菅原貴与志の書庫

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商法(旅客運送関係)改正に関する意見 その1

2015-01-10 10:00:00 | 空法
 法制審議会商法(運送・海商関係)部会・旅客運送分科会に提出した「商法(旅客運送関係)改正に関する意見陳述書」の一部を参考までに掲出します。



第1 旅客運送契約
 1 商法の役割

 国内航空運送には,私法規制が存在しないため,専ら運送人の約款に基づいて対処されているのが現状です。もっとも,航空運送人の国内旅客運送約款は,1999年「国際航空運送についてのある規則の統一に関する条約」(いわゆるモントリオール条約。以下,「条約」)の前身となる1929年ワルソー条約の諸規定を取り込んで作成された経緯があり(名古屋高判平成13年2月8日(判例集未登載・平成12年(ネ)第779号)),条約ないしそれに準拠した国際航空運送約款の内容と著しい乖離があるものではありません。

 また,運送約款は,作成および改訂に際し,国土交通大臣の認可を受けており(航空法106条1項)。その認可に際しては,①公衆の正当な利益を害するおそれがないものであり,②運賃・料金の収受や運送に関する責任事項について法の要請を充足することが要求されます(同条2項)。このことから,現行の運送約款の諸規定は,公衆の正当な利益に関し,行政による一定の配慮が施されているものと考えているところです。

 国内航空運送に関しては,運送人の約款および一般法理に基づき,ほぼ対処できているのが実務の現状であり,国内運送法の不存在が具体的な不具合・支障を招来しているといった深刻な状況も認められません。加えて,約款による規律は,取り巻く環境の変化に応じて,実務に即した変更を適宜行うことができるという柔軟性にも優れている面があります。

 しかし,各約款の規定は,最終的に裁判所の判断によって無効となる可能性もないわけでなく(東京高判平成元年5月9日判時1308号28頁),運送実務が約款のみに依拠することは,法的に不安定な要素を含むことも否定できません。したがって,商法の現代化にあわせて,国内旅客運送の規律を法制化することには,実務的にも大きな意義が認められると思います。


 2 運送契約の定義
 運送契約は,運送人が荷送人に対し,出発地から到着地まで場所的に移動することを内容とする役務提供を引き受け,その対価として運賃を支払うことを内容とする契約であり(諾成・双務契約),所定の場所的な移動と運賃の支払いは,いずれの要素が欠けても運送契約が成立しないという意味において,運送契約の本質的な要素であると考えております。

 なお,旅客運送については,航空運送契約をパーツとして取り込む企画旅行契約との整合性の問題もあります。旅行業者は,旅行者との間に企画旅行契約を締結しますが,特に国内航空運送を含む場合,国際航空運送とは異なり,個々の旅行者に対して航空運送契約成立の証拠証券たる航空券は発行されることなく,搭乗日当日に運送人により搭乗券が交付されるのみです。この場合,実務上は,運送人と旅行業者および旅客・旅行者個人との契約関係について明確かつ統一的な解釈がなされておらず,相互の調整および理解が整理されていないように思われます。この点は,実務的な問題点の指摘のみを一応させていただきます。