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ALIQOUI film 制作作品公開 『その悩み何バイト?』 (2005年作品 18分)

2020-04-19 13:58:53 | ALIQOUI Film制作自主映画の紹介
コロナ感染拡大防止のため外出自粛が呼びかけられている今だから、過去作品をWeb公開

「その悩み何バイト?」
2005年作品 18分
小津安二郎記念蓼科高原映画祭 入選




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監督・脚本・編集 齋藤新
撮影 齋藤新/関さやか
アシスタント リコ
出演
ゆーすけ
リコ
吉(カトキチ)


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この映画は今思い返すと自分の映画制作の転機となった作品だ。
この作品でもたらされた転機は2つあった。役者を使うことと、映画コンペに参加すること。
 
 
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【撮影の思い出】
松本で暮らし始めたのが1998年。松本で初めて自主映画を撮ったのが2001年。そして2004年に松本で初めての自分の作品の自主上映会を開催した。夏頃だったと思う。
その時の観客の中で映画製作に興味ありますという人たち何人かと長編映画を作る計画を立ててストーリー構成は考えたのだけど、本職の方が非常に忙しくなり脚本が全然進まなくなってしまった。
明けて2005年。ようやく映画のプロジェクトを再始動しようと思ったが、上映会直後に賛同してくれた皆様も半年も経つと状況が変わり、例えば大学生だった人は就職活動や卒論で忙しくなったりして、予定していた企画は凍結し、ごく少人数でできる別の企画をスタートさせた。
 
ちなみに当初考えていた長編は、未来の出来事を知ってしまった男が彼の属する犯罪者チームの内紛に巻き込まれる・・・というSF要素あるサスペンスだった。脚本も書いてないのに小道具の拳銃(モデルガン)だけ先に買ってしまった。そのモデルガンはのちに「夢中櫻舞」や「罪と罰と自由」で大活躍するので無駄にはなってない。
 
 

話は戻って2004年の秋。茅野市(松本から電車で30分くらい)に「小津安二郎記念蓼科高原映画祭」を見にいった。その時は小津映画を見るのが目当てだったが、会場にて短編映画コンクールをやっていると知り、表彰式と入賞作品の上映も観た。
その時のグランプリは古本恭一さんの「アトムの光」だった。のちにその古本さんと長編2作品の制作でご一緒することになろうとはこの時思う由も無い。
こんな松本のすぐそばでコンペがあるなんて知らなかった。よし俺も来年は出品してみよう!と思ったのだ。
それで頓挫した長編を凍結して、まずは蓼科高原映画祭に出すための短編を撮ろうと思ったのだった。
 
 
話はまた戻って2004年の夏か秋。クリストファーノーランのように時制があっちこっち飛んでごめんなさい。
当時私は長野県では有名な大企業のE社に派遣のソフトウェアテスト技術者として働いていた。E社は県内数カ所に事業所を持っており、私の勤めるM事業所では納涼祭と称して夏か秋に敷地内にステージを作って福引き抽選とか、社員参加のクイズとかそういうのをやっていた。
そして私はその納涼祭のMCを実は8回くらいやっていて、M事業所では割と知られた存在だった。
ただしその年はMCをやらずに純粋に客だった。その年のMCを務めていたのは浴衣姿の女性で、流暢なトークでイベント進行を行なっていた。
納涼祭が終わり、職場の皆さんと二次会に行こうかと話していたら、私は一人の女性に呼び止められた。その女性は先ほどまでステージでMCをしていた浴衣姿の女性だった。その時は名前も知らなかったし、喋るのは初めてだった。
松本で上映会をしたことで私のことを知り、映画製作するならなんでも手伝いますから、作品を作る時は声をかけてください、と。それでメアドの交換をしたのだと思う。
その人こそのちに劇団「れんげでごはん 」を立ち上げるリコさんだった。
このころ彼女は所属劇団もなく表現の場所を求めていたころだったのだと思う。
 
 
2005年になって脚本を書いた私はあの時声をかけてくれたリコさんに連絡すると、すぐに企画に参加してくれた。
その当時、本当に専属スタッフのいなかった私たちは、出演者は職場の友達や同僚だし、映画製作の知識のあるスタッフや、知識がなくても気の利くスタッフもいなかった。
リコさんには実は出演ではなく、スタッフとしての参加を打診したのだ。全然いいですよとほぼ面識のない私の現場に来てくれて、そして主に照明持ちをやってもらったのだが、よく気が効く方だった。
 
