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映像作品とクラシック音楽 第22回『ショーシャンクの空に』

2021-06-25 10:00:00 | 映像作品とクラシック音楽
どうも。クラシック音楽が印象的な映像作品紹介シリーズ。
今回は私より一つ下くらいの世代で一番好きな映画は?とアンケートを取ったらきっとかなり上位に来るであろう、なんなら1位になりそうな映画です。なんというか、おススメ映画は?と聞かれて、マニアすぎずに映画通っぽさを出すのにちょうどいい映画という気もします。
ちなみに私の場合一番好きな映画は?と聞かれると『ブレードランナー』だったりしますけど、それはまた別の話…


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『ショーシャンクの空に』の原作はスティーブン・キングです。キングは自作の映画化作品を容赦なく酷評することで知られており、映画ファンからは傑作扱いの『シャイニング』や『デッド・ゾーン』も酷評しています。日本で原作者が映画をけなすなんてまずありませんよね。おもしろいことです。原作者が怒っていい日本映画いっぱいありますけどね。

だからキング原作映画を何度も手掛ける人はよほど心臓が強いか、キングに気に入らているかなんだと思います。
ロブ・ライナーは『スタンド・バイ・ミー』と『ミザリー』をてがけ、どちらも映画は傑作でした。(キングの評価は知りませんが)
そしてフランク・ダラボンは三度もキング原作を映画化しています
監督デビュー作が「刑務所のリタ・ヘイワース」を映画化した『ショーシャンクの空に』でした。
デビュー作にしてこの風格。すごい人ですね。その後『グリーン・マイル』『ミスト』も映画化し成功させています。


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「刑務所のリタ・ヘイワース」は短編と言ってもいいくらいの、わりと短めの作品です。
脚色も務めたダラボンは、それを色々膨らませて長編映画にしました。
私は原作より映画の脚本の方が面白いと思います。
特に「脱走した後どうするか」が原作よりよく考えられていてかつ面白くなっています。
脱走後、囚人服のまま歩くわけにはいかないのですが原作はその辺はふれていません。映画では脱走後の服装についても鮮やかな手口を示しつつ、その謎が解けるまでの間はサスペンスとしても機能させてしまうところは天才的でした。
脱走後の生活については原作を改変していますが、原作の「逮捕前に準備しておいた隠し口座のカギ」よりも、映画版の「刑務所長の脱税のために作った隠し口座を堂々解約」の方が、スカッとしていいと思います。
映画にも小さい突っ込みどころはいろいろあるんですが(下水管に穴をあけるとき雷が鳴らなかったらどうするつもりだったんだろう?とか)、脱走ものジャンル映画としては(どんなジャンルだ)ベストな作品だと思います。


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そして、原作にない映画版オリジナルのエピソードとして秀逸なのが、主人公が「フィガロの結婚」の二重唱を刑務所内の放送設備を使って刑務所中に響かせる場面です。
小説には絶対できない表現として音楽を奏でるという場面を追加したのは、さすが映画脚本家のダラボンだと思います。

映画で使われたのはカール・ベームによる演奏です

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手紙の二重唱 風に寄せて

伯爵夫人 やさしいそよ風が
スザンナ そよ風が
伯爵夫人 今宵さやかに
スザンナ 今宵さやかに
伯爵夫人 松の木陰に吹きましょう
スザンナ 松の木陰? 松の木陰に吹きましょう
伯爵夫人 あとはおわかりになるはずよ
スザンナ そうですわね、おわかりになりますわ

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歌詞を字で追うとなんてことない内容ですが、掃きだめのような刑務所にかかるこの歌は天使の歌声のようで、囚人たちが聞きほれるのもわかります


この場面が、伯爵夫人とスザンナが服を取り換えっこして伯爵をだまそうとしているところで、後のアンディの脱走の伏線のようであるとか、「今宵松の木陰で」という手紙を書くのが、映画終盤の樫の木を目印にした手紙のくだりを彷彿とさせるとか、解釈は色々あるわけですが、でもこの歌の最大の映画的効果は、それを聞くレッド(モーガン・フリーマン)のナレーションが全てだと思います

「俺はこれが何の歌か知らない。知らないほうがいいことだってある。よほど美しい内容の歌なのだろう。心が震えるくらいの。この豊かな歌声が我々の頭上に優しく響き渡った。美しい鳥が現れて、塀を消すかのようだった。短い間だが皆が自由な気分を味わった」


アンディは勝手にレコードをかけた罰で2週間懲罰房に入れられます
さぞ地獄だったろうと、懲罰房から出てきたアンディに囚人仲間が聞きますが、アンディはずっと音楽を聴いていたといいます。

「心の中で聴いた。音楽は決して人から奪えない。」

暗い懲罰房の中で心に響いているモーツァルトを聴いているアンディの顔が浮かぶようです。そんなシーンはないのですが。私はこうした見えない画を見せ、聞こえない音を聞かせるような脚本が、そして演出が、映画としては最上級のテクニックだと思っています。

ストーリー的には重要な場面ではなく、なんなら無くても話は通じるのですが、フィガロのシーンが『ショーシャンクの空に』の名シーンの一つに数えられるのは、この場面が本作のテーマ、「精神の自由」と「希望」を象徴しているからではないでしょうか。


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原題は「The Shawshank Redemption」(ショーシャンクの贖い)という、ややお堅めなタイトルです。刑務所映画は日本映画だと「網走番外地 望郷編」とか「女囚さそり 恨み節」みたいなタイトルになるのに、外国映画のタイトルはかっこいいですね(笑)
ま、ともかく邦題を「ショーシャンクの空に」としたことについては、色々な意見があるかと思います。良し悪しは置いといて、それでもこの邦題を考えた人はきっと、フィガロのシーンを思い浮かべて付けたのではないかなと思います。
それくらい、ストーリー上は全然重要じゃないけど、映画のすべてを象徴するようになった名シーンとして印象深いです。
(映画の名シーンってのはえてしてそういうもんだったりしますけど。『サウンドオブミュージック』の空撮映像からジュリーアンドリュースに寄っていくショットとか、『ローマの休日』のうそつきは手をかまれるのくだりとか…)


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そんなわけでフィガロを聴きながらこの原稿を書いていますが、私が持っているのはベームでなくカラヤンの演奏でした(ウィーンフィル78年録音)。
カラヤンの演奏ちょっと早いですね。これはこれでよいのですが、『ショーシャンクの空に』のあのシーンには、ベームのゆったりした演奏の方が絶対あってると思います。

そんなところで、また映画とクラシック音楽でお会いしましょう。

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