負けるな知的中高年◆本ときどき花のちコンピュータ

「知の崩壊」とかいって、いつの間にか世の中すっかり溶けてしまった。
「知」の復権に知的中高年よ、立ち上がれ!

一七世紀にもわいせつ本の告発と裁判があった

2005年01月24日 | 詞花日暦
白い狼同様、名のみ高くして
人の目に触れることがなかった
――パスカル・ピア(書誌学者)

 たった一冊の本も数奇な運命をたどる。一六五五年、ルイ十四世時代が始まったばかりのパリ、わずか二百部印刷された『娘たちの学校』は、刊行直後、司直の捜査と裁判にさらされた。印刷人、製本屋、ふたりの作者の有罪が宣告され、本はセーヌ川に浮かぶサン・ルイ島で焼き捨てられた。
「初版本はほとんど散失した。国立図書館もアルスナール図書館も所蔵していない」とパスカル・ピアは書いている。すこしのち、オランダで海賊版が流布するが、これもやがて消え去る。それから二百年余、二十世紀の初めに往時の裁判記録が発見され、本の存在がふたたび甦った。しかし初版本はどこにもない。
 むろん好事家はいた。オランダ版をもとにした版本が、二世紀に亘る時の流れの闇にときおり浮上しては消えた。海賊版をもとに、少部数の特装本をつくった愛好家もいた。そんな奇矯な書籍が歴史にはあることを知っておいてもいい。歴史の昼と夜の世界に呪れては消える秘密文学の特質を遺憾なく表している。