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映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

サラバンド [ベルイマンの新作!!]

2007-01-19 01:26:44 | 映評 2006~2008
やあ、みんな。今日はイングマール・ベルイマンという人が撮った「サラバンド」という映画について語るよ。
まず、その前にみんなはアーノルド・シュワルツェネッガーっていう政治家のことは知ってるよね?カリフォルニア州の知事さまさ。でもそのミスター・シュワルツェネッガーが昔、売れない映画俳優をやっていたってことは知らないだろ。そんな彼の代表作は「ラスト・アクション・ヒーロー」という映画さ。
この映画は魔法のチケットで少年が映画の世界に入り込んだり、映画のキャラが現実世界に飛び出してきたりするお話なんだ。こう聞いただけでユルユル感溢れているだろ。なのにめちゃめちゃ制作費をかけて、シュワルツェネッガー氏がマシンガンを撃ちまくり、シャロン・ストーンやヴァン・ダムがカメオ出演したり、さらに宣伝のためNASAのロケットに「LAST ACTION HERO」のロゴをデカデカとプリントしたり、と相当バブリーな作品だったんだ。
ところでこの映画の終盤で魔法のチケットの力で名画座で上映していた古いモノクロ映画から死神が抜け出してくるシーンがあるんだけど、その映画こそスウェーデンのイングマール・ベルイマン氏が監督した「第七の封印」という映画なんだ。「ラスト・アクション・ヒーロー」のストーリーとは悲しいくらい関係ないどうでもよさげな展開だったけどね。
ベルイマンさんはスウェーデン人で、スペルはBERGMANになるんだよ。英語感覚で読めばバーグマンだろ。
バーグマンといえば往年の大女優にイングリッド・バーグマンさんって知ってかい?「汚名」「ガス灯」それに「カサなんとか」などに出演しているよ。この人も実はスウェーデン人で、地元では「イングリッド・ベルイマンさん」と呼ばれていたのだけど、ハリウッドデビューにあたり発音を英語風の「バーグマン」に変えたんだ。まあ、巨人の松井がヤンキースに行ったら「マトゥーイ」になるようなものさ。Ingrid BergmanとIngmal Bergmanと書くと三文字しか違わないけれど、別にこの二人、家族でも親戚でもないよ。
けれどイングリッド・バーグマンさんのフィルモグラフィでは、その輝かしいキャリアの最後を飾る映画がイングマル・ベルイマンさんの監督した「秋のソナタ」なんだ。おいおい、ぺさんとかチェさんとかが出てくるTVドラマと一緒にするんじゃないよ。あっちは「冬の・・・」だからね。それからバーグマンさんの最後の映画は「秋のソナタ」だけど、その後テレビの単発ドラマに出たりしてるから、厳密にはバーグマンの遺作じゃないよ。
ま、ともかくその「秋のソナタ」では、往年の美人女優の老いて深い皺のきざまれた顔が情け容赦なくクローズアップで写されて、バーグマン自身の過去の情事を彷彿とさせる役どころでもあったりして、女優魂を見せ付けられた感じがしたものなんだ。その映画でバーグマンの娘役を演じ憎悪むき出しに母をなじったのがリヴ・ウルマンなんだよ。
ところで映画の最初に、「イングリッドに捧ぐ」って一文が出てくるけど、これは多分バーグマンのことじゃないよ。ベルイマンが愛したイングリッド・テューリンという女優さんのことさ。2004年に亡くなったんだって。
ベルイマン映画のヒロインは主に三人いて、ハリエット・アンデション、イングリッド・テューリン、リヴ・ウルマンとなるんだよ。この三人が競演した「叫びとささやき」はそれだけでも見ごたえ十分な傑作だよ。しかも怖いことに全員ベルイマンの愛人なんだって。よくそんな状況で映画撮れるよね。それだけでもベルイマンがただ者でない男だということがわかるだろ。

さてやっと「サラバンド」の話に入れるのだけど、ベルイマンさんが20数年ぶりに撮った「サラバンド」では、かつてのバーグマンと同じ容赦のないクローズアップをリヴ・ウルマンが受けるんだ。
白髪と皺。かつてのスレンダーな容姿はどこへやら、ぽっちゃりした体系と顔。
北欧女→美人という根拠のない幻想を植え付けるのに貢献したリヴ・ウルマン。
そういえばトリノ五輪の女子カーリングでは、北欧美人を絵に描いたようなスウェーデン代表のスマート美女軍団に、チンケな体系のチーム青森が果敢に戦いを挑む姿が健気に見えたものさ。しかもスウェーデン代表が超強いんだ。チーム青森も善戦したけど格の差見せ付けられて完敗したけど、スウェーデン代表は結局、他国をものともせず金メダルだよ。
そんな、激闘を思い出させるスウェーデンだけど、映画と関係なかったね。
とにもかくにもかつての美人女優は老いさらばえた顔を見せながらも、凛とした佇まいで、キビキビと動き、言うまでもなく演技は巧いんだ。しかも終盤では素っ裸にまでなるんだ(さすがに逆光で体は隠されたけど)。バーグマン同様の北欧女優魂を見せ付けてくれたよ。
それで容赦のないクローズアップに答えるべく、俳優たちも素晴らしい演技を見せるんだ。映画のために俳優に演技を求めているんじゃない。演技をさせるために映画を撮っているような気がするよ。

