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【サンパウの朝 ーa morningー】〈17〉

2016-10-04 23:52:23 | 【バルセロナの紺碧(azur)】
いつもと違う朝の気配で目が覚めた。普段ならまどろみを堪能し、なかなか起きれないのが日常のはずだが、旅の非日常は両瞼をぱっちりと開かせた。朝の6:30だった。

身体は軽くなっていた。バルセロナは東京より重力がかかっていない感じがした。
彼女はぐっすり眠っている。静かにカーテンを開け窓を開いた。すると・・・・
世界遺産のサンパウ病院が目の前に広がった。朝焼けで、赤いレンガが優しく光っていた。どこかから鳥のさえずりが聞こえた。一瞬でバルセロナ感に包まれた。夢ではない、間違いなくスペインにいる。予約をするとき、部屋によっては、サンパウ病院が見えるというのはわかっていた。彼女にその部屋を準備したかったが、いかんせん予算のこともあり、どの部屋があたるかは時の運だった。希望していた部屋で、心底嬉しかった。彼女のためとはいいつつ、自分が一等喜んでいた。朝から感動していた。その光景は一気にスイッチを入れた。

部屋を一人で出て、ホテルの周りを散策した。東京はこれからが梅雨だという時だったが、バルセロナは地中海性気候で空気はほどよく乾き天気がよかった。石畳の歩道をNBの茶色のスニーカーで歩いた。バルセロナの朝だ。金曜日、早めの通勤をしている人の姿があった。幾つか開いている雑貨屋やカフェがあった。アジアの旅行者が早朝街を歩いている。おのぼりさんよろしく、しばらく、首を動かし、目をきょろきょろさせて歩いていたが、10分もすると、地に足がつき街に溶け込んだ。街の風景になっている自分がいた。

朝はホテルで簡単な食事が用意される。朝食はホテルでと思っていたがカフェに目が止まった。どうやら朝メニューがあるらしい。店頭の看板やメニューの写真を見ていると、友達同士の2人の少年に声をかけられた。一瞬警戒心が走ったが、朝の清々しい空気が固い閉ざそうとする心をほどいた。どうやら「ここで朝食食べたいんだろ、これこれも食べれるからお店に入ってみなよ。」といってるようだった(多分)。押し売りでも物売りでもなさそうだったから、「朝食はホテルで食べるんだ。また夜にでも来てみるよ。」と返してみた。英語とカタルーニャ語のたわいもない会話。心のふれあい通い合い。そんな瞬間が豊かさを膨らませた。海外ならではの体験。初日のスタートは気持ちよく始まった。

部屋に帰ってシャワーを浴びると、彼女が起きてきた。そして窓の外の朝のサンパウ病院を見て、すごく喜んでくれた。付き合って5年、籍を入れて半年経ってわかったことがある。出会った頃は、前向きで、革新的で、想いがたくさんあるそんな印象だったが、実際は違った。慎重で、保守的、やりたいことよりもやりたくないことが先に出てくる。食べたいものははっきりしなくても、食べたくないものははっきりしていた。行きたい所よりも、行きたくない所は意志が前に出た。コミットするより流れに任せる。勿論それが悪いとか、合わないと言っている訳ではない。そういう彼女を選び、愛しく想い、助けられている自分がいる。それは間違いない。そんな彼女とうまく折り合わせるには独特のコツがあった。それは、そんな彼女が行きたいと思える所を探し、食べたらおいしいと思ってもらえることに、自分がどれだけ喜びを発見できるかということ。彼女が喜ぶ、その指標は相当よい、ーvery good!ーということになる。彼女の相当よいを集めると、質の高い新しい価値を作れるのではないかと密かに思っていた。いや今も想い続けている。

ホテルから眺めた、サンパウ病院の風景は、彼女にとっても相当よかった。朝の少年との交流同等に、とても嬉しい瞬間だった。

朝食はビュッフェだった。ホテルのロビーの奥にカフェと宿泊者の朝食が準備されている広間があった。実はこのホテルの楽しみの一つは、本棚のあるカフェだった。そのカフェの中を通って広間に行くのだが、あの本棚がなかった。正確にはなかった訳ではなく、そこには本棚と本を描いた壁紙が貼られていた。壁紙を写真で本物だと勘違いした訳だった。そこに物語は繋がらなかったがともかく、このホテルに導く条件としては大きな役割を果たした訳で、事実よりも大切な真実を大事にしようと思った。
「この本棚壁紙だったね。」そういって、二人で笑った。

