2010年代映画ベストテン エントリーNo.18
おおたに さん
・演出、撮影、編集など、映像系業務
『巻貝たちの歓喜(2019)』助監督
大学時代はゴダールゴダールだった蓮見系シネフィル
10年前の「ブロガーの00年代映画ベストテン」に引き続いての参加
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「おおたに」さんの2010年代映画ベストワン
日本映画 『南瓜とマヨネーズ』 (2017)
監督・脚本:冨永昌敬
原作:魚喃キリコ
撮影:月永雄太
音楽:やくしまるえつこ
出演:臼田あさ美、太賀
外国映画ベストワン 『フローズン・リバー』(2010)
監督・脚本:コートニー・ハント
撮影:リチャード・モラノ
出演:メリッサ・レオ、ミスティ・アップハム、チャーリー・マクダーモット
アメリカ映画
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【エントリー詳細】
****ブロガー&SNS映画レビュアーによる10年代(2010~2019)の映画ベストテン****
【10年代 日本映画ベストテン】
1位『南瓜とマヨネーズ』冨永昌敬
2位『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』石井隆
3位『風に濡れた女』塩田明彦
4位『この世界の片隅に』片渕須直
5位『ペコロスの母に会いに行く』 森崎東
6位『終の信託』周防正行
7位『風立ちぬ』宮崎駿
【コメント】
実際、見た作品があまりにも少ないため、正当なランキングとは口が裂けてもいえない。さらには、感心しない作品を無理に選択し10本のリストを作り上げることをも回避した。実に中途半端なランキングであるをご容赦願いたい。とはいえ、幸福な出会いはたしかにあった。心を震わせ、問答無用になみだを流した作品をここにあげる。
「南瓜とマヨネーズ」の、だらしのない、未来しか見られない人物たちへの強い共感はわたし自身の個人的な思いを多くふくむにしても、生い立ちやその他前提を一切排除しながら、自然主義的描写でここまで説得力のある、魅力的な人物像を創造した監督の力量は、今後の日本映画において、大いに希望の持てる材料となった。ラストの、ミュージシャン志望の主人公による弾き語り。聞く女主人公がいつ泣くかで、この作品の勝敗は決した。もちろん、この作品は勝利したし、同時にわたしの涙腺も崩壊した。現代の若者を描きながら、携帯電話がほとんど登場しない点も、記憶にとどめておきたい。
石井隆は90年代を代表する作家であるが、性描写、暴力描写など、時代性を強く際立たせながらも、不意に時代性を逸脱するロマネスクを特徴としていた。「ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う」は典型的な石井隆作品であり、その世界に耽溺することをおしみはしない。
神代辰巳へのオマージュにあふれた塩田明彦による「風に濡れた女」は、神代がそうであったように、ヌーベルバーグへの愛の表明でもある。フィクションとリアル。演技と、演技の演技。それら認識論的多層性が同時にあらわされ、ごくごく観念的な作品といえるのであるが、そんな概念操作を超えて光る、女優の魅力。それは純然たるリアルであり、女性賛歌。
4位以下は偏愛といかないが、誰もが認めるであろう優れた作品をまとめた。
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日本映画10年代ベスト監督
『冨永昌敬』(3点)
日本映画10年代ベスト女優
『間宮夕貴』(3点)
『臼田あさ美』(3点)
日本映画10年代ベスト男優
『中野太賀』(3点)
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【10年代 外国映画ベストテン】
1位『フローズン・リバー』コートニー・ハント
2位『ブルーバレンタイン』デレク・シアンフランス
3位『苦い銭』王兵
4位『スリーデイズ』ポール・ハギス
5位『トスカーナの贋作』アッバス・キアロスタミ
6位『家族の庭』マイク・リー
7位『リンカーン』ティーヴン・スピルバーグ
8位『裏切りのサーカス』トーマス・アルフレッドソン
9位『ハッピーエンド』ミヒャエル・ハネケ
10位『ゼロ・グラビティ』アルフォンソ・キュアロン
【コメント】
海外映画にしろ、日本映画にしろ、全般的に、一塊のムーブメントを強く感じることのない10年間だった。というよりも、特定の作家が牽引する一方向の力学を、もはやわれわれは望んではおらず、さまざまな、そして、こまごまとした断片を拾い集めて、ふかく思慮する必要を、無意識に感じているのかもしれない。まさに多様性の時代ということなのだろう。だから今回は、ユニークでカリスマ的なスター監督による作品よりも、作品それ自体が個として光るものが選ばれる傾向となった。
