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スメラ~想いをカタチに~

スメラは想いをカタチにするコミュニティーです みんなの想いをつなげて大きな輪にしてゆきましょう

【海月(くらげ) ーjellyfishー】〈5〉

2016-03-03 17:30:00 | 【バルセロナの紺碧(azur)】
案の定というか、当然窓口はしまっていた。自治体によっては、納税の支払い相談に関しては時間外でも対応してくれるところもある。これは市・区民のライフスタイルの変化や土日対応ができない自治体のサービスの拡充であり、納税の機会拡大そして何らかの事情がある方たちへの大きな歩み寄りである。問題を解決する上でも見つめる上でも具体的で建設的な双方にとって歓迎すべき対応だ。

自治体にとっての税収は自治体財政の成り立ち、存在に関わるもの。地方交付税交付金、つまりは国から支給される運営資金と合わせて柱になる。この2本柱がしっかりしてないと自治体が赤字になり、今当たり前とされている公共事業も教育もゴミ処理や役所の運営も行き届かなくなる。北海道の夕張は353億円の赤字があり、破綻した自治体として知られているが、高齢化、過疎化、エネルギー問題を直視すれば対岸の火事ではない。財政やキャッシュフローから見ると、税収は市民区民の存在や生活そのものにも実は大きく関わっている。

ただ、税を払うことの意味、意義をどれだけの人が意識しているかは甚だ疑問だ。国民の義務という免罪符で、訳の分からないまま権利を受け取るために支払っている。納税というシステムに乗り、いつのまにか支払わされている。その金額はいくらで、本当に適正か?このシステムに闇雲の信頼がありたくさんの人があまり考えず支払っている。逆に言うと考えずに払える人は1000歩譲っていいとしても、考えずというところがポイントになる。「考え」ないから、自分の生活に目に見えて影響がない支出に関してはその優先順位はあっという間に井戸の底まで下がり、土に消えてしまう。この意識の構造は、納税のシステムがカバーできていない致命的なポイントだ。払えない状況になってから窓口の人が説明するのは手遅れなのだ。窓口の担当者もまた犠牲者なのだ。つまりこの構造はなくならない。
窓口の担当者だって義務職務だからといってそんな借金とりみたいなことはしたくないはずだし、精神衛生上もよくないのは明らか。もっと言えばその人の魂にも悪影響を及ぼす。そんな根本を考えだすときりがないが、「奴」という言葉を使った理由はここにある。目を向けるべきは窓口の人ではない、このシステムを作り上げた善意の顔をした「闇の力」「闇のシステム」を見つめるべきなのだ。そしてこの「闇」は個の「闇」に繋がっている。そう自分自身に。「奴」は自分の闇でもあった。公の闇を消すには「個」の闇を光にかえることが必須で重要なのだ。

光になれ。

T市の窓口はその時、納税相談の延長などはしていなかった。時間外の窓口に走った。

【諦めるか? ーDon Quixoteー】〈4〉

2016-03-03 10:12:58 | 【バルセロナの紺碧(azur)】
待ち合わせの場所に彼女はもう来ていた。

「ごめん急に仕事が入った」そして家に帰ってスーツに着替えた。別に着替えなくたっていいのだが、私服で仕事に行くのはおかしい、辻褄を合わせるには、もう一つの嘘が必要だった。こうやって負い目は火山灰のように積もって行った。急いでT市に向かった。

時計は17:00になろうとしていた。到着するのは18:00過ぎになる、窓口はしまっているのはわかっているがそれでも行かない訳にはいかなかった。こういう事はメールは勿論、電話でも話にはならない。交渉ごとは直接会って、熱を伝える。これは時代を超えて今でも通用する定石だ。向かう最中いろんなことを考えた。経験則上、事情を説明し、返済計画を一緒に考えれば一部戻ってくるのは知っていた。これは交渉というより駆け引きだ。役所の立場、担当者の立場を考え、現実的な落としどころを作って行く。言葉遣いから、言い回しは勿論、担当者が上長や役所が規定の範囲で引き出せる譲歩を想定しながら話を進めて行く。エネルギーはいるが、一縷(いちる)の可能性はあった。ただそれには「時間」「場」「集中力」が必要だった。今回は時間外の対応になるのは間違いなかった。

不利な条件はそれだけではなかった。役所は規定通り差し押さえの予告はやっていた。ただ執行するかはその状況による。これまでも黙殺することで何度も見過ごされてきた。そこに油断があった。

なぜ支払いをしなかったか、それには理由があった。彼女と籍を入れる前にT市の税金は支払いを終わらせた。であれば支払うものも義務もない。しかしそうはいかなかった。支払い遅延の延滞金だった。それは暴利に近い金利で膨れ上がる。年14.6%の金利が負荷されていく。払うべき金額は払った、 踏み倒すことなく義務は果たした。そこに誠意こそあれ、悪意もない。ただ延滞金の支払い義務について納得が行っていなかった。T市を離れて7年経過したこともある。延滞金という不可解な支払いの優先順位は下がり、最早圏外だった。勤労の対価の収入は日々の日常や将来に対する予算に向けられた。

