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スメラ~想いをカタチに~

スメラは想いをカタチにするコミュニティーです みんなの想いをつなげて大きな輪にしてゆきましょう

【あとがき ―今さらなのに今なのか―】

2015-06-11 09:26:19 | 【三茶物語】


「恋愛初期」はプロスポーツ選手でいうところのZONEに少し似ている。
ボールが止まって見える、身体が風になっている、そんな状態だ。
相手が全てになり、時間が二人の為に流れる。
厳密には違うが、脳が異常になっている点では共通している。
いつもの自分ではなく、日常の思考パターンから外れるので、自ずと行動も変わる。
それでいて不思議なのは、まぎれもなく自分であることだ。

あれから5年が過ぎ、やっとこさ結婚に辿り着けた。恋愛初期は相手を見ているようで、結局は自分を見ている。ベクトルは自分に向けられている。ある時期を過ぎればZONEは当然なくなっており、ベクトルは自分ではなく、相手にも向けられていく。お互いが共に生活し生きる上での理解と摩擦を繰り返す。

それは非日常ではなく、日常の中で。異常ではなく正常な状態で。

ただこの恋愛初期の異常や視野の狭さを否定するという訳でも、ダメだというわけではない。むしろ本当に素敵だと思う。今回物語に込めることで改めてそう思えた。
そして二人で継続して生きていく中で、この特別な状態は、恣意的に意志的に作っていくことが二人の成長には欠かせなくなってくる。それがライフイベントで、結婚だったり、子供の誕生だったり、家を建てたりというところに繋がっていく。ただそれは一般的な話であって、それぞれの関係にそれぞれの過程、ライフイベントがある。それを経ることで、関係性の個性が生まれ、絆は深まる。その営みはよくよく見ればドラマチックだ。

成長を促すものとして、異常時が故の出逢いというのがある。
5年前、相当BARに行っていた。ここに紹介していない素敵なBARもいくつかある。人生の中で、あんなに夜出歩いていたことはなかった。特別な時だった。

だから今はここに描かれているBARやお店には行っていないというのが現実だ。
実はそのほとんどがなくなってしまった。

「BABY BABY BABY」「Bel canto」「MORINOKO」「RIPPLE」は閉店している。
「JUNK DE COTE COTE」も下北沢のお店は閉店。
「LOVIN’G POWER」「LOVEL」「麺屋 かまし」は営業している。

ただその店さえもずっと行っていない。

ZONEの時を過ぎたといっても、これだけ人生に大きな影響を与えてくれた舞台に対して、あまりにも薄情な自分がいる。

だからこの作業を通して、改めてマスター、スタッフの方たちにお礼をお伝えしたいと思う。
今はカタチが変わったり、ないかもしれない、でもここに生きている。

その店を作った想いの波紋が、確実にそこを訪れた人たちの人生に大きな影響を与えた。
その一つがここ【三茶物語】の中にある。

不義理で薄情な自分ですが、心から御礼申し上げます。

ありがとうございました。
そして元気でやっております。

想いが種であれば、その芽が育つ土壌が「街」にあたる。
三茶は、物語が生まれる土壌が肥沃で豊かだ。

CARROT TOWER 26F ここからまた想いの種を飛ばす。それはタンポポの綿毛のように小さく儚い。ただそれが根に着いた時、しぶとく、強く、コンクリートをもぶち抜く。

この舞台を作った方たちのように、自分も何かを作らなくては、改めてそう思えた。

我慢強くお読み続けて下さったみなさまへ、心から御礼申し上げます。
ありがとうございました。
皆様の物語の発動に少しでも力になれればと思っております。
                              <shige!>


【約束】(17)

2015-06-06 10:18:58 | 【三茶物語】

CARROT TOWER 26階。夜の世田谷。
100万ドルではないが、灯る明りは万色で多様。喜怒哀楽。悲喜交々。
ラウンジからはグレンミラーの“ムーンライトセレナーデ”が流れている。