「フローズン・リバー」では、巻頭まもない主人公のふたりの出会いのシークエンスのみで、古典的な映画的快楽を味わえた。淀川長治がエルンスト・ルビッチのスクリューボールコメディーにおける、男女の出会いで感受した、そのまったく同じ意味での快楽を、厳しい現実社会と対峙するこの作品においても得られるだろう。テーマに共通点が多い「万引き家族」などにくらべると、結末に「あまさ」を感じられなくもないが、主人公の不在は巧妙な落としどころだった。多様性や貧困、格差といった現代的なテーマを扱いつつも、古典的な映画の喜びをあたえてくれた本作品をベスト1に推す。
「ブルーバレンタイン」の、時間軸の解体や再構成といった手法や、すぐれてスタイリッシュな映像という、2010年代にふさわしい現代的映画とおもわれがちな要素も、実は60年代ATG作品など、もはや古典的といっていいスタイルを踏襲している。だから、古典的な形式にあえて挑戦しつつ、形式主義を超えて生身の感情を真正面から表現しえたこの作品には敬服せざるを得ない。この10年で一番泣いた映画。
王兵は近年のドキュメンタリー作家としては多作の部類にもかかわらず、観たのは「苦い銭」のみ。恥じ入るばかり。人々の生の営みをめぐり悲惨、不条理を掘り下げるこの大作家が、明らかに芸術的観点によって世界を展望している。
個人的には、「万引き家族」や「ダニエル・ブレイク」は、「スリーデイズ」にすでに出会ってしまっていたがゆえに、評価をひどく落としてしまった。「法」とはなにか。見終えたとき、感動とともにある回答を得ることができる。
5位以下は巨匠監督のゆるぎない存在感への畏敬の念と、ちょっとばかりの郷愁をふくめてのランキング。おそらく巨匠というステイタスは、映画史において、風前のともしびではないか。
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外国映画10年代ベスト監督
『スティーブン・スピルバーグ』(2点)
『アッバス・キアロスタミ』(2点)
『王兵』(2点)
外国映画10年代ベスト女優
『ミシェル・ウィリアムズ』( 3点)
『メリッサ・レオ』(3点)
外国映画10年代ベスト男優
『ライアン・ゴズリング』(3点)
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おおたに さん
・演出、撮影、編集など、映像系業務
『巻貝たちの歓喜(2019)』助監督
大学時代はゴダールゴダールだった蓮見系シネフィル
10年前の「ブロガーの00年代映画ベストテン」に引き続いての参加
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「おおたに」さんの2010年代映画ベストワン
日本映画 『南瓜とマヨネーズ』 (2017)
監督・脚本:冨永昌敬
原作:魚喃キリコ
撮影:月永雄太
音楽:やくしまるえつこ
出演:臼田あさ美、太賀
外国映画ベストワン 『フローズン・リバー』(2010)
監督・脚本:コートニー・ハント
撮影:リチャード・モラノ
出演:メリッサ・レオ、ミスティ・アップハム、チャーリー・マクダーモット
アメリカ映画
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【エントリー詳細】
****ブロガー&SNS映画レビュアーによる10年代(2010~2019)の映画ベストテン****
【10年代 日本映画ベストテン】
1位『南瓜とマヨネーズ』冨永昌敬
2位『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』石井隆
3位『風に濡れた女』塩田明彦
4位『この世界の片隅に』片渕須直
5位『ペコロスの母に会いに行く』 森崎東
6位『終の信託』周防正行
7位『風立ちぬ』宮崎駿
【コメント】
実際、見た作品があまりにも少ないため、正当なランキングとは口が裂けてもいえない。さらには、感心しない作品を無理に選択し10本のリストを作り上げることをも回避した。実に中途半端なランキングであるをご容赦願いたい。とはいえ、幸福な出会いはたしかにあった。心を震わせ、問答無用になみだを流した作品をここにあげる。
「南瓜とマヨネーズ」の、だらしのない、未来しか見られない人物たちへの強い共感はわたし自身の個人的な思いを多くふくむにしても、生い立ちやその他前提を一切排除しながら、自然主義的描写でここまで説得力のある、魅力的な人物像を創造した監督の力量は、今後の日本映画において、大いに希望の持てる材料となった。ラストの、ミュージシャン志望の主人公による弾き語り。聞く女主人公がいつ泣くかで、この作品の勝敗は決した。もちろん、この作品は勝利したし、同時にわたしの涙腺も崩壊した。現代の若者を描きながら、携帯電話がほとんど登場しない点も、記憶にとどめておきたい。