この映画が素晴らしいのは、役者のリアルと演出のリアリズムがスレスレのところで融和しているような、曖昧な映画世界が築かれているところなんだ。
"第一章でアンナが訪れたヨハンの家の素晴らしいセットはどうだろう。長年にわたり使われ続けて古びているが、大切に使われてきたことが分かる家具。奇麗に片付けられた室内に、趣味のいい調度品。外から差し込む柔らかな光。
その中を、感慨深げに歩くリヴ・ウルマン演じるマリアン。リアリズムの演出だ。
ベランダで午睡するヨハンを見つけたマリアンは、ふとカメラ目線になって状況をナレーションする。
"この時のマリアンは単に我々観客に心情や状況を説明する、映画的虚構の中の人物なのだろうか?
僕にはそうは思えないんだ。リヴ・ウルマンは二〇数年の時を経て作られた「ある結婚の風景」の続編に対する思いを、カメラの向こうのスタッフ、ベルイマンに語っているように思えたんだ。あるいは自分で自分に、マリアンとしてではなくリヴ・ウルマンとしての素直な気持ちを語っているように思えたんだ。"
"それから素晴らしいのは、編集と色使いだよ。
カーリンが父との諍いについてマリアンに説明していると次第に激昂してきて、気持ちが極限まで高ぶった時についに入るフラッシュバック。しかも真赤な背景(「叫びとささやき」を思わせる)で父と娘がつかみ合い、取っ組み合っている。
イメージシーンかと思わせて、カメラが引くと、それは赤いドアの前での出来事だと分かり、娘はドアを開けて外に飛び出していく。"
虚構としてのイメージシーンがそのままカット入れずにリアリズムに変化するんだ。見事すぎるじゃないか。なんだって今でもこんなはっとするようなショットを撮れるんだい?

それからかつて「宗教映画のベルイマン」と言われた彼らしさが光るのが、中盤の教会でのシーンなんだ。
宗教映画っていっても、別にキリストの生涯を映画化した、キリスト教啓蒙映画ってわけじゃないよ。信仰とは何ぞや、みたいなことをテーマとした映画のことさ。
「処女の泉」とか、始めて観た時はなんじゃこりゃ、こんなもん何が面白いんじゃ、と仲間内にぶつぶつ語ったりしたものだけど、時がたつとまた見たくなる映画だよ。巡礼にむかう娘がレイプされ殺され、その父親の家と知らずに泊めてもらった犯人が正体を知った父親にぶち殺される、というお話さ。寓話だね。白と黒の強いコントラストの映像が魅力的だよ。
ともかく、「サラバンド」の中盤のシーンはこんな感じさ。
マリアンが元夫ヨハンの息子ヘンリック(マリアンの義理の子)をたずねて教会に行く(彼は教会でオルガンの練習をしている)。そこでヘンリックはマリアンに、20数年ぶりにヨハンを訪ねた理由を「金目当てか?ヨハンとヤリたいのか?」などと下卑たことを言う。
ヘンリックが去った後、マリアンの背後の、「子供を抱くキリスト像」に外から光が差し込み、神々しい雰囲気をかもす。
マリアンが見つめるキリストと子供の像は、どこかしらヨハンとヘンリックに似ているように見える。
手を合わせて祈るマリアン。
主人公の名前がマリアンということで、祈る彼女に聖母マリアのイメージがダブってくるんだ。もっともマリアのスウェーデン名がマリアンなのかどうかは僕は知らないけどね。
いい歳して、とっても子供っぽく見えるヨハンとヘンリックを慈愛で包むようなマリアン。
そういえば、ヨハン役のエルランド・ヨセフソンも前作「ある結婚の風景」からものすごく老け込んでしまったけど・・・ってそりゃ20数年ぶりの続編なら当然なんだけど、発声はとても太く美しいけど、手はプルプル震えてるし、歩くのもおっくうそうだし、観ていて痛々しかったよ。それに対してリヴ・ウルマンの健康そうなこと。
弱いくせに強がる男と、弱そうでいて本当は強い女。そんな感じのカップルでバランスがとれていたよ。
そのヨハンが終盤、素っ裸になって泣き言を言い、マリアンも素っ裸返ししてガキんちょヨハンを包み込むところは、本当に美しいシーンだったさ。
そして誰が撮ったのっていうヨハンとマリアンのベッドインを俯瞰で写した写真を手にとってカメラ目線で訴えかけるマリアン。リアリズムで演出してきた映画はここで一気に嘘っぱちの虚構にすぎなかったことを白状するような、エピローグ。
ここでもやはりモノローグを呟いているのはマリアンというよりリヴ・ウルマンのように思えるんだ。

そんなそんな映画という名のマジックに包まれ、時が経つのも忘れる至福の120分。さすが巨匠とうなりたくなる最高の映画だったよ。

最後に、いくつかかっこいい台詞があったので紹介するね

「その口調のときは好感が持てる。いや、嫌悪感が薄れるよ。ただの感傷でなく、憎しみが宿っていて」

「人は60歳なら6つ、70歳なら7つ不具合がある」

「元気だよ。老化を病と考えるなら別だが」

「もし私が人を侮辱するとしたら、対象は自分だ」

「地獄のように恐ろしい不安が、私の体の穴という穴から出ようとしている。目玉からも尻からも、まるで精神の下痢だ。私の体が耐えるには巨大すぎる」


全部ヨハンの台詞だね

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