あの日のあの声の主は誰だったのか?その問いをずっと持ち続けてきた。
そして辿りついた答え、それは自分の中にあった。

5年後の自分。すなわち今の自分だ。

人は幸せになるために生まれてきた。

ならば、「お前自身が幸せになれ」

だから、時空を越えて、その瞬間を圧倒的な力でサポートをする。
それは力ずくでも。

だから約束を果たす時が来た。
この物語を完結すること、この物語の力が、5年前の自分に勇気を与えるのだ。
Finの3文字が、soulを与える

三茶は今日も動いている。そして小さな出会いがあり、旅立ちのための別れがある。
その営みはずっとつづく。

どこにでもありそうで、三茶にしかない物語がある。
その物語はここから始まる。

Fin


【Ash tray –灰皿-】(16)

2015-06-06 10:04:16 | 【三茶物語】

世田谷通りを三茶方面に進んでいくと「Junk de cote cote」(ジャンク デ コテコテ)というJAZZ&SOUL BARがある。下北沢にも店舗があり、2店舗展開しており、そっち方面のレコードの所蔵数は図書館級で、アーカイブになっていた。ただBAR好きという人にしてみると、そこまで敷居は高くなく、カウンターがあり、酒があり、煙草があり、いい音楽がある。必要条件は十二分に満たしていた。

RIPPLEでの切り札を外し、プランをなくした自分にとって、JUNKは偶然回ってきた赤いQUEENで、渡りに船だった。
2人で店に入ると、店の方はカウンターではなくすっとテーブル席を案内した。暗がりのテーブル席にピンスポットが1本細長いエッフェル塔のようなシルエットで照らされていた。
ずっと横に並んでいたが、JUNKでは向かい合って座った。
コアントロートニックとカシスウーロンを頼むと、話すこともやることもなくなった。そこにはやるべきことのみが残った。カウンターと離れているから何も阻害要件がなかった。
変な間があり、妙な沈黙があった

耐え切れず世間話をしようとした。すると・・・頭の後ろを軽く小突かれた。
背後には誰もいるはずがない。

そしてまた世間話をしようとすると、今度は背中を軽く押された。

< Say it ! >(言いなさい!)

心臓を中心としたイメージの波紋が身体中に広がった。

< Say it! >(伝えなさい!)

意識外から来るそのメッセージに「何だよ!」と食い下がるも、その伝えたい意味は真っ当で的確だった。

「聞いてほしいことがあるんだ・・」
そうなんとか切り出すとまた沈黙になる。
「うん」
彼女も言葉を待っている。

傷つくの恐れている。これまでの負け癖から、断られても傷つかない逃げ道を探している。
しかしどの道、そんな逃げ道などあるはずもなかった。目の前には彼女がいるだけだった。

すると今度は両肩を揺さぶられた。何もないはずなのに力強い圧があった。
<大丈夫だから!>
体幹に激震が走った。頭を木製のハンマーで殴られた衝撃だった。

後ろを振り向き、もうわかったよ!と声なき声を発し、勢い彼女にその言葉を発した。

「ゆっきーのことが好きになりました。お付き合いして下さい。」

そう言って、テーブルに両手をつき、土下座をしている自分がいた。
10も年下の彼女に、その様は格好悪かった。
すると・・・

「よろしくお願いします。」

そう言ってお辞儀している彼女がいた。

一瞬時が止まった。
通常ドラマではホイットニーの“I will always love you”が流れてくるところだったが、目と耳と状況を疑った?

なんとリアクションし、なんと応えることがいいのかを経験上持ちあわせていなかった。
だからこう答えた。

「本当に大丈夫?返事はよく考えてからでいいよ。」

全くよけいな言葉だった。後日彼女はこの発言を聞き、(この人頭がおかしいんじゃないかと思った)と口述している。

「本当にいいの?」

彼女は黙ってうなずいた。そこには意志があった。

「ありがとう」

そう言って、次に何をすればいいかを探した。目の前に灰皿があった。それを彼女に差し出した。すると彼女がこういった。

「いいのいいいの、煙草はやめたんだ。」
「ああそう。最近?」
「だってしげさん煙草吸ってなかったから・・・健康によくないしさ。」

その時初めて、この気持ちが一方通行でないことを認識できた。
「健康によくないしさ」は余計だったが、その表現が現すのは彼女もまた今まで傷ついてきたことを意味していた。言葉の予防線は自分だけではなく、彼女もまたどこかで自信を探していた。その探している感が、彼女と二人で生きる意味に繋がっているような気がした。

