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ラ・ラ・ランド [オリジナルであることと、映画館と音楽とソノヤミズノと]

2017-04-11 08:38:04 | 映評 2013~

舞台発映画行きのミュージカルではなく、映画発のミュージカル映画を作ろうという気概が炸裂する圧巻のオープニング

ミュージカル映画の名作といえば、舞台でヒットしたものを映画化したものが多く(古くは「ウエストサイド物語」とか、最近だと「シカゴ」とか「レ・ミゼラブル」とか)、また映画オリジナルの企画であっても歌われるのは既成曲だったりすることが多い(比較的最近だと「世界中がアイラブユー」とか「ムーランルージュ」とか)のだけど、この映画は企画だけでなく歌曲も映画オリジナル。
だからバーンスタインやガーシュウィンの楽曲のような永遠のスタンダードナンバーになるような力強さはないかもしれないけど、既製品の使い回し企画ばかりが横行するハリウッドで俺たちは全部オリジナルでやってやる、そして新しい歴史を作るんだという熱意がみなぎっているのである

ミュージカルシーンの演出にも誰かの真似でも流行りでもないオリジナルであろうとするこだわりが感じられる
多くのミュージカル映画は舞台との差別化のため、カットバックを多用してみたり、編集という映画ならではの技法でリズムを作ったものだが、「ラ・ラ・ランド」はむしろ逆の発想でミュージカルシーンを基本ワンカットで撮る。しかも舞台では絶対に味わえないカメラワークの妙味でもって見せる。
しかもCGでなんでもできる昨今の風潮に逆らうように、フィルム撮りだしあえてアナログ感を出して50年前の技術に近いもので撮っている。あの時代にいても俺たちはできたんだぜと言わんばかりに。
オープニングのシーンなどカメラの動きとダンサーのタイミングがびったり合っていて何か奇跡の瞬間を目撃しているような気分になる
(とはいえ、プロダクションノート読んでいると、リハはiPhoneでやり上手くいったのだが、いざ現地入りしてみるとクレーンはiPhoneのように動かせなくて困った、という「当たり前だろ、アホか!」ってツッコミたくなる苦労話が書いてあって、よく監督降ろされなかったな…と思うのである)

古いものの伝統を守っていくライアン・ゴズリング演じるセブの物語と捉えれば、アナログ感いっぱいのオリジナルミュージカルを作るという企画趣旨にあってる気がする
一方でセブは、時代の革新者ではなくいわばオールドジャズオタクの域を出ない人だった。
どちらかといえばクリエイティブだったのはエマ・ストーン演じるミアの方だけど、あきらめずに努力したというくらいのもの

往年のミュージカルに敬意を表しつつも、さらにその先の新しい歴史をこじ開けようとした野心の割に、物語自体は既成のハリウッドの伝統の中で小さく努力した人たちの、夢をあきらめないで、という普通のよくあるメッセージで終わってしまったのがちょっと残念な気もする
でも、ミュージカルエンターテインメントとしては十分すぎるほど堪能できるし、ミュージカル映画にそこまで深い物語求めてもいないので別に良し。

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話は変わるが、アメリカ映画でよく「映画館で映画を見ながらカップルがキスをする」というシーンがあるけど、あいつらはなんでそんなことをするのか疑問だ。
上映中しゃべるな、前の椅子蹴るなとマナーについての注意喚起が本編上映前にかかるけど、キスするな欲情するなとは言ってないのでマナー違反ではないものと思われる。
でも上映中に画面を見ずにキスするということは、映画が面白くないからか、そもそも作品に興味がなくてキスしたくて入ったからなのか。
だけど「ラ・ラ・ランド」の場合、「『理由なき反抗』を観てないだと。そいつはいかーん。勉強のため一緒に見よう」と言っておきながら、映画そっちのけでキスを始めるとは。
『理由なき反抗』って映画はつまらないと、暗にdisってるのか
しかも上映中フィルムは焼けるわ、おまけに数ヶ月後には映画館自体潰れてるわ。
これは実は映画は死んだ、殺してるのはお前ら観客だ、と訴えているのかもしれない。
こういう扱いするんだったら2人がデートする映画は『理由なき反抗』じゃなく『セッション』にしておけば、まだジョークで済んだのに

話それついでに本作とは関係ないが、もうひとつのアメリカ映画にありがちな「映画館シーン」として「マフィア的な人との黒い密談を場末の映画館で行う」というものがあげられる。
アクションシーンだと相手の声が聞こえないし、静かなシーンだと他の客に話が聞こえるし、密談の場所として、とっても相応しくないと思うのだが、どうなのだろう。だいたい上映中喋るってマナー違反だし。
もっとも、先にも述べたようにアメリカ人は上映中キスに忙しくて周りの話なんか聞いてないから、他人に聞かれるリスクは低いのかもしれない。

余談の余談
女の子四人が、赤青黄緑のドレスで颯爽と歩いてパーティに向かうシーンの曲が、映画音楽の巨匠ハンス・ジマー先生が96年の映画「ザ・ロック」のために書いた曲と似ていることを指摘しておく。
「ザ・ロック」で反乱兵がアルカトラズ島を占拠するシーンの曲で、サントラだと「ROCK HOUSE JALE」という曲の20秒〜50秒あたりの部分だ。
人の曲のパクリでアカデミー賞作曲賞とはけしからーん!
ただしハンス・ジマー先生もおパクリになられることが多くて、「ミッション・インポッシブル2」のある曲はカール・オルフの「カルミナ・ブラーナ」そっくりだったりするので、あまり他人のことをどうこう言えないということも補足しておく

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その4人で颯爽と歩くシーンの黄色いドレスが「エクス・マキナ」のソノヤ・ミズノちゃんだったことにエンドクレジットになってから気づく自分の鈍感さ
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