朝食はビュッフェで、学生食堂のような感じだった。好きなパン、トースト、クロワッサン、コーンフレーク、卵、ソーセージ、チーズ、サラダなど自分で好きなものを、自分の望む分量だけとって行く。コーヒー、紅茶、フレッシュジュース、簡単なデザートも並んでていて、朝食には申し分なかった。携帯で写真などを撮ったりして、食しつつ、本日予定を打ち合わせする。
大まかな流れは、
徒歩圏内の、サンパウ病院とサグラダ・ファミリアを午前中に。
午後は、翌日のホテル探しをスペイン広場周辺で。
その後はグエル公園に行く。
基本移動は徒歩と回数券がある地下鉄で。

実質の滞在日数は丸3日と半日。
午前中のサグラダ・ファミリア訪問は、メインディシュは最後にとっておく二人の選択としては異例だった。時間はこの旅の何よりの資源だった。その貴重な資源を午後のホテル探しに充てるのは勿体ない話だったが、今回の旅を実現する上では覚悟はしていた。ただそうはいっても現地につき実際探す現実を目の当たりにすると神経は引き締まった。だからこそ午前中二人の目的地に行き、満たされてからそのハードルに向かいたかった。

朝食後第一の目的地サンパウ病院に向かった。この病院はモデルニスモ時代の建築家の巨匠モンタネールにっよって1902年から建築され、1930年に息子の手によって完成された建造物。「芸術には人を癒す力がある」との理念のもと、建築の伝統を土台として発祥した個性的建築様式で建造された病院。その規模14万5000平米、48の建物で構成されている。ホテルの窓から見えたドーム上のレンガ屋根はその48の建物の一つだった。サンパウ病院に行くというより、サンパウ病院の囲う塀に添って歩いて、正面に辿り着くという行程で実際はサンパウ病院にいたことになる。途中の商店やスーパーを何件か寄り道して物色する。数百メートルも歩けば正面の門に着いた。病院というより、美術館や教会を想起させる建物はまさに病院という存在を超えていた。病院という役割・使命・機能を考慮すれば、こんなにも時間やお金や人材を投下し建築する必要性はない。しかしそこに理念を持ち、意味を与え、価値に昇華させるところに芸術の力がある。その背後にある献身性、宗教性は、人が事物を超えて魂の存在であることを証明している。その具現化したカタチが目の前にある。消化しようにもしきれない大きさを、私達二人は観光旅行者然として写真など撮る。
うきうきしてるので地から足が浮かんでいる。この時は、世界遺産との認識があるだけで、モンタネールの理念もモデルニスモのこともよくわかっていなかった。それだけに初めに来たこの場所は、いかにもツーリスト(観光旅行者)としての訪問だった。そしてこの時が一番ハネムーンらしい時間だった。そして天気も晴れやかで心地よい風が吹いていた。街路樹の緑も優しかった。



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3 コメント

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おひさしぶり! (rurico)
2016-10-05 11:21:37
昨日、数カ月ぶりにMixiを開いたら、ちょうどShigeの旅行記が上がっていました。
私もこの夏、バルセロナに行ってきました。
フレッシュな視点でのバルセロナ日記、続きを楽しみにしています。
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ほんと、ひさしぶり! (shige!)
2016-10-05 16:25:24
るりちゃん

コメントありがとう(^-^)/

半年ぶりの更新でこうやってレスポンスがあるっていうのは嬉しいというか、なんかやっぱりつづけなくっちゃって改めて思いました。

スペインというと今でもるりちゃんのこと思い出します。なぜ県大時代あんなにもスペインだったのか当時は不思議に思ってたものです。

でも今、行ってみたり、本読んでみたりすると、すごく身近に感じるのです。だからその文化や歴史や言葉に魅かれるのはなんとなくわかる。

カタルーニャやモデルニスモについてはこれからも深めて行きたいと思ってます。

なんか知ってることがあったら是非ご教授下さいませ(^O^)
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お返事ありがとう! (rurico)
2016-10-06 15:49:55
思い出してくれてありがとう!
新婚旅行計画のお邪魔になってなかったかしら??
2年生の頃、いろいろ気持ち的に落ちていた時にスペインに行って気が晴れた、んで、はまった。ってのが事実ですが、名古屋の大聖堂を身近で見て育ったし、高校生の頃の修学旅行で長崎に行って切支丹の信仰に心を打たれたり、道ができていたんでしょうね。
まぁ、大聖堂とキリスト教ならフランスで良かったんだろうけど、そうは問屋がおろさなかった…。
今はスペイン語で生計を立てています。スペイン建築史の授業もしているので、気になることがあったら質問してくださいな。
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