平成二十六年二月二十三日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号
「潜入! ウワサの現場」で記事
「相場50万円なのに家賃タダ…公務員宿舎利権の闇」
を企画、取材、執筆しました。
厚労省の統計(毎月勤労統計調査(確報)によると、昨年の労働者一人当たりの一か月の給与(残業代、ボーナス含む)は平均31万4054円で、「3年連続の減少で過去最低」だったことが2月18日に明かになった。アベノミクスで景気は上向いているといわれる中、実生活は全然変わらない、むしろ前より悪くなっている、と感じていた人もいると思うが、それは多くの国民に当てはまっていたことを物語っているといえそうだ。しかも、給料が上がらない中、円安で物価が上がり、4月からは消費税まで上がる。家計のダメージは避けられない情勢だ。
その一方で、財政の歳出削減はまだまだ進んでいない。その象徴の一つが、役人利権の温床「国家公務員宿舎」である。国家公務員宿舎は全国に約21万8千戸ある。そこに住む役人が払う家賃は、なんと相場の5分の1程度という格安物件なのである。
そのため税金の無駄遣いとの批判を浴び、政府はしぶしぶ今後5年間で5万6千戸を削減して、宿舎の家賃も今年4月から段階的に約1.7倍に引き上げると昨年12月に発表した。
こう聞くと、役得利権はなくなったかのようにもみえるが、実際はまだまだ残っている。まず、家賃は1.7倍に上げても、もとが低過ぎるので、格安であることに変わりはない。都内の宿舎をみると、例えば、江東区にある地上36階建の東雲(しののめ)住宅(11年完成)は、3LDK、69平米で家賃約6万円(値上げ後の試算額。以下同)。高級住宅地の目黒区東山住宅(06年完成)も3LDK、65平米で家賃約6万円。JR原宿駅から徒歩5分の東郷台住宅(96年完成)は4LDK、96平米で13万9400円。
さらに千代田区、中央区、港区の都心3区は廃止の方向といいながら、千代田区の三番町住宅(95年完成)4LDK、88平米で約13万4千円などは温存される。
しかも千代田区内にある紀尾井町住宅(01年完成)に至っては、3LDK65平米で家賃はなんと「無料」である。付近相場は40~50万円に達するにもかかわらずだ。これは有事の際の危機管理要員で官邸に30分以内に集まるため、という理由で、局長クラスが住んでいる。
実際に筆者は現地に行ってみた。そこは国会から徒歩約10分の場所にある。千代田放送会館、都市センターホテルなどのある通りを横に入ると50~60mの並木道がある。左手は樹木や草やうっそうとしており、赤と白の梅の花も咲いており、およそ都心とは思えないような閑静な場所である。並木道には、この道をいくと紀尾井町住宅なので関係以外の車の走行は禁止します、という意味の看板がかかっている。並木道の突き当たりまでいくと、忽然と7階建ての住宅が現れた。これが紀尾井町住宅である。建物の背後には清水谷公園があり、その奥にはホテルニューオータニがある。ここをタダで住んでいて罪悪感が湧かないのか疑問である。それにこんな場所にタダで住んでしまうと、家賃や住宅ローンの負担がのしかかる庶民の気持ちなど一生わからなくなってしまうのではないか。
役得宿舎はそれだけではない。全国の好立地に蟠踞しているのが実態だ。例えば横浜市の山下公園や名古屋城、大阪城、広島城、福岡城址などの付近にも宿舎はある。
しかも国家公務員だけではない。官僚の天下り先の「独立行政法人」(以下、「独法」と表記)にも宿舎はある。独法とは住宅金融支援機構、都市再生機構、国際協力機構、農畜産業振興機構、宇宙航空研究開発機構、原子力安全基盤機構など102法人ある。もちろん、独法の資金の原資は国民の税金や資産。
これら全独法の宿舎の実態について、筆者は民主党政権末期の一昨年後半に情報公開請求をして調べてみた。すると、約2万戸ある宿舎の大半は、「借り上げ宿舎」と呼ばれるものだった。これは民間の賃貸マンションを独法が借り上げて、そこに職員たちが国家公務員の格安宿舎と同じ金額で住むというシステム。つまり、相場の5分の1程度で住んでいるというわけ。借り上げ宿舎は築浅物件が多く、築年数の古いものも多い公務員宿舎よりもさらに役得ともいえる。
開示された文書は、どれも正規の家賃、支払っている賃料、平米、物件名、間取りなどが虫食い状態で一つ二つ黒塗になっていた。例えば、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は神奈川県横浜市緑区のスカイヒルズ参番館(04年完成)、57.30平米、正規家賃108,000円に、21,600円で住んでいたり、UR(都市再生機構)は、被災地の仙台市若林区長町(04年完成)の31.30平米の物件に10,726円、宮城県多賀城市大城の物件(07年完成)の2DK、45.80平米に14,850円で住んでいてた。
鉄道運輸基盤整備機構は、横浜市緑区内のヒルトップいぶき野(91年完成)、67.28平米に19,430円で、奈良市のグラン・ヴェルジェ(08年完成)、67.81平米に24,321円で居住していた。
日本学生支援機構は、東京都中央区にある晴海アイランドトリトンスクエアガーデンプラザ(97年完成)、2LDK、64.00平米、正規家賃173,200円の場所に、約5分の1で入居していた。
また、労働政策研究・研修機構は、東京都練馬区内のクレール・メゾン、3LDK、62.20平米、正規家賃140,000円や、東京都中野区内の藤和北江古田ホームズ、3LDK、69.40平米、正規家賃150,000円や、東京都豊島区内のサンサーラ大塚、3DK、46.87平米、正規家賃150,000円に、5分の1程度の家賃で住んでいた。
上記はほんの一例である。民主党政権は末期状態のなかで、これら独法の宿舎削減を叫んでいたが、自民党に変わった途端、雲散霧消した。
独法だけではない。全国の都道府県、政令指定都市などにも激安宿舎はある。そうした官尊民卑、役人天国の利権にはメスは入らないまま、国民は血税を絞り取られている。「隗より始めよ」という言葉がある。意味は「遠大の事をなす時は、まず卑近な事から始めよ。転じて、物事は、まず言い出した者が着手すべきであるという意」である(広辞苑より)。この言葉を実践してから国民に負担を求めるのが筋ではいないだろうか?(佐々木奎一)
写真は、紀尾井町宿舎前の並木道。