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映画ブロガーら有志23名による「10年代映画ベストテン」発表!

大いなる陰謀 [監督:ロバート・レッドフォード]

2008-04-28 20:51:57 | 映評 2006~2008
個人的評価:■■■■■□
[6段階評価 最高:■■■■■■(めったに出さない)、最悪:■□□□□□(わりとよく出す)]

褒めすぎ?
なのはわかっちゃいるが、採算など度外視して政治論争に終始した内容にリベラル代表レッドフォードの意地と誇りを感じたことと、国際社会の一員としてのあり方を考えさせる内容に感銘をうけて、個人的には高評価。

****めりるんの「大いなる陰謀」撮影日記****
こんにちは!!あたしメアリー・ルイーズ・ストリープ。みんなからはメリルって呼ばれてるわ。本当の友達からは「めりるん」って呼ばれるの。うふ。
字数の関係で思いっきり端折るけど、私は努力の末、ついに!!憧れの映画女優になったの。
演技が上手いって、みんなから褒められたわ。ハゲで全裸のおじさんの形をした像を二個ももらっちゃったのよ。
これを二個もらうってすごいことなの。アメリカにも数えるほどしかいないの。しかもあたし、一時期なんて毎年毎年候補になってたのよ。誰もが認める名女優になっちゃったの。えっへん! ジョディなんとかとか、なんとかスワンクの演技なんてちゃんちゃらおかしいわ!!
さてそんなあたしの思い出深い出演作のひとつに「Out of Africa」って映画があるの。なぜだかジャパンでは「愛と哀しみの果て」なんてよくわからないタイトルにされちゃってるけどね。映画は、まあ奥様向けの他愛ないメロドラマよ。でもこの映画であたし、全米の女性がうっとりあこがれていた、ロバートって紳士と競演したの。ブロンド、ブルーアイ、背が高くて、ハンサムでスマートで、知的で、ついでにリベラルで、とっても素敵な紳士なの。あの映画でロバートと出かけたラブラブ空中散歩は今思い出しても、うっとりしちゃうわ。
あれから20年くらいたってあのロバートから電話がかかってきたの

ロバート:「やあ、めりるん。僕のことおぼえているかい?」
めりるん:「あーら、あなたのことを忘れる女性がこの世にいると思って?ロバート」
ロバート:「(笑)いやあ、僕なんてもう皺くちゃのおじいさんさ。それにひきかえ君は、二人で空中散歩したあの日から時が止まっているみたいに美しいままじゃないか。うらやましいよ」
めりるん:「(笑)あら、あなたもお世辞の上手さはあの時のまま、いえ、それ以上ね、ロバート」
ロバート:「(笑)そうそう、ところでめりるん。実は今度撮る僕の新作映画の話なんだけどね」

そう、ロバートは今でも女性をうっとりさせる俳優だけど、一方では映画監督としてもプロデューサとしても業界にその人ありと言われる人なのよ。

ロバート:「その新作にね、あの時の僕と同じくらい人気のある俳優を使うつもりなんだ。けれど、こいつが、わがままで、自信過剰で、目立ちたがりで、しかも最近じゃ妙な宗教に走ったりして、ちょっとめんどくさい奴なんだよ」
めりるん:「誰?」
ロバート:「トムっていう奴さ」

トムって人は知ってるわ。たしかに人気のハンサム俳優よ。ロバートほどじゃないけどね。最近あたしが出演した「めぐりあう時間たち」って映画で競演したニコールって人の元旦那よ。もっともあの作品であたしとニコールのからみは全くなかったからあまり話もしなかったけどね。

めりるん:「けどロバート。あなたがにらみを効かせていれば、そんなに面倒なこともないんじゃない」
ロバート:「そうもいかないよ。なにしろわがままお坊ちゃんだからね。そこでね、めりるん、君に彼の相手役になってもらいたいんだ。」
めりるん:「まあ、あたしなんかで大丈夫かしら」
ロバート:「問題ないよ、めりるん。あのニヤケ俳優に、本物の演技ってやつを見せ付けてやってほしいんだ。」