自分の気持ちを素直に伝える、こんなシンプルなことが結構難しかったりする。ある意味それこそが大人の証明かも知れなかった。そんな2人が、自分を変えようともがいている。
好きだという気持ちをコミットするのにじたばたしている。それは不様な姿だったかもしれないが、こうやって2人が始まったのもまた確かな事実だった。

帰りに彼女を家まで送った。送って帰れることが2人の進展だった。それだけで世界が輝いて見えた。

家に着くと「お茶でもしていく?」と彼女は誘ってくれた。

「明日があるから」

そう答えた。映画のようだった。告白することで2人であることに時間ができた。これでその日は十分だった。そして今日だけではなく2人でいることの未来も心から大切にしたかった。そのための明日だった。

自分を中心に宇宙がまわっていた。
「自分のこと大好き」、そう答えた彼女に近づけた気がした。
それが2010年4月18日の出来事だった。
三茶に来て2度目の春だった。



【潜水艦】(15)

2015-06-04 00:37:02 | 【三茶物語】


2件目の店「RIPPLE」(リップル)へ向かう。この店は環状7号線と若林の交差点の近くにあるダイニングBAR。看板も入口も小さく、19世紀末に出来たような西洋の木製の扉だった。その扉を開け、地下の階段を下っていくとそこには自動車工場を改築したBARが広がっていた。そこはまるで地下の秘密基地のようでもあり、潜水艦に入っていくような感じでもあった。奥にはステージがあり、ちょっとしたLIVEもやっていたようだった。その向かいには大きなビジョンに映像が流されていた。BAR巡りをしている中で、もし女性を誘うならこの店だと思っていた。この店は切り札だった。物語が始まるには格好の場所だった。

思っていた通り、彼女はRIPPLEのその空間を喜んだ。
「すごいね。」
「こんなとこ知らなかった。」
初めてRIPPLEに入った時、映画のロケやTVのセットのようなその空間は自分をわくわくさせた。誰も知らない場所、でも大切な人にだけは紹介したい場所。そんなところだった。
ラムコークとマリブコークをオーダーし、シチュエーションは整った。

すると店の方が話しかけてきた。
「初めてですか?」
「いつもはどの辺で飲まれてるんですか?」
これはご挨拶にあたり、HELLOやBon soirのようなもの。
そしてこのやりとりからBAR通いは始まるもの。普通は。ただその日は目的があった。
そう「告白」だ。

一方で、どこかでまだ緊張とタイミングを探している自分にはちょうどよかった。
そこから音楽の話になり、SOULの話になり、マイケルの話になり、「We are the world
」の話に広がった。場は盛り上がったが、風向きが変わった。
お店の方は、いそいそとオーディオセットに向かい何やら設定を始めた。すると流れてきたのが「We are the world」のイントロ。そして大きなスクリーンに 「We are the world 」のメイキングビデオが映し出された。前回のカラオケの流れもあり、二人というか、店の人も含めてそのスクリーンに視線が集まった。お店の方のご好意だった。今度は2人だけではなくRIPPLEいる人たちみんながその曲に聞き入った。そして再び三茶に世界平和は舞い降りた。

つまり、それは前回のあの「微妙」が舞い戻ってきたことも意味していた。

(このままではいかん・・・)そう心の中で思っていた。

時間は22:00を回っていた。そして彼女にこう言った。

「もう一軒だけ付き合ってくれない?」
「飲むの好きなんですね。でも明日仕事とか大丈夫なんですか?」
「大丈夫、大丈夫!」

仕事は大丈夫ではなかった。大事なお客様とのアポイントがあった。
しかし明日の大事も、今日の重大事を越えなければ明日は来ない。

彼女が3軒目を付き合ってくれる。
運命の引力がこの瞬間に集中していた。

RIPPLEという名の潜水艦から地上に上がり次へ向かった。
月がきれいだった。


【3度目のHONESTY】(14)

2015-06-03 00:59:17 | 【三茶物語】

3度目の待ち合わせは、ホーム松陰神社、若林地区だった。
自分をわかってもらうには適切な選択だった。

まず1件目は、「麺屋 かまし」。世田谷通りと世田谷区役所を結ぶ交差点にあるじゃあじゃあ麺屋さんだ。店主の湊さんは岩手県出身で、地元のソウルフード、じゃあじゃあ麺を自分流にアレンジして提供していた。