 
映画の現場で戦闘力の高いスタッフは、監督やカメラマンの視線の先をよく見ている。
カメラの向いてる方にゴミとかスタッフのカバンとか広げたままの脚本が置いてあったりしたら黙ってそういうのをどかしてくれたり、三脚の高さを調整してくれたり、指示されなくてもレフ板の傾きを調整したりしてくれる。
そういう気の利く人は劇団員に多いように思う。リコさんもとても気が効く人だった。
それで撮影の流れでまだキャストの決まっていなかった「マリちゃん」役もお願いしたら普通に引き受けてくれた。
それどころか、もう一人役の決まっていなかった「タツミくん」役もいい人知ってますよと紹介してくれた。
紹介されたのはクレジットでは「吉」となっているが、松本の演劇界隈だと「カトキチ」さんと呼んだ方が通ると思う。
カトキチさんもまた、のちに「れんげでごはん」を立ち上げ、れんげのメインライターになっていく方だ。
  

ごく当たり前のことなのにすごく感動した思い出がある。
その当時、出演者は友達にお願いするのがメインだった。私の映画に出てくれるだけで感謝しかないから彼ら彼女らが演技が下手でもモチベーションが低くても何も不満はなかったのだけど・・・
リコさんとカトキチさんは事前にセリフを覚えてきて、撮影始まる前に自主的に読み合わせをするという、その光景に私は震えるほど感動したのであった。本物の役者は違うな・・・と思った。
この作品以降、出演者は原則的に役者をやっている方にお願いするようになる。
 
 
リコさんは次作にも出演してくれた他、何作品かで私にいい役者の紹介・斡旋をしてくれるようになった。彼女がいないと「猫とり名人」と「Soulmate」はなかったかもしれない。
映画以外でも2008年に俳優の速水亮さん(仮面ライダーXこと神啓介役で有名)が主催する演劇ワークショップに参加したリコさんは、ワークショップの発表公演のオープニングに映像を流したいという速水さんに、私をビデオの撮影・演出として紹介してくれた。
その時の縁で2014年に速水さん他昭和ライダー4名が集まるファン向けイベントのビデオ撮影を速水さんご本人から依頼されたりと・・・リコさん起点での映像仕事が思い返すとちらほらある。
 
 
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【映画コンペに初入選】
「その悩み何バイト?」は私にとって初めて映画コンペに入選した作品となった。
小津安二郎記念蓼科高原映画祭である。
入選した作品はどれも面白かったし、明らかに予算も技術も私のより上をいってるものばかりだった。
よく入選したものだなあと思ったが、実行委員長にズバリどこが良かったか聞いてみると、これもズバリ「地元贔屓だよ」と言ってくれた。
この年の審査委員長は大森一樹監督で、総評では「様々なジャンルの作品が並び、それぞれのジャンルの中で優れた作品ばかりで、基本的には優劣の付けようが無かった。それでも小津映画祭ということで、いわゆる映画的な作品の中から入賞を選んだ」と仰っていた。
そして私の映画に対するコメントも頂いたのだが、その内容はというと、「これは映画じゃないなと思ったが、じゃあ一体なんなんだろ?」と当惑気味のコメントだった。
(どうでもいいが、その年における大森一樹監督の最新作は「超星艦隊セイザーX」でこれはとても映画映画していた。特に伊福部昭のテーマ曲付きで海底軍艦轟天号が突如乱入してくるところとか)
 
 
しかし地元贔屓でも映画じゃなくても構わない。とにかく第一歩を踏めた。
蓼科には翌2006年にも「猫とり名人」で入選。そして2010年には「せば・す・ちゃん」で3回目の入選、そして初めての入賞まで頂いた。少なくとも2010年は地元贔屓枠から抜け出したってことでいいですよね(笑)
そして2012年以降は県外の映画祭での入選、入賞が続く。
 
 
蓼科での入選で意義深かったのはもう1つ、他の入選作家や映画祭スタッフの方との交流が生まれることだった。
映画を作るモチベーションが蓼科入選を契機にグッと変わった気がする。
 
