先週に引き続いて朝比奈めぐみ関連のお話(余談だが、ブログ内の画像フォルダを見たら日付が2006-10-06となっており、9年も前にこの記事を書いたのかと不思議な感慨にふけったものだ)。もっとも、前回は彼女が作品全体の中で果たした役割について書いたのに対し、ここでは彼女のシナリオそのものに着目している点でやや趣の異なる記事となっている。
このシナリオとともに、ぜひジェーン=スーの『私たちがプロポーズされないのには101の理由があってだな』とか『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』、上野千鶴子らによる『毒婦たち』なども合わせて読むことをお勧めしたい。
ところで、画像からわかる通り(?)年上の妙齢の女性かつ美貌のキャラなので男の影もないのはかえって不自然とばかりの展開は別にいいのだが(主人公の側=患者との「お手当て」を選び取るという演出的な意味合いもあることだし)、行為の際にわざわざ「処女じゃなくてごめんね」とか言わせるのは興ざめも甚だしい演出である。その理由は、このセリフが非常に浮いていて、プレイヤーに対するエクスキューズにしか聞こえなったからだ。
そもそも、処女を有難がる人間というものは相手を自分色に染められるとか思っているのかもしれないが、要するにその人の関係性の履歴を否定していることに気づいてるのだろうか?「相手に純粋性を求める」と言えば聞こえはいいが、例えば何ら後ろ暗いところや失敗した経験のない相手を求めるということ自体(誤解のないように言っておくが、処女を失うことが後暗いとか失敗ということではない)、随分と独善的かつ狭量な人との向き合い方ではないか。
人間というものがどれほど愚かで自分勝手かということなど、自分を虚心に省みればすぐに思い至るはずだ。とするなら、上記のような態度で女性(もっと広く言えば人間全般)に対する者は、相手を人間扱いしていないと言っても過言ではない。だったらお前らもうロボ子でいいじゃんと思うんだけどいかがでしょう。まあ後はそういう連中が自分のナイーブさをピュアさと勘違いして毒を振り撒かなけりゃいいんですがね。
[原文]
前回、朝日奈めぐみが全体の中で果たしている大きな役割について指摘した。よってここでは、朝日奈めぐみ自身のシナリオについて述べてみたい。なお、前回と同じく覚書を載せ、下でやや詳しく解説という形にしてある。
(覚書)
森野診療所に勤める看護婦。人手不足の診療所で働く現場の厳しいお目付け役でもある。彼女が言う医療に携わるものとしての心構えなどは、恋愛ゲームにあって医療に関する思考を失わせない重みを持っている。医者の卵として多くの患者の「お手当て」に関わっていくゲームという特性と緊張感を、朝日奈の助言や叱責が上手い具合に演出していると言える。特につばさのシナリオで水に濡れさせてつばさに熱を出させてしまう裕作を叱るシーンは圧巻。普通の仕事なら厳し過ぎるような叱責も、常に患者の命というものを考えて行動しなければならないという責任感・緊張感を問われる医療業務だからこそ必然性があるものと言えるだろう。そしてこのような強い職業倫理観を持っている朝日奈だからこそ、シナリオ終盤の「心が擦り切れた」という告白に非常な重みがあるのだと思う。シナリオ事態はスタンダードな感じだが、仕事に疲れて「優しくしてくれるひと」(しかも大病院の御曹司)に惹かれるとか、同年代の友人に相談したらみんな「仕事やめて結婚以外ありえない」と助言するなど、現実的で等身大なところは他のシナリオの比較という意味でもよくできていると思った。また、そういった状況にある朝比奈を、医者の卵でまだ理想を強く持っている裕作が励ますという構図はよくできている。
(解説など)
朝日奈のシナリオは、仕事に疲れた朝日奈が仕事と結婚で迷った末、主人公に励まされて仕事を続けていくというもので、枠組みだけ書くと何ともありきたりな内容である。しかしその中身を検討すれば、そこに説得力と迫力が伴っているのに気づくだろう。前回朝日奈が本作の緊張感を演出する上で非常に重要な役割を果たしていると書いたが、それをキャラの性格という視点で見れば、朝日奈の仕事への厳しさや責任感の強さが表れていると言える。それを随所で見てきたプレイヤーは、朝日奈の必死で厳しい姿を熟知しているがゆえに、彼女の「心が擦り切れた」という言葉に対して強い必然性と説得力を感じることができるだろう。そしてそこから、朝日奈の友人の「仕事をやめて結婚する以外ありえない」という発言に動揺したり、あるいは「優しくしてくれるひと」に惹かれるのも流れとして納得できるようになると思う。そして最終的には、高い理想と責任感を持って仕事をすることに疲れた朝日奈だからこそ、駆け出しゆえに荒削りな情熱も持っている医者の卵=主人公に惹かれ、理想を取り戻して仕事に復帰するという話がうまく成立するのである。
このように朝日奈というキャラクターの土台がしっかりしているからこそ、そのシナリオの展開が説得力のあるすばらしい内容になっているのだと結論できる。
(シナリオ評価点)=95点
短いながらもかなり評価は高い。それもこれも、朝日奈の感情や行動に強い必然性を感じるからに他ならない。そしてその理由は、朝日奈の仕事に対する厳しい態度と責任感が随所でしっかりと描写されているところにある。この土台があるからこそ、そこから生まれる葛藤や疲れにも説得力と必然性が備わるのだ。また、主人公に朝日奈が惹かれる構図もしっかりと組み立てられているところも評価できるだろう。
これで朝日奈の評価は一通り終わった。ちなみに次回は、離加等メーのシナリオ&キャラ評価をする予定である。
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