自身の出自とやっていることが一致している。
やりたいことをやり、やるべきことを生きている。

そして最も尊敬していたポイントは家族をしっかり守っているということだった。

「麺屋 かまし」をやる前は、ご夫婦で「ぶっかけ屋」というご飯屋兼、BARをやっていた。とろろご飯におくらと生卵そしてだし汁をかける。シンプルだが栄養があってうまい。そしてかるく一杯できてご夫婦2人とのたわいもない世間話が楽しかった。

大井町のWombを始める時期とちょうど重なっていたので、想いをカタチにしたその店に行くことは大きな刺激でもあり、勉強でもあり、楽しみでもあった。

その流行っていた店を閉めて、「麺屋 かまし」をやるという。しかもそのタイミングで、奥様がご懐妊となった。大仕事が重なった。

やりたいことをして生きる・生きたいように生きる、それは聞こえは素晴らしいが大変で過酷なときもある。自分にしかできない人生とは、世界に一つしかないオリジナルな人生。道なき道を作る作業だ。リスクをとって、自分の実現したいことを優先し、それで家族を養っていこうと決めた。男としてこんなに魅力のある男はいなかった。当時30前半の彼は目指すべき対象でもあった。

そのお気に入りの場所に彼女を連れていった。かましのじゃあじゃあ麺は食べ方が独特で、残ったそぼろ肉にだし汁を入れて、生卵で溶く。締めのスープがまたうまかった。食べ方そのものが新しく、エンターテーメントになっていた。彼女にその食べ方をレクチャーする。それはほのぼのとしたいい光景だった。早い時間帯だったこともあり、湊さんも会話に加わり温かい和みの時間が過ぎた。

それだけで関係性は好転し、深まる。ただ今日はそれで終わりという訳にはいかなかった。

もう「微妙」も「空振り」も嫌だった。
今日告白すると決めていた。

【WE ARE THE WORLD】(13)

2015-06-02 05:09:12 | 【三茶物語】

赤いスイトピーの洗礼に対して自分といえばこんな感じだった。

「いーじゅー☆ライダー」から始まって、「情熱の薔薇」(THE BLUE HEARTS)、「壊れかけのラジオ」(徳永英明)、「チェリー」(スピッツ)、最後に「WE ARE THE WORLD」。

「WE ARE THE WORLD」って?

選曲はセンスが出るが、この曲以外は思いつかなかった。1985年発表で、チャリティソングの代表曲。詞・曲/マイケル・ジャクソン、ライオネル・リッチー。編曲/クインシ―・ジョーンズ。今は勿論、その時にも殿堂入りが確実視されているアーティスト45名が集結してレコーディングした音楽史、人類史上、もっとも稀有でチャレンジングな名曲。

♪ There comes a time when we heed a certain call
 when the world must come together as one…….

レイ・チャールズ、スティビーワンダー、ダイアナ・ロス、ブルーススプリングスティーン、シンディ・ローパー、ボブディラン、ディアンヌ・ワーウィック・・・
層層たるセレブが一同に会した。

♪ There’re people dying and it’s time to lend a hand
to life the greatest gift of all

もっとも個性を大事にしているアーティストが、プライドや虚栄心を脇に置き、この曲のために、この目的を果たすために全てを注いだ。

♪ They can’t go on pretending day by day
that someone, somewhere will soon make a change

歌が、エンターテーメントや文化を越えて、社会と深く関わりを持ち、音楽の力を世界中に知らしめた。

♪ we are all a part of god's great big family
and the truth, you know,love is all we need

それは国歌でなく、世界歌、地球歌に値する。その曲を歌った。たかがカラオケなのに、こんな大げさな解説も説明もいらないのにこの曲を選んだ。

♪ We are the world . We are the children.
We are the one’s who make a brighter day so let’s start giving !
there's a choice we're making. We're saving our own lives.
It’s true will make a better day just you and me.

2回目のさびで衝撃が走る。彼女が肩を組んできた。そして一緒にマイクを持って歌い始めた。

♪ We are the world ….( We are the world…)
  We are the children … (we are the children…)
  We are the ones who make a brighter day so let’s start giving
  ( so let’s start giving !)

