ジャーナリスト活動記録・佐々木奎一

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麻生副総理「ナチスの手口に学んだら」の波紋

2013年08月19日 | Weblog

 2013年8月2日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号
 
「朝刊ピックアップ」で記事 
 
「麻生副総理「ナチスの手口に学んだら」の波紋」
 
を企画、取材、執筆しました。
 


 けさの各紙は麻生太郎副総理兼財務相が、憲法改正について「ナチスの手口に学んだら」との発言昨日撤回したことを大きく報じている。

 ことの発端は、7月29日に開催した都内のシンポジウムの席でのこと。ここで麻生氏は「単なる護憲、護憲と叫んでいれば、平和が来るなんて思っていたら大間違いだ」と憲法改正の話を切り出し、「ヒトラーは民主主義によって、きちんとした議会で多数を握って出てきた。いかにも軍事力で取ったように思われるが全然違う。ワイマール憲法という当時ヨーロッパで最も進んだ憲法下にあってヒトラーが出てきた。常に憲法が良くても、そういったことはあり得る」と、いきなりナチスを引き合いに出した。そしてこう述べた。

 「ワイマール憲法もいつの間にか変わっていて、ナチス憲法に変わっていた。誰も気づかないで変わった。あの手口に学んだらどうかね。本当に、みんな、いい憲法と、みんな納得して、あの憲法が変わっているからね。僕は民主主義を否定するつもりも全くありませんし。しかし、重ねて言いますが、喧騒の中で決めないでほしい」(読売新聞より)

 この発言に、米国のユダヤ系人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」が「どのような手法がナチスから学ぶに値するのか。民主主義をひそかに機能不全にすることか」と批判声明を出すなど大ごとになった。そのためか麻生氏は昨日、自身の発言を撤回した。

 ちなみに、「サイモン・ウィーゼンタール・センター」(以下、SWC)の抗議の特徴については、「タブーの正体! マスコミが『あのこと』に触れない理由」(著: 川端幹人/筑摩書房刊)に詳しい。

 それによると95年に月刊誌「マルコポーロ」2月号(文藝春秋刊)が「ナチ『ガス室』はなかった」という記事を掲載した。その途端、SWCが抗議活動を開始。すると発売からわずか2週間後に、発行元の文藝春秋が「公正さを欠いた記事だった」として同誌の廃刊と掲載号回収、編集長解任、という異例の全面謝罪を発表した。

 99年には『週刊ポスト』10月15日号(小学館刊)が、「長銀『われらが血税五兆円』を食うユダヤ資本人脈ついに掴んだ」と題する記事を出した。この時もSWCが抗議声明を発表。すると小学館の幹部が米国に出向いて、SWC側と交渉し、週刊ポスト誌上に検証記事と、二分の一ページもの謝罪文を掲載。さらに同誌の新聞広告でも訂正・謝罪するという全面屈服ぶりだった。

 どうしてメディアがここまでSWCを恐れるのか――。その理由は、SWCは、メディアのスポンサーに広告を引き下げるようプレッシャーをかけるためという。SWCが要請すると、ほとんどの企業は応じるという。具体的にはマルコポーロ事件では、フォルクスワーゲン、カルティエジャパン、マイクロソフト、フィリップモリス、三菱自動車などが次々に広告出稿中止を表明。さらに『文藝春秋』『週刊文春』『CREA』『Number』など、文春の他媒体でも停止するという企業も出た。

 週刊ポストのケースのときは、現パナソニック、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、マツダ、サントリー、キリンビール、住友商事、マスターカード、フィリップモリスの10社に広告出稿中止をSWCは求め、ほとんどの企業が「要求に応じざるを得ない」と内々に小学館に伝えていたという。

 こうしたSWCの対応から考えると、今回の麻生氏の発言に対し、SWCは、日本経済全体に圧力を加える可能性もある。そうなれば、日本の株価は下がるかもしれないし、実体経済での取引にも悪影響を及ぼすかもしれない。

 昨日の麻生氏の発言撤回により、喧騒は収束するのか、それとも出処進退や日本経済にも波及するのか、予断を許さない情勢といえよう。(佐々木奎一)


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