 
「その悩み何バイト?」は、自分の映画作りに相当大きな転機を与えてくれた作品だと思う。密かに転機を与えてくれたリコさんと蓼科高原映画祭には今も感謝しております。
 
 
———
【作品で目指したこと】

私は森田芳光監督の「(ハル)」も、岩井俊二監督の「リリィシュシュのすべて」も大好きなので、そうした映画の影響はもちろんある。
ただしこの映画は2004〜2005年ごろにおけるインターネット社会への私なりの批評を試みた面が大きい。
個人的にこの映画は映画版「電車男」へのアンチテーゼのつもりで作っていたと思い込んでいたのだが・・・記憶違いだった。「電車男」映画版の公開は2005年の6月。ドラマ版も2005年の秋。
「その悩み何バイト?」は映像に雪の積もった松本が写っているので、撮影は2005年の1月〜3月くらい。『映画「電車男」へのアンチテーゼ』は後付けで記憶が混同していたらしい。
2chで「電車男」が話題になっていたのは映画より前に知っていたし、2chをまとめた書籍版も買ったが、でも映画を見るのと同時期だったと思う。
余談だが今でも映画「電車男」には批判的な思いがある。映画版はインターネットの向こう側を再現することで「電車男」の魅力を破壊し、通俗性の極みのようなただの物語に落とし込んでしまったと。「電車男」の魅力はストーリーではなくインターネットの可視化されない世界の表層に浮いた灰汁ののようなものを楽しむところにあったはずなのに・・・と。

じゃあなんでこの映画を考えついたのかと、当時を探っていくと、思い出した。この物語の創作に一番影響を与えたのは、「電車男」でも「(ハル)」でも「リリィシュシュ」でもなく、松本駅前で聞いた政治街宣だった。
 
 
ネット右翼(ネトウヨ)が、インターネットの中で幅を利かせるようになってきたのはこのころだった。掲示板には差別的な発言が溢れかえっていた。印象論だが今は左翼もネットで暴れているが、右翼のほうがネット利用・活用は早かったし、今もネットによる空中戦では右翼側に一日の長を感じる。
それはさておき、2004年のある日松本駅前で「市民団体」の女性が街宣していた。
「マスコミは嘘ばっかり。テレビや新聞を信じないでください。みなさんネットを見てください。真実はネットにあります」
そしてネットで知ることのできる真実として、嫌中嫌韓、日教組、民主党、朝日新聞の批判といった、まあよくあるネトウヨ定番フルコースな主張をされていた。
まあ主義主張は差別でなければ自由にしてくれて構わないのだけど、私が引っかかったのは彼らの語る「ネット=真実」論だった。
 
 
私も紙とテレビのマスコミをそこまで信じてはいない。だからと言って「ネットはいつも正しく、マスコミは全部嘘」と短絡的に信じているその人たちの主張は間違っていると思った。
ネットはとても便利だが自分の興味ある情報に関してのみ異常に強いバイアスがかかり、先鋭化しやすいという問題点がある。
 
 
かくいう私だって、自分のTwitterのタイムラインを見ていると日本のほぼ全ての人間は安倍政権と自民党が大嫌いなのだと錯覚してしまう。
Google先生もあなたにオススメの情報とかなんとかいって、私の喜びそうな安倍政権バカみたいなニュースが勝手に検索候補のトップに来るのである。
 
 
2004年当時はまたTwitterもFacebookも今ほど普及していなかったので、ネット社会はもう少し陰湿だった気がする。
だがネットには「真実」はともかく、「本音」が溢れやすいというのは、今も昔も変わらない。
当時は掲示板が強かったので匿名投稿を真実と単純に信じてしまう風潮があった。
ネットは無責任に思ったことを垂れ流す。それは人から「本音」を引き出すメリットもあるし、先鋭化しすぎた思想を生み出しやがては間違った行動にもつながりかねないデメリットもある。
 
 
この映画で伝えたかったのはそれである。だからこの映画は私の初めて撮った社会派映画なのだ。
そう思うと、ネトウヨの皆さんがいないとこの映画が生まれることはなかったかもしれない。ネトウヨにも感謝しなくっちゃw
 
 
「その悩み何バイト?」は今見返すと、色々と稚拙すぎるところもあって恥ずかしい。最近、東海林毅監督の「23:60」という短編映画を観て、その映画は仮想空間でのアバター同士の会話劇なんだけど、実はそれが「その悩み何バイト?」と同時期に撮られていたことを知って、なんだか自分の映画がとても恥ずかしくなった。映像表現もダークな世界観もインターネットに関する知識も、圧倒的に凌駕されていた。Zガンダムとザクくらいの戦力差を感じた。
とはいえ「その悩み何バイト?」のラストシーンは今でもとってもとっても面白いと、自己満足度は高いです。
 
2005年という時代性も感じながら楽しんでいただけると幸いです

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