絶妙なコール&レスポンスだった。そこにはSOULがあった。三茶の赤いJOY SOUNDに世界の平和は舞い降りた。

そしてその時が、彼女に触れた初めての瞬間だった。

祭りのようなエンディングでカラオケは終わった。

「すごいね!肩組んで歌うの。」
「だってそういう曲じゃない?」
彼女は当然のようにそう答えた

次は松陰神社あたり、つまりは自分のホームエリアで飲むことを誘った。それはすんなりOKだった。

帰りに一人世田谷通りを自転車で漕ぎながら反省会をした。

「WE ARE THE WORLD」は30年経っても、国を越えてその力を発揮した。その力は偉大だった。

でも・・・

世界平和は素晴らしい、気持ちもいい。触れたのもいいし、距離もない。

でも、肩組んで歌うか?

ワールドピースは確かに大事。美しい。しかしそれは異性も越えたヒューマンな繋がりでキャンプファイヤーならそれはパーフェクトだった。ただそこはちょっとだけ行き過ぎだった。

宮沢賢治はいっていた。
「世界全体が幸せにならないと個人の幸せは訪れない」

それだけに個人の幸せもまたより重要なはず。
これで本当によかったのか・・・?
友達以上恋人未満の曖昧さは、今までの経験上「微妙」だった。

それを打破するにはコミットすることが必要だった。

【シングルマッチ】(12)

2015-05-30 19:14:38 | 【三茶物語】

歌には人間が出る。
詞、曲、歌い手の三身一体が、歌の真情。それと同じように、歌力、心、選曲はカラオケの肝。
そして自分を知ってもらう、相手を知るにはもってこいだ。歌唱力なんてのはあればいいけれど、それは2の次、3の次で、要は楽しめてるか、開かれているか、自由になれているか。選曲にはセンスと歴史と時代がでる。他にはスタッフがお茶を持ってくる時のきまずい間や、曲の選び方や、キー操作やリモコン操作、つまりはカラオケにまつわるTPOの中に個性が出る。人間が出る。

先行は当然誘った自分から。「いーじゅー☆ライダー」奥田民夫の名曲。ゴングを鳴らした。ジェネレーションギャップが少なさそうで、自分らしくて、比較的長い曲。カラオケに後ろ向きな彼女が選ぶ間を配慮した選曲だった。

そして彼女が選んだ曲が「赤いスイトピー」だった。言わずもがな、80年代代表のラブソング。松本 隆と松任谷由美という豪華なタッグで楽曲を提供し、20世紀代表のアイドルの象徴:松田聖子がその曲を歌う。

♪ 春色の汽車に乗って、
海に連れて行ってよ
煙草の臭いのシャツにそっと寄り添うから

SOUL好きの、プリンス好き。学生の時は吹奏楽でクラリネットを担当。本格派、個性派の彼女が選んだのは「赤いスイトピー」だった。

♪ 何故知りあった日から半年過ぎても
  あなたって手も握らない

この曲は彼女が生まれて翌年の1982年1月にリリース。自分が10歳のころの曲。その曲を高いキーでアイドルのように歌う。

♪ I will follow you あなたについてゆきたい
  I will follow you ちょっぴり気が弱いけど素敵な人だから

歴史・時代の原型、それは普遍性に繋がる。大きな時代の、たくさんの人たちの青春を通り、記憶と想い出のどこかで佇んでいる。  

♪心の岸辺に咲いた赤いスイトピー

春色は何色か、赤いスイトピーは本当にあるかどうかもわからなかったのに、その時代を生きた人ならば、春色が何色で、スイトピーは「赤」という共通の記憶を持っている。

そして彼女の声は時代を越えて、その時少年だった自分にも繋がっていた。

他に彼女が歌った歌と言えば、「恋に落ちて」「なごり雪」「想い出の九十九里浜」昭和の名曲、佳曲がつづいた。

「お前いくつだよ!」そう心の中でつっこんでいた。ただこの選曲たちは自分を安心させた。世代の溝より、原型の共通感の方が大きく感じられた。

そして一所懸命歌う姿が愛おしかった。


【CARRY OK】(11)

2015-05-29 14:47:42 | 【三茶物語】

どこだったらデザートなんかあるんだっけ?とあせる自分がいた。
デザートなんて観点で三茶に出かけたことはなかった。
彼女が来る。2人で会う。これは自分史の事件に値する。そして店選びはセンスが問われる。