なぜ今回差し押さえが執行されたのか。ことの真意はわからないが、役所としても取れるところはとろうという優先順位はあったはずだ。交渉の際も前回はT市に住み、自分は税金を納める対象だった。そういう人に無理繰り支払いを命じても今後の支払いが滞ってしまえば本末顛倒になる。小さくとも税収の一端を担う納税者との良好な関係性は役所としても必要なつながりだった。だからこそ一部返金を引き出せた。そこには交渉の余地があった。今回は今後税収の見込みがない人物の過去の負債、しかも負荷された罰則金。目的は薄まりうやむやになりやすい宙空のクリオネだった。役所としてはそうはいかなかった。ハネムーンのエアーチケットという目的を、そのクリオネは非情に消し去った。それによってT市に齎(もたら)されるものはその25万円で、当初の予算より大きな利益を得、迷惑な滞納者を一つ片付けられたという実績が残った。世界は何一つ変わらなかった。ただ一つ、私達二人がスペインに行けないという現実が二人の目の前に立ち塞がった。

久しぶりにT市に着いた。この話がなければ、ある時期の自分を造ってくれた思い出深い大切な街だ。役所までの1本道を早歩きで歩いた。時計は18:20を指していた。

【試練 ーwallー】〈3〉

2016-02-26 22:00:09 | 【バルセロナの紺碧(azur)】
想いの種はタンポポの綿毛のように無数に世界に放たれる。
どれだけの種子が根を張り、花を咲かせ、また種子の綿毛を作るのだろうか。

産卵時、故郷に帰る鮭たちも数えきれない程の卵を産む。
どれだけの卵が孵り、海まで旅立ち、また故郷に戻って種を残せるのだろうか。

日常、世界ではたくさんの想いが生まれては消える。それはうたかた、シャボン玉にも似ている。「その想い」もまた、ぱっと見うたかたの想いと同じ形で、意味も価値もさほど大きいものではなかった。想いの中には、時に命を持ち、様々な壁を乗り越え、くぐり抜け花を咲かすものもある。「その想い」はそんな想いだった。 そこにどんな違いがあったのだろうか?

それは三茶物語の中にある。
彼女と出会って3度目のたわいもない会話だ。
「スペインに行ってみたい」その一言だった。
彼女は間違いなくそう言った。

その言葉はうたかたの想いと変わらなかったが、タンポポの綿毛はたまたまとある土壌に舞い降りた。それは自分の奥底にある魂の島だ。その島は想いが生まれ、育(はぐく)まれ、育つ小さなアイランド。
「その想い」は本人の気持ちを超え、自立したDNAを内在した。そして肥沃で天然のエネルギーと直結しているその土壌は適時に必要な養分をその想いに送りつづけた。

「彼女をスペインに連れて行く。」

その種に宿った遺伝子はそう決意していた。ほんの小さな想いの小さな決意だった。
桃栗三年、柿八年。柿までは至らないが、桃栗を越えるくらいの時間を経て果実が成ろうとしていた。

新婚旅行だ。その前の年に入籍し暮れに式を挙げ、私達二人は正しいプロセス選択して結婚した。それはそれでたくさんの出来事があったがともかく、「スペインに連れて行く」という決意はいよいよカタチに成ろうとしていた。それは感慨深く、特別で格別なことだった。

原則の力が急に働いたのはその時だった。

飛行機の切符買うために旅行会社にいく約束を彼女としていた。三茶のキャロットタワーの1階で待ち合わせをしていた。

新婚旅行はパリとバルセロナ。事前に旅行会社の店長と打ち合わせも済ませていた。細かい旅程は彼女と2人で作る。旅をする。それは心からの望みでもあった。

支払う予定のお金をATMにおろしに行った。すると。

「お引き出しできる金額はありません。」

ATMはそうメッセージを発していた。もう一度タッチパネルの番号を入れ直した。
答えは同じだった。残高は数百円を残してなくなっていた。

25万円近いお金が消えていた。足から首までが凍り始め、頭だけが怒りで噴火寸前だった。自分がガイアの存在になり、いい悪いではなくエネルギーの塊に成った。

「奴」の仕業だった。

【端緒(たんしょ)ーBarcelonaー】〈2〉

2016-02-24 09:45:28 | 【バルセロナの紺碧(azur)】
「何かを始める時、何かが始まるときは、過去の負い目、潜在意識に染み付いた悪しき水脈が解消されないと先には進めない。そういう重力より強い原則があることは学んでいた。」

そう学んでいた。

一度目はチベットに行く前。あの時も、旅の資金を準備するだけでなく、旅に行く前までに借金も完済していた。東京に出てきてからの負債を全て解消させた。約200万だったろうか、それは自分には相当な額だった。旅の成功は実はここにもあった。

