を引き受けたことに誇りを持っています。
好き嫌いの多い少年が料理人を志し、フランス料理を変える世界的シェフとなった。食にささげた人生、最後の晩餐 (ばんさん)も素材によりけりだという。
季節はいつか、誰と一緒なのかにもよるかと思います。友人たちと一緒の朝やランチなら、カマンベールチーズやソーセージを切りながら白ワインを1杯、かもしれません。
目の前によい肉があればステーキもいい。もし上質な鶏が手に入ったならローストして、皮はパリパリ、中はうまみたっぷりの肉を楽しんでいるかもしれません。やはり素材ありきです。
天国での話をしますと、神様が「きょうは何を食べる?」といったその時に、その日のメニューを決めると思います。
(聞き手は編集委員 天野賢一)
母校近くの工場に郷愁、加工食品の監修務める
食にささげた人生、最後の晩餐も素材ありき
「世紀の料理人」と称されるシェフにまつわる挿話。食材の仕入れでは一切値切らない、というのもその一つだ。
鍋や洗剤の価格を交渉することはあります。でも店で使う生鮮素材は絶対に値切りません。世界一の食材を使わなければ世界一のレストランにはなれない。
わずかでも値切れば、流通業者や生産者は特別においしい食材をよそに回してしまうでしょう。だから支払いも迅速です。待たせたり遅れたりしない。そうしていると、鮮魚商はその日入荷した素晴らしいタイを必ず一番に融通してくれます。
ニンジンで例えましょうか。大きなホテルなら集中仕入れをするので安く手に入りますが、大きくて味気ないニンジンです。それに比べて私か店で使っているニンジンはサイズがそろい、小さく、葉付きで、新鮮でみずみずしい。
目の前で比べてもらえば、私かどれほど食材を大事にしているか分かっていただけるはずです。まず最高の素材ありき。だから三つ星レストランは高いのです。経験ある料理人はそれを知っています。
利益を追いかけ、食材にそれほどはお金をかけない人もいますが、そこに未来はありません。
「良い食材を得る」「技術を体得し仕事への情熱を持つ」「人を愛する」。良いレストランの3条件です。それさえ守れば、高い値段をつけてもお客さんは来てくれます。
自動車で言えば高級レストランはFIです。最高のマシンを最高のエンジニアが整備する。ほかの店は町を走るクルマです。町工場の整備士がみなFIマシンを整備できるわけではないでしょう。だから2つ目の条件も欠かせません。
経営者がこの3条件を熟知していても、プロフェッショナルな人材なしに実現するのは難しい。第1の条件の食材にしても、その食材の必要性が分かるスタッフでなければなりませんから。
最高の舞台で輝く一流の仕事にこだわる一方、対極にある。ような加工食品メーカーとの協業、テレビ出演も辞さない。三つ星イメージとは裏腹の柔軟さが同居する。
テレビの料理番組は知人に「半年くらい出ないか」と誘われ、結局12年の長寿番組になりました。フランスのある総菜会社とは、もう20年、商品開発を一緒にやっています。頼まれると「ノン」と言えないたちですが、この連携にはきっかけがあります。
工場で作る食品にはもともと興味がなかったのですが、その工場は実は、かつて通った中等神学校のすぐ近くだったのです。ノスタルジーをかき立てられました。
厳格な生活でしたが、人生の大切なことを教えてくれた場ですし、それならいいかと感じました。もちろんそれだけで決めたわけではなく、彼らは品質向上に真摯に取り組み、正直でした。添加物を使わない約束も守られています。
はた目には「三つ星シェフがなぜ加工食品の監修を」などと思われたかもしれません。しかし彼らは私のようなプロフェッショナルの知恵を必要としていたし、なにより、品質を高めたいという強い思いがあった。
それは、ひいては食べる人、つまりお客さんの役に立つわけです。だから私は、彼らの依頼を引き受けたことに誇りを持っています。
好き嫌いの多い少年が料理人を志し、フランス料理を変える世界的シェフとなった。食にささげた人生、最後の晩餐 (ばんさん)も素材によりけりだという。
季節はいつか、誰と一緒なのかにもよるかと思います。友人たちと一緒の朝やランチなら、カマンベールチーズやソーセージを切りながら白ワインを1杯、かもしれません。
目の前によい肉があればステーキもいい。もし上質な鶏が手に入ったならローストして、皮はパリパリ、中はうまみたっぷりの肉を楽しんでいるかもしれません。やはり素材ありきです。
天国での話をしますと、神様が「きょうは何を食べる?」といったその時に、その日のメニューを決めると思います。
(聞き手は編集委員 天野賢一)