そんなわけであたしはロバートのお世辞にまんまと乗せられ、スタジオに向かったの。
そこには背は低いけどスターのオーラ漂わせた、5分に一度ニヤケ顔を見せるハンサムさんがいたわ。
こいつが噂のトムね・・・ってすぐにわかったわ。
トムは野心家の上院議員。あたしはテレビ局の報道部の記者よ。
上院議員の執務室で、あたしとトムは、監督ロバートのうっとりするような青い瞳に見守られながら、演技をしたわ。
トムったら、十八番のニヤケ顔を時折見せながら、本人そのままの自信過剰な役柄の演技を力演していたわ。
あらあら、力が入りすぎじゃないこと?
そこであたしは、メソッド演技のなんたるかを見せ付けてやることにしたわ。
例によってスタジオ入りする前から心は完全に報道関係者モードよ。
まあ、考えてみて。全裸ハゲおじさん像を二個ももらったあたしが、いまだ一個ももらってない男にまくし立てられて圧倒されると思う?そんなわけないじゃない。でも、あたしロバートの期待に応えようと思って、プライドなんか捨てたわ。
小ずるい野心家議員に「Yes !? or No !?」とかまくし立てられて、圧倒されて口ごもったり応えに窮して口ふるわせてわざと噛んだりする演技をナチュラルにやってのけたわ。
トムったらのぼせ上がって、俺様の演技にはあのメリルもたじたじさ、なんて顔してたけど、あの人逆にあたしの演技の引き立て役に過ぎなかったことに気付いているのかしら。
ロバートもしたたかね。トムの空回り芸風をアホな机上論共和党議員の役にぴったり当てはめちゃったわ。
戦闘機乗り回してただけの男と、あたしとロバート「本物のインテリ」の違いがはっきり出ちゃったわ。ごめんあそばせ。うふ。
さて、今夜のディナーはロバートとロマンチックな夜景でも見ながらいただこうかしら・・・

ああ、ところで念のため書いておきますけど、あたしとちがって、このブログの管理人さんはトムのことを心から愛しているそうよ。誤解なさらないでね。
それじゃまた次回作で逢いましょうね。ちゃーお

****監督・俳優レッドフォードの魅力と、脚本の上手さについて****
銃撃されヘリから落ちた仲間を救うため、ヘリからダイブする兵士の姿に、最初は「そこまでするか?」と思いはしたものの、やがて話が進むにつれ明らかになる「そこまでするに足る」二人の兵士の人間関係に感動し、胸かきむしられるクライマックスへと進む物語のうまさ。監督レッドフォードの青年たちへの深い愛情。
おまけに俳優レッドフォードの上手さも観れて満足。
生意気な生徒の無思慮な一番言われたくない一言にカチンときつつも、年長者として指導者として、取り乱さず語調も態度も変えず、眼だけで怒りと確固たる信念とを表現する。あの眼は怖い。信念をもった教育者に完全になりきった演技だ。
また、その生徒がアメリカの政治家を批判して、「歴代大統領候補はどいつもこいつも決まって『大統領には立候補しない』なんて堂々と嘘をつくんだ」みたいなことを言わせておいて、後々に別エピソードでトムがメリルに「断言しよう。大統領には立候補しない」などと言わせる脚本の上手さも脚本家志望の人には勉強になるだろう。
複数エピソード同時並行型ストーリーの見本のような、各エピソードの強すぎず弱すぎずの有機的結合にハリウッドの脚本家のレベルの高さを見る。
地味なのはわかっちゃいるが、色々な面白さを見出すことができる作品で、やっぱり監督レッドフォードは侮れないと思わされたのだった。


