犬小屋:す~さんの無祿(ブログ)

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青木正博・目代邦康『地層の見方がわかるフィールド図鑑 増補版』

2017年01月16日 | よみものみもの
書のことばっかり書いているが、忘れたわけじゃないぜ、陶芸。
電動轆轤を使えるのは月に一度。
なかなかうまくならない。
粘土を買い、家でもちまちまと作る。

いつかはどこかで粘土を掘ったり、
鉱物を調合して釉薬を作ったりしてみたい。

陶芸というのは、地元に根ざしたものだ。
その土地で粘土が取れるからこそ、陶器が作れる。
地元で材料が取れるから、その地に窯業が栄えるのだ。

我が地元でも、多摩川焼なるものを作っている人がいる。
いた。今もやっているだろうか。
多摩川中下流域の底地は、川が運んだ特有の砂質の白い土だ。

土や石を見て、どういう物なのか、わかるようになりたい。
という思いはずっと以前から持っていたが、
具体的な目的につながらないし途方もないことのように感じて、
敬遠していた。
それが、陶芸という実に具体的な目的を得た。
中断していた、地質や鉱物に関する勉強を再開する時が来た。



友人Mは、「地層がこわい」と言う。
露出した土の断面が縞々になっているアレを見ると、どこか恐怖を感じると言う。
わからなくもない。

友人Vは、「豚のバラ肉がこわい」と言う。
赤い肉と白い脂身が交互に重なるアレを見ると、どこか恐怖を・・・
こっちはわからん。



地層の見方がわかる本を探しに図書館に行くと、そっくりの本が2冊、
書架に並んでいた。
よく見ると、一方は増補版だ。
2015年発行とある。
新しい本は、新しい研究成果や知見が入っているので、良い。
版を重ねる本は、評判が良いからこそ新しい版も出る。
より良い本を出そうという、著者と出版社の気概を感じる。

さっそく借りて帰り、いつものように「はじめに」をしっかり読む。
ここにはこの本にかける著者の思いが詰まっているからだ。
そして、2017年最初の読書として、私は大いに動かされた。
一部分を引用する。


地層には、私たちの人生の何百倍、いや何十万倍もの長きにわたる
自然のストーリーが秘められています。それを読み解くことは、
自然のメカニズムを知ること、人類誕生以前の世界を知ることです。
また、私たちの経験したことのない天変地異を知り、今日の私たちへと
つながる生命の系譜を認識することでもあります。(略)

地球の誕生から46億年。
(略)その一瞬、とくに最近の250年で人類は大発展しました。
生産性の向上に支えられて、人口も急増しました。西暦2050年の
地球の全人口は、西暦元年のそれと比較すると、100倍に達する見込みです。
地球は飽和点にさしかかっているのです。

より快適な生活とそのための生産性向上を追求して、私たちは
天然資源を急ピッチで開発し、また地表をつくり変えてきました。
一方で、自然に対する意識は次第に変質しています。(略)
大地震などの自然現象に起因する人的物的な大災害を見ると、
地球変動の遠大なタイムスケールと、日常を生き延びるのに忙しい人間の
想像力のギャップを思い知ります。

私たちは、個人として幸せに生きるために、今後も自然の恵みに頼らざるを
得ません。一方、人類の一員としては、持続可能な社会を築く責任を
負っています。地球の成り立ちを知り、地球変動のリズムを知ること、
山や川や地盤の特性を知り、有限な国土の最適な利用を実践する事は、
とても重要になってきています。それは、これからの人類に求められる
基本的資質といってよいでしょう。

自然の理解は、自然への愛着がベースになります。自然への愛着は、
自発的な自然体験に根を張ります。人間も他の生物も生態系の一部。
自然への愛着は、同世代を生きる命への共感と表裏一体のものです。
持続可能な社会の建設という言葉は、豊かな自然体験を持った人によってのみ
実感されるのではないでしょうか。

(略)




この本の他の箇所を読んでいても、この先生の文はとても上手だ。
簡潔な数行の中に、問題点や自分の意見や解決への足がかりなどを込め、
それがすっきりと伝わってくる。名文だ。

新しい本を手にした甲斐があった。
増補版では、様々な地形を紹介する本編の最後に、
「津波がつくる地層」というページが加えられている。

地層を見ることと、現代人として生きることがしっかり結び付いた本だ。
科学者はかくあるべき、と思う。

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