他方で、桜に関しての「手続きを踏め」というメッセージは、原則に基づいたプロセスを経ないと真の完遂はありえないという学びもあった。

それは病にも似た性癖、言い換えれば根深いカルマのようなものが関わっていた。

S区役所の階段を上る時、2度目の学びのときのことを思い出していた。
結果はどうであろうとも、返せる範囲でいいから返そう。そう決意していた。

2度目の学びは、去年の5月まで遡る。

その時も痛かった。自分の存在そのものを脅かした。カルマの根を治療するには荒療治が必要だった。見えない痛みと形のない涙が流れた。
ただその学びから得られた気づき、齎(もたら)されたものはとてつもなく大きかった。
原則を信じ、自分を信じられたことは一つのカルマを消し去り、心を強くした。

それは進化の起点になる体験だった。

自分の進化のきっかけになったのは小さな約束と決意があった。はじまりはたわいもなくさりげなく、静かに訪れる。

バルセロナが新しい物語をスタートさせた。

【邪(よこしま)ーconflictー】〈1〉

2016-02-21 16:05:53 | 【バルセロナの紺碧(azur)】
「馬鹿正直」

これっていい意味なのか、はたまた文字通りの救いようのない馬鹿なのか。
自転車をこいでS区役所へ向かう。

健康保険の滞納していた保険料を支払いに行く。

今は会社員だからそんな滞納なんてことはない。
社会保障費から給与天引きだから間違いない。
これは個人事業主だったころの6、7年前のものだ。この請求は1年に2回来ていた。
会社員として復職してからは、毎月収めるべきものを収めている訳で、そこまで強い請求はなかった。
ただそれはあくまで個人的な主観で、その請求が強い弱い、厳しい緩いなんてことはそもそも論点がずれている。
支払うべきものは支払うべきだった。

ともあれごまかしつづけていた。これは負い目だった。決して小さくはない負い目だった。
そして彼女にも内緒にしていた。
支払いに強制力がないものは、月の生活や日常の優先順位からは消えていた。

一度役所からの封書を彼女が見たことがあった。
「これ何?大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫ちゃんとやってるから」

真っ赤な嘘だった。そしてどこかで疑いと不安を彼女の中に植え付けた。
これが原罪の始まりだ。

人は嘘の一つや二つかかえているものだ。いや、もっとかかえて生きてる。
意識するかしないかの差であって、大なり小なりみんなある。
と、そういうことにしていた。そしてそういうことだとしても事実現実は変わらなかった。

請求書の中には、支払いがないと財産を差し押さえます。とある。

財産なんてない、何を差し押さえるのか?なければない袖はふれない。
差し押さえはあり得ない・・・
そう思いきや、みえない巨大な力は暴力に相当する力を発動する。

どうなるのか?月の給料を差し押さえるのだ。教えたこともない銀行口座は容赦なく残高が0になる。
銀行もこちらに連絡することもなく、非情に執行される。
銀行の担当者も冷たく「こちらはどうすることもできません。役所にお問い合わせ下さい。」となる。

この経験を以前住んでいた役所で2度体験した。そのやり方は、合法的ではあったが、汚なかった。
それは消費者金融の比ではない。個人情報保護も人権もない。
納税という義務は、能面のように冷たく情を挟ませず、自然の原則をも無視した拘束力がある。

そうはいっても、そもそも自分がちゃんとやってればいい訳で、加害者は自分な訳で、問題が自分にあるのは疑いの余地がなかった。
自治体や役所を非難する前にやるべきは自分のそんなだらしない性癖を治療すべきだった。見つめるべき欠陥だった。

そんな負い目がずっと潜在意識の水脈の一部になっていた。
自分はどこか歪(いびつ)だった。

税金・健康保険、その意味を理解していようがいまいが義務を果たさなくてはと真剣になり始めたのは、彼女と出逢ってからだろう。
差し押さえは致命的だったし、なにより彼女に不安を植え付けるのだけは阻止したかった。

その強制力は圧倒的な力を持っている。非情で容赦なく破壊する。テロに似ている。
そこには見えない戦争がある。その時限爆弾を避けるため、税金はこつこつと未納分を支払い続けていた。
S区の税金を完済したのは1年前だ。結婚式の前だった。
そして健康保険が残っていた。

今の会社に入って初めてまともな賞与を頂いた。
入り用はたくさんあったが、ここが潮時と見て、健康保険と叔父に10年前に借りていたお金を返済することにした。

今の自分にはお金の使いどころは明確にあったが、
「何かを始める時、何かが始まるときは、過去の負い目、潜在意識に染み付いた悪しき水脈が解消されないと先には進めない。」
そういう重力より強い原則があることは学んでいた。

「馬鹿正直」。それは、最早、いいとか馬鹿とかの次元ではなかった。先に進むためには、そうするしかなかった。
S区役所に向かっていた。

自転車を漕ぎながら滞納分のいくらを返済して、その後の支払いについてはどう計画するかを考えていた。
この期に及んで、その後の支払いもどうごまかそうかということを考えていた。
そして、例の性癖から今回も払わずに済ますことはできないかという邪な想いがよぎった。

それでも役所の窓口まで辿り着き、順番待ちのカードのボタンを押した。
その病と向き合えるのは今日が最後の気がした。