結局、三茶のりそな銀行の裏にある【LOVEL】(ラブル)にした。その店は多国籍料理を出すダイニングバーで、お酒もある。カウンター、テーブルも6つぐらいで、大きすぎず、狭すぎず丁度よかった。さすがにファミレスという訳にはいかなくてデザートがあるかはよくわからなかったが、雰囲気でその店に決めた。事前に2回ぐらい行っていて味は間違いない。チェーン店ではないので、オーナーの色、シェフのセンスが店を作っている。

車を置いて、急いで店に向かう。背中は汗をかいている。彼女とほぼ同時ぐらいにつき、After youで彼女を奥の席に座ってもらい、オーダーする。ワンプレートの感じのいいデザートがあり安心する。サーモンのサラダとパテ、そしてジントニックをオーダーする。

「ご飯食べるの早いね。」
「お腹すいてたからね。」
「何食べたの?」
「グリーンカレー、簡単だからね。」
「自炊してんるんだ」
「簡単なものはね。早く帰ってきた時はそんな感じかな。」

たわいもないが、このすんなり感がありがたかった。まだ酒が入る前だったから、こちらはどこか緊張は続いていた。そして彼女も気を使っていた。

「いつも帽子かぶってるから、頭海老蔵だと思ってた。髪あるんだね。」
「いつもハンチングだからね。少し食べる?」
「うん頂く。」
「フォーク下さい。」

とにかくこの日は、彼女が来て、会ってくれる。その事実でお腹も気持ちもいっぱいだった。
そして聞く、気になってた例のことを。さりげない演技で。

「あの気になる先生とはどうなったのさ?」
「あれ、もういいの。」
「なんかあったの?」
「別になにもないけど、もういいんだ。」
「いいならいいけど・・」

感情の輪郭が見えてきた。ひょっとすると、いやひょっとしなくても魅かれている自分がいる。まだ手遅れじゃない。

「また誘ってもいいかな?」
「いいですよ。」

ここまではよかった。ここまでは。

「次はカラオケでも行こうか?」そういうと、返事が曇った。

「まあね・・」

翌日も仕事だから、その日はそれでお開きに。家まで送りたかったが、そこはまだ早いだろうということで、そこでさよならした。

それどころではない状況を越える人がいる。混沌としながらも、繋がった水脈の流れは止まらなくなっていた。それはどこに向かって流れているのかはわからなかったが、その流れの中には、自分で作っているという自覚があった。そして意志もあった。先は見えなくても、その流れを泳いでいる自分がいた。ゴールはある意味どうでもよかった。

3年閉じ込めていたsoulを自由にした。鍵を開けた。
もう自分の中では始まっていた。

だから強引でもカラオケだった。求愛する孔雀のように翼を開きたかった。歌にはそんな力がある。みっともなくても、下手でも、自分を知ってもらいたかった。それでだめならそれでもいい。空振りするならフルスイングでしたかった。そして次回、彼女は嫌なのにカラオケにいくことになる。

というより付き合わされる。


【デザートなら】(10)

2015-05-28 04:18:49 | 【三茶物語】

祝!開通☆道ができた。それはずっと掘り続けた水脈が繋がった瞬間だった。
数行のメールを何度も何度も読み返した。寝転がって足をバタバタして喜んだ。そして喜びながら眠っていた。

翌日はもちろん仕事、回っているエリアは千葉の茂原だった。茂原は日本で唯一天然ガスがとれるところで、ガス料金がとんでもなく安かった。それは営業する上で致命的だった。それでも同乗の車に仲間を2人乗せて管理していた自分は弱音は言えなかったし、なんとかチベット・中国の旅の資金、帰ってからの生活を支えるために結果が欲しかった。ただうまくは行かなかった。出発まであと1カ月半。焦りが仕事を空回りさせていた。帰るときは、いつもラジオを聞いていた。夕方の首都高に入るといつも道は混んでいた。そして晩めしについて考える。そんな時、彼女のメールを見る。車の時計は19:00を回っていた。

渋滞の中、道路交通法上は違反のメールを打つ。ドキドキしながら。

「もしよかったらご飯でもどうですか?」。

この文面に辿りつくため5,6回見直し、書き直した。
それで、「もしよかったらご飯でもどうですか?」。
渋滞のペースはちょうどよかった。
社交辞令か、愛想の安売りか・・・それとも返信を期待していいのか?鼓動はバクバクで、脈は光の速さで打っていた。