****哀愁のトランペッター・アイシャム(哀シャム)****
本作の音楽担当はマーク・アイシャムという男である。
「ブラックダリア」の記事にも書いたが、元々はトランペット奏者で、前衛的ジャズの世界で幻想的なトランペットの音を奏でていた人物だ。♪パラララパラララと技巧たっぷりノリノリの演奏に走らず(やればできるだろうが)、♪パ~~~ラ~~~パラ~~ラ~~~と、じっくりじんわりと聴かせるミュージシャンである。
作曲家としても有能で80年代末か90年代初頭くらいから映画音楽も手がけるようになった。
オーケストラとシンセサイザーを自由自在に操り映画を盛り上げていく彼だが、最大の武器はやはりトランペット。
「蜘蛛女」「ショートカッツ」「クイズ・ショウ」「ブラックダリア」と哀愁を帯びたトランペットに包み込まれると映画はたちまち情感があふれ出す。
トランペットは孤独の音色。薄暗く汚い路地裏に立つ男たちの内なる涙の調べ。アイシャムのペットは都会の闇に哀愁をもたらす。
また一方でトランペットといえば、昔から軍隊の音色であり、愛国の調べを奏でてきた。
アイシャムもまた「英雄の条件」で熱き軍人賛歌をトランペットで高らかに歌い上げた。
そんなアイシャムにとって、9.11後の政治の闇と、アフガンの軍事作戦を題材にした作品はまさにうってつけの題材であった。
まして監督はアイシャムのこれまでのところ唯一のオスカー候補作である「リバー・ランズ・スルー・イット」のロバート・レッドフォードである。相性抜群の監督。どんなアイシャム節か聴けるのか、とそんなマニアックな期待も抱いて劇場に向かったのであった。
音楽は、電子音とストリングスを主体にしたはっきりしたメロディのない、いわゆるアンダースコア。ポリティカル・サスペンスであり、テロと戦争に疲れ進むべき道のわからなくなったアメリカを描く映画の音楽としては申し分ないダークサウンドだ。しかし、哀愁のトランペットが待てども待てども響いてこない。今回はペットを封印して俳優たちの演技合戦と政治論争を陰から支える役目に徹したらしい。アイシャムを持ってしても、情感も哀愁も軍人魂も表現させないロバート・レッドフォードの非情にして真摯な姿勢か。
そういえば先にも書いた「リバー・ランズ~」もペットを封印し、ストリングスとピアノと木管の柔らかい響きで兄弟のドラマを詩情豊かに謳いあげたスコアだった。レッドフォードはトランペットを好まないのかもしれない・・・
・・・と、思いつつ、いよいよ迎えた悲劇的なクライマックス。
アフガンの山中で孤立した親友同士の二人の兵士がついに戦死する場面で・・・高らかにそしてじっとりと鳴り響く哀愁のトランペット!!!
ここできたかぁぁぁっっ!!!!と、映像と物語の感動との相乗効果もあって鳥肌ものの感動の一撃を喰らった私だった。
その後エンドクレジットでまたトランペットが聴けるかな・・と思ったが、エンドクレジットはストリングスの美しい曲でペットは響かなかった。アイシャム節全快の極上ペットの調べは、あのクライマックスだけで鳴り響く。
アイシャムのトランペットによるピンポイント攻撃は、彼の分身ともいえる楽器への深い愛着とこだわりとを余計に感じさせてくれるのだった。

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3 コメント

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こんばんは♪ (ミチ)
2008-04-28 23:05:16
「めりるんの撮影日記」最高に面白かったです!
めりるんがそういうことを思いながら演技していたのかと思うと、もう一度映画をチェックしたくなってしまいました。
返信する
心よりありがとう (sakurai)
2008-04-29 07:55:24
しんさま。
うれしいです。
褒め過ぎなんかじゃないです。
素晴らしいと言っては映画のテーマ上、問題がありそうですが、レッドフォードの意地と誇り、おまけにものすごい決意と、懺悔のようなものも感じました。
そして、それはわかってくれる人だけに向けたのではなく、不特定多数の人に向けて、なんとかくみ取ってくれ、という悲壮な思いまでも。
トム君、らしくって最高でした。
ああいじれるのはレッドフォードならでは。
でも、トム君も、それに乗りながら、余裕でやってたような確信犯的な演技でしたよね。
返信する
コメントどうもです (しん)
2008-05-06 22:09:59
>ミチさま
めりるんよ
コメントありがとね
あの記事は読者向けのフィクションで、あたしの本心とは必ずしも一致しないわ。じゃあね

>sakuraiさま
トムです。
もちろん、ロバートの意図するところは判っていましたが、そうかといって他の種類の演技もできないので、いつも通り精一杯演じたのサ。
それでロバートの意地と誇りに貢献できるならよろこんで道化になろうと思ったのサ。
でも、俺の演技、やっぱり上手かっただろ。見入っちゃっただろ
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