Netflixに、『ル・ポールのドラァグレース』という番組が有る。
年に一度、全米のドラァグクイーンの一等賞を決めようということで、
毎回、課題が出されて審査され、一人が失格して去っていく。
2019年の出演者の中の、イーヴィー・オドリーという人物に私はすっかり魅了された。
”女装”という言葉では括りきれない、不思議なドラァグクイーンだ。
Yvie Oddly とはもちろん芸名である。
Yvie は多分、YvonneイヴォンヌとかYvetteイヴェットとかの愛称だろう。
Oddlyとは、「奇妙に」とか「へんてこりんに」とか「半端に」とかいった意味だ。
※
以下ネタバレを含む。
イーヴィーは、シーズン11で決勝トーナメントに進む。
そして、最後の最後の決勝戦に臨む。
茶色を基調とした地味な色だが、涙を流した目の形をあしらった金の模様の入った
ロココ調のドレスを着ている。
そして、頭部には花びらをかたどった銀色の金属製の冠をかぶっている。
三面鏡を開いたような角度に、顔の両側に金属の板の花びらが付いている。
そこに横顔が映る。
それは、日本人が見たらすぐに三面六臂の阿修羅像を想うのではないか。
曲はこれ以上に決勝にふさわしい曲は無いと言えるだろう、
Lady Gagaの「The Edge Of Glory」。あと一歩で勝利。
https://www.youtube.com/watch?v=TObL0JBy6cU
曲が一旦ブレイクする所でイーヴィーは、おもむろに客席に背を向ける。
すると、後頭部には顔が描かれている。
音楽が止まって静かな中、その四つ目の顔は深々と礼をする。
全身で反っているのだ。
そして再び歌が始まるや、ブリッジから軽やかに倒立を経て立ち上がる。
ロココドレスの裾が華やかにめくれる。
あたしゃここの部分、何度見ても鳥肌が立つ。
最高。
私はウルトラマンに登場する「三面怪人ダダ」を連想した。
頭部の曲線と、なんとも無表情な感じが似ている。
イーヴィーの巧妙な仕掛けにとことん目を奪われ心を奪われる。
なんてアイディアなんだ。
そしてそれを見せる場と時をわきまえている。
曲の前半では体の正面しか見せないようにしていたり、
後半では四つ目の面がチラチラ見えるように、きれいなターンを繰り返していたりする。
ああもう一度見ちゃおう。
※
あらやだちょっと待って。リップシンクの説明をしとかなきゃかしらね。
LipSynch文字通り訳せば、唇同期。
ドラァグクイーンのステージショーで主流の芸である。
ステージ上の人物は、歌っていない。
曲をかけて、さも歌っているかのように口を動かす。
ものすごい精度の口パクと思えばいい。
口パクかよ。
ではない。
それはものすごい技術で、見れば圧倒される。
目の前で歌っているようにしか見えない。
本当に歌のショーを見ているような高揚感が有る。
ドラァグの歴史に詳しくないので、
リップシンクによるショーがいつ頃どこで始まって盛んになって
日本ではいつ頃誰が着手してどのように発展したとかなんとか、
よく知らない。
私が初めてドラァグクイーンのリップシンクを見たのは、
2000年頃の外語祭であった。
当時まだ学籍の有ったバビ江ノビッチさんが、
LGBTサークルの部屋でショーを見せていたのだ。
いかん、この話は面白いので、また今度たっぷり書こう。
日本で有名なのは、はるな愛さんの「エアあやや」ではないだろうか。
あややこと松浦亜弥さんの歌のみならず、
ライブのMCごとリップシンクする。
動きはちょいとデフォルメして笑いを誘う。
そのへんの加工の度合いが絶妙。
https://www.youtube.com/watch?v=bJotIG7SadE
※
いや今日はイーヴィーのことを讃える日なんだてば。
ダンスの中でイーヴィーは身体の柔軟さを見せる。
クニャクニャと奇妙に曲がり、四肢の動きを大きく見せる。
これには理由が有った。
15歳の時に、エーラス・ダンロス症候群(Ehlers–Danlos syndromes)という
難病の診断が下った。
いくつか型が有るようだが、イーヴィーのものは関節可動亢進型だろう。
身体がやわらかいのではなくて、皮膚や靭帯や筋肉が弱い病気だったのだ。
口を大きく開いて笑う独特の表情も、皮膚が過度に伸びる症状によるものなのだろう。
何もしていなくても脱臼してしまったりする。それは鋭い痛みを伴う。
関節を支えるために筋肉を鍛えるようにと医師の指導を受けたそうだ。
病気の進行に対抗する一つの手段なのだ。
身体のどこかが常に痛いという。
番組の参加者の他のドラァグクイーンが、メイク室でイーヴィーに聞く。
「いつもどこか痛いって、どんな感じ?」
イーヴィーは、
「逆に、どこも痛くないってどんな感じ?もう忘れちゃった。」
質問したクイーンは絶句する。
※
ル・ポールの出したどんな困難な課題にも諦めずに立ち向かえ、と
イーヴィーはときに他の参加者を諭すように言い、反発を食らう。
何を偉そうに。
難題に立ち向かうことで自分独自のスタイルを獲得してきたイーヴィーにとっては、
常に常に思っていることなのだろう。
もういっぺん見たくなった。
https://www.youtube.com/watch?v=TObL0JBy6cU
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