すると携帯が光った。

「ごはん、食べちゃいました。デザートならいいですよ。」


【始まり】(9)

2015-05-27 06:26:10 | 【三茶物語】

2回BABY以外で一緒に飲んでいる。どんなに人見知りでも、彼女は少なくとも顔見知りだった。マスターも彼女の隣に導いた。しけた顔をしていた表情が少し緊張に変わった。

チャイナブルーを頼んだ。ライチリキュール、グレープフルーツジュースにブルーキュラソーを加えステアする。グラスの中がパラオの海になる。

何かを察したマスターは、曲のリクエストを促した。

「何かかけましょうか?」

「じゃ、MY GIRLを」

テンプテーションズのMY GIRLは、映画「MY GIRL」の主題歌に使われていた。なぜかその曲が好きだった。馬鹿の一つ覚えのようにいつもこの曲をリクエストした。またBABYで酒を飲みながら聞くMY GIRLは格別で一瞬で鬱のモードは消え去り、気持ちは自分が生まれたばかりの1972年のアメリカに飛んだ。緊張も和らぎ一息つけた。少し自分が還ってきた。

「映画、何が好き?」彼女に聞いてみた。

「あのウーピーが出てる、尼さんのあれ・・・」
「『天使にラブソングを』だよね」
「そうそうあの2(ツー)の方!オープニングのところ!あたし背中ゾクゾクしちゃった」

SOULのことはそんなに詳しくないけれど、この映画についてはよく知っていた。
ウ―ピー扮するラスベガスのシンガー、デロリスが、修道女になって、崩壊寸前の教会や、廃校寸前の高校を、歌の力で立て直すコメディ映画。
その映画を田舎の劇場で観たとき、自分も確かにゾクゾクした。それ以来、いつかはゴスペルをとの気持ちが高まり、一時期ゴスペルをやっていた。自分もその映画が好きだったし思い入れがあった。
ようやく彼女との共通点が見つかった。置いてきぼりではない。シュープリームスが好きなのもここに繋がった。MOTOWNの話からマイケルの話に広がり、彼女のお気に入りはプリンスだということがわかった。81年生まれでプリンスはちょっと渋かった。その特異なセンスに素直に魅かれた。話はSWINGした。

1年前にオーストラリアに行ったこと、行ってみたい国はスペインだということ、これからも海外にはどんどん行きたいと思っていること。今まで彼女との間にあったバリアを通り抜けてどんどん入ってくる。そしてこちらの相槌もうなずきも、話も、沈黙も。どんどん流れ回って行った。そして彼女に聞いてみた。

「基本、自分のこと好きでしょ?」

するとためらいもなくこう答えた。

「あたし、自分のこと大好き。」

そう言い切った。満面の笑顔で、足を組みかえた。そして煙草に火をつけ一服ふかした。煙がこっちに来ないように換気扇に向けていた。

人の種類に陰と陽があるならば、彼女は陽の人、光の人だった。夜のBABYには少しまぶしかった。「彼女は幸せになる」その確信はより強固になった。

気づくと店に入る前のシケ顔はなくなっていた。思いもよらぬ楽しいひと時を味わった。そして一杯のシンデレラアワーは終わった。時計は0時を過ぎていた。翌日も朝から仕事。お会計だ。おあいそが終わるとマスターがこう振った。

「二人ともメアドとか知ってんの?」

一瞬時が止まり、脳に空白ができた。この世界に天と地の線を分かつ瞬間があるとしたら、きっとこの時だろうと思う。日常の中にも見えない時の線がある。見えはしないが明確に濃く。それは歴史の年表のように。

そしてテクノロジー万歳、赤外線によるアドレス交換。見えない線で音もなく繋がっていく。PC、携帯音痴の自分が現代のテクノロジーによって流れた瞬間だった。それまで赤外線のことは馬鹿にしていた。マスターのあの一言が、彼女との実線・虎ロープを消し去った。

それまではBABYの大切なお客様、それはそれで変わらないが、この一言でマスターの御墨を頂けたと思った。

マスターは司祭だった。

いいんだ、素直になって。

そして家路につく、上馬の6畳一間のアパートに。程なくしてメールの受信。

「登録しました。よろしくお願いします。」

それが二人の始まりだった。