石井隆は90年代を代表する作家であるが、性描写、暴力描写など、時代性を強く際立たせながらも、不意に時代性を逸脱するロマネスクを特徴としていた。「ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う」は典型的な石井隆作品であり、その世界に耽溺することをおしみはしない。
神代辰巳へのオマージュにあふれた塩田明彦による「風に濡れた女」は、神代がそうであったように、ヌーベルバーグへの愛の表明でもある。フィクションとリアル。演技と、演技の演技。それら認識論的多層性が同時にあらわされ、ごくごく観念的な作品といえるのであるが、そんな概念操作を超えて光る、女優の魅力。それは純然たるリアルであり、女性賛歌。
4位以下は偏愛といかないが、誰もが認めるであろう優れた作品をまとめた。
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日本映画10年代ベスト監督
『冨永昌敬』(3点)
日本映画10年代ベスト女優
『間宮夕貴』(3点)
『臼田あさ美』(3点)
日本映画10年代ベスト男優
『中野太賀』(3点)
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【10年代 外国映画ベストテン】
1位『フローズン・リバー』コートニー・ハント
2位『ブルーバレンタイン』デレク・シアンフランス
3位『苦い銭』王兵
4位『スリーデイズ』ポール・ハギス
5位『トスカーナの贋作』アッバス・キアロスタミ
6位『家族の庭』マイク・リー
7位『リンカーン』ティーヴン・スピルバーグ
8位『裏切りのサーカス』トーマス・アルフレッドソン
9位『ハッピーエンド』ミヒャエル・ハネケ
10位『ゼロ・グラビティ』アルフォンソ・キュアロン
【コメント】
海外映画にしろ、日本映画にしろ、全般的に、一塊のムーブメントを強く感じることのない10年間だった。というよりも、特定の作家が牽引する一方向の力学を、もはやわれわれは望んではおらず、さまざまな、そして、こまごまとした断片を拾い集めて、ふかく思慮する必要を、無意識に感じているのかもしれない。まさに多様性の時代ということなのだろう。だから今回は、ユニークでカリスマ的なスター監督による作品よりも、作品それ自体が個として光るものが選ばれる傾向となった。
「フローズン・リバー」では、巻頭まもない主人公のふたりの出会いのシークエンスのみで、古典的な映画的快楽を味わえた。淀川長治がエルンスト・ルビッチのスクリューボールコメディーにおける、男女の出会いで感受した、そのまったく同じ意味での快楽を、厳しい現実社会と対峙するこの作品においても得られるだろう。テーマに共通点が多い「万引き家族」などにくらべると、結末に「あまさ」を感じられなくもないが、主人公の不在は巧妙な落としどころだった。多様性や貧困、格差といった現代的なテーマを扱いつつも、古典的な映画の喜びをあたえてくれた本作品をベスト1に推す。
「ブルーバレンタイン」の、時間軸の解体や再構成といった手法や、すぐれてスタイリッシュな映像という、2010年代にふさわしい現代的映画とおもわれがちな要素も、実は60年代ATG作品など、もはや古典的といっていいスタイルを踏襲している。だから、古典的な形式にあえて挑戦しつつ、形式主義を超えて生身の感情を真正面から表現しえたこの作品には敬服せざるを得ない。この10年で一番泣いた映画。
王兵は近年のドキュメンタリー作家としては多作の部類にもかかわらず、観たのは「苦い銭」のみ。恥じ入るばかり。人々の生の営みをめぐり悲惨、不条理を掘り下げるこの大作家が、明らかに芸術的観点によって世界を展望している。
個人的には、「万引き家族」や「ダニエル・ブレイク」は、「スリーデイズ」にすでに出会ってしまっていたがゆえに、評価をひどく落としてしまった。「法」とはなにか。見終えたとき、感動とともにある回答を得ることができる。
5位以下は巨匠監督のゆるぎない存在感への畏敬の念と、ちょっとばかりの郷愁をふくめてのランキング。おそらく巨匠というステイタスは、映画史において、風前のともしびではないか。
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外国映画10年代ベスト監督
『スティーブン・スピルバーグ』(2点)
『アッバス・キアロスタミ』(2点)
『王兵』(2点)
外国映画10年代ベスト女優
『ミシェル・ウィリアムズ』( 3点)
『メリッサ・レオ』(3点)
外国映画10年代ベスト男優
『ライアン・ゴズリング』(3点)
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