ジャーナリスト活動記録・佐々木奎一

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「自殺予防デー」ライブ・イベントに潜入!

2011年11月25日 | Weblog

 加護亜依の自殺未遂や上原美優の自殺、JR北海道社長の失踪など自殺問題が世間を騒がしている。なにしろ日本は昨年の自殺者数が3万1,690人(警察庁調べ)で、13年連続3万人を超える自殺大国。

 そんな日本で、「世界自殺予防デー」の9月10日に「ストップ! 自殺~それでも私たちは生きていく~」と題するトーク・ライブ・イベントが行われた。場所は東京都渋谷区内。主催は作家で詩人の月乃光司氏。イベント会場に向かった。

 現地に着くと開演の30分以上前から、20~30代くらいの男女を中心に、100人以上が列をなす盛況ぶり。場内にはニコ生やユーストリーム、TBSなどのカメラも入っていて、開演中のニコ生のアクセス数はなんと2万人以上で、自殺問題に対する関心の高さをうかがわせた。

 イベントは3部構成。第1部では、まず、ミュージシャンで作家の大槻ケンヂ氏を囲んでトークライブ。そこで月乃氏が「20代前半に引きこもっていて、つらくて、『今日死のう』と思って、でも死ねなくて明日が来る、という日々を繰り返していた。99%人生を嫌だと思っていたが、1%楽しみがあったのが、大槻ケンヂさんと戸川純さんと週刊プロレスだった」と披歴。司会者から「三つのうちの一つに数えられた感想は? 」と振られた大槻氏は「王道です」と言い、会場は爆笑。

 大槻氏は「鬱でどうにもならない状態を、ちょっと見方を変えて、俯瞰して、笑いにシフトできると、いいと思う」と指摘。さらに死にたいと思っている人たちへのメッセージとして「どんなにボロ切れのような人生だとしても、1日ぐらい、ごくまれに楽しいことがある。その一夜のことをずっと胸に思っていれば、意外になんとかなるものだ」という中島らも氏の言葉を贈った。

 次に、漫画家で「ツレがうつになりまして。」の著者の細川貂々(てんてん)氏が、サラリーマンの夫が、うつになったことを紹介。夫の異変に気付いたのは、「自殺はいけない」という持論をもっていた夫が、「もう死にたい」とまじめな顔で言った時だったという。その2、3か月前までは、夫の職場の部署は30人中25人がリストラされる嵐の渦中で、生真面目で責任感の強い夫は、リストラされた人の分までがんばろうという思いで、過剰なまでにテンションが高く、徹夜しても平気の「スーパー人間」になっていたという。「今から思うと、躁状態から、うつになったのだと思う」と語る。

 家族のサポートの仕方のコツについて、貂々氏は「『カーテン1枚の距離』とよくいうように、自分の世界をちゃんとつくること。自分がいかに楽しく生きられるかを考えながら支えていかないと、最後までサポートできません」と言う。

 第2部では、アルコール中毒の父や性的虐待をする兄などにより自殺未遂を体験した5人が、赤裸々に「どん底」体験と「生き残ってきた」希望を語り、自作詩を朗読した。

 中でも場内からすすり泣きが聞こえてきたのは、古市佳央(よしお)氏(男性、40歳)の話だった。古市氏は高校一年の春、バイクで車と接触し炎上。全身の41%に火傷を負い、担当医が「顔と手は元に戻らない」と家族に告げるほどの大事故に遭った。手術は計33回、入院は3年間に及んだ。

 はじめに自分の変わり果てた姿を鏡で見た古市氏は、「死のう」と決めた。が、寝たきりで動くこともできず、舌を噛んでも顎に力が入らず噛み切れない。そんな絶望の生活のなかで、うれしい驚きもあったという。

 「手術を終えて口にした、氷のおいしかったこと。まぶたが抜糸されて目を開けた時の、光の美しかったこと。食べることの幸せ。生きることの喜び。『今日、生きていることは当たり前じゃない。奇跡なんだ。今日を生きたくても生きられない人もいる。今ここに生きている奇跡に感謝しないで、何に感謝するんだ』。そう思えるにようになった」。

 そんな古市氏に、さらなる壁が立ちふさがった。退院後、世間の冷たい視線にされされることになったのだ。電車の中で指差し、ヒソヒソ話をする女子高生。ジロジロ見る大人。そうした人の目に苦しみながら、古市氏は自叙伝を出版した。すると、多くの手紙が寄せられた。手紙の多くは、小さい頃から虐待を受けた人、難病や心の病に苦しんでいる人など、つらい体験をつづったもので、どれも壮絶な人生だったという。こう記す人も多かった。

 「勇気をもらいました」。「死ぬことを止めました」。

 そんな読者たちに古市氏は無精に会いたくなり、近隣の人たちから会いに行った。最初はどれだけ悩んだ顔をしているのかドキドキしたというが、イメージに反し、見た目は普通に見えた。そこで古市氏の心は大きく揺さぶられた。

 「俺が普段見ている人も、もしかしたら心に大きな悩みを持っているのかもしれない。世の中の多くの人は悩みを表に出さないで生きている…。俺はそんな人たちを、幸せだと思い込み、俺だけが不幸だと思い込んでいた。見た目で人を差別していたのは、俺のほうだったんだ。人は皆、弱さを隠して生きている。本当の勇気とは、自分の弱さを認めてあげることだ。本当の強さとは、同じ痛みを抱えている人に手を差し伸べることだ」と思ったという。

 その後、古市氏は、差別や偏見をなくすための「オープンハートの会」という組織を立ち上げ活動を続けている。

 第3部では作家の雨宮処凛氏と精神科医の香山リカ氏が登場し、自殺をテーマに対談。こうしてイベントは当初予定を1時間近く上回り、約3時間に及んだ。(詳細はニコニコ動画で視聴可)。イベント終了後、参加者たちの多くは、長時間の疲労もあったはずたが、心なしか、来た時よりも精神的に元気になっているように見受けられた。

 

 

 2011年9月18日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号
 
「潜入! ウワサの現場」で記事
 
「『自殺予防デー』ライブ・イベントに潜入!」
 
を企画、取材、執筆しました。 
 
 
写真は古市佳央(よしお)氏。


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