歌には人間が出る。
詞、曲、歌い手の三身一体が、歌の真情。それと同じように、歌力、心、選曲はカラオケの肝。
そして自分を知ってもらう、相手を知るにはもってこいだ。歌唱力なんてのはあればいいけれど、それは2の次、3の次で、要は楽しめてるか、開かれているか、自由になれているか。選曲にはセンスと歴史と時代がでる。他にはスタッフがお茶を持ってくる時のきまずい間や、曲の選び方や、キー操作やリモコン操作、つまりはカラオケにまつわるTPOの中に個性が出る。人間が出る。
先行は当然誘った自分から。「いーじゅー☆ライダー」奥田民夫の名曲。ゴングを鳴らした。ジェネレーションギャップが少なさそうで、自分らしくて、比較的長い曲。カラオケに後ろ向きな彼女が選ぶ間を配慮した選曲だった。
そして彼女が選んだ曲が「赤いスイトピー」だった。言わずもがな、80年代代表のラブソング。松本 隆と松任谷由美という豪華なタッグで楽曲を提供し、20世紀代表のアイドルの象徴:松田聖子がその曲を歌う。
♪ 春色の汽車に乗って、
海に連れて行ってよ
煙草の臭いのシャツにそっと寄り添うから
SOUL好きの、プリンス好き。学生の時は吹奏楽でクラリネットを担当。本格派、個性派の彼女が選んだのは「赤いスイトピー」だった。
♪ 何故知りあった日から半年過ぎても
あなたって手も握らない
この曲は彼女が生まれて翌年の1982年1月にリリース。自分が10歳のころの曲。その曲を高いキーでアイドルのように歌う。
♪ I will follow you あなたについてゆきたい
I will follow you ちょっぴり気が弱いけど素敵な人だから
歴史・時代の原型、それは普遍性に繋がる。大きな時代の、たくさんの人たちの青春を通り、記憶と想い出のどこかで佇んでいる。
♪心の岸辺に咲いた赤いスイトピー
春色は何色か、赤いスイトピーは本当にあるかどうかもわからなかったのに、その時代を生きた人ならば、春色が何色で、スイトピーは「赤」という共通の記憶を持っている。
そして彼女の声は時代を越えて、その時少年だった自分にも繋がっていた。
他に彼女が歌った歌と言えば、「恋に落ちて」「なごり雪」「想い出の九十九里浜」昭和の名曲、佳曲がつづいた。
「お前いくつだよ!」そう心の中でつっこんでいた。ただこの選曲たちは自分を安心させた。世代の溝より、原型の共通感の方が大きく感じられた。
そして一所懸命歌う姿が愛おしかった。