ジャーナリスト活動記録・佐々木奎一

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リコー技術者を運送会社の倉庫に“島流し”訴訟、判決に潜入!

2013年12月10日 | Weblog

 平成二十五年十一月十七日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号
 
「潜入! ウワサの現場」で記事
 
「リコー技術者を運送会社の倉庫に“島流し”訴訟、判決に潜入!」
 
を企画、取材、執筆しました。

 

 11月12日、複写機大手のリコーの出向裁判の判決が東京地裁で出た。この事件は、11年5月、リコーがグループ1万人の削減を発表したことに端を発する。

 その直後、「人事に関する面談」と称して40代後半~50代の特定の社員を呼び出し、執拗に退職を迫った。拒絶する社員は「子会社の物流会社の倉庫や本社工場に配転、出向させる」と脅し、計4度にわたる退職強要を断った社員は、実際に倉庫や工場の現場に飛ばされた。

 今回の裁判は、こうして“島流し”の憂き目に遭った社員のうち、原告のA、B氏(ともに男性)が、物流会社リコーロジスティクスへの出向の無効や、出向による身体的、精神的苦痛に対する慰謝料として各220万円の請求などをリコーに求め、東京地裁に提訴した事件である。

 判決は午後1時10分に始まった。筆者は10分前に法廷に入ったところ、傍聴席全16席のうち半分は報道席となっていた。法廷内の報道席は記者クラブ限定の席である。すでに記者クラブメディアは4、5人来ており、テレビカメラも一台入っていた。傍聴人用の空席が数席あったので筆者は座った。その後、法廷の向かって右手の被告リコー側の席に、30代の男性弁護士が三人着席した。左手の原告側には、男女各3人の弁護士が座った。1時10分となり、裁判長が入廷した。東京民事11部の篠原絵里裁判長である。その後、2分間のテレビカメラの撮影時間を経て、篠原裁判長が判決主文を読み上げた。

 「原告らが訴外リコーロジスティクス株式会社に出向して、同社において勤務する労働契約上の義務が存在しないことを確認する。原告らのその余の請求をいずれも棄却する」

 慰謝料こそ認められなかったものの、出向無効を言い渡す、原告の全面勝訴判決だった。リコー側の弁護士達は、黙り込み、裁判長が判決要旨を読み上げて、閉廷した途端、足早に去って行った。

 他方、原告側は、嬉々とした表情だった。法廷を出ると、組合員など二十人ほどいた。傍聴席に入りきらずに外で固唾を飲んで見守っていたのだ。

 その後、午後2時から厚労省の記者クラブで原告団が会見することになっていた。裁判所と厚労省は目と鼻の先で、徒歩2、3分で着く。現地へ行くと、記者クラブメディアが30人と、原告や弁護士、組合幹部など合わせて約40人が詰めかけ満席だった。

 会見で特に印象的だったのは、原告のA氏だった。技術開発者であるA氏は、これまでリコーで100件以上の登録特許をした者に与えられるパテントマスターという賞を受賞したり、社団法人発明協会で受賞し、皇室がおことばを述べ、内閣総理大臣、文部科学大臣、経済産業大臣などが出席するなかで、栄誉に浴したこともある。

 さらに社内にある、優秀な社員として、その名を永遠に称えるための金色のプレートに、A氏の名前が刻まれている。そのA氏が、ある日突然、物流倉庫に飛ばされ、人材派遣会社の日雇いの若者たちに交じって、量販店の製品を段ボールに梱包したり、真冬の寒い中、重い商品を持ち運ぶ、といった畑違いの肉体労働に従事するようになってしまった。

 そんなA氏は、今回の勝訴判決を受けて、こう語った。「創業精神である『三愛精神』(人を愛し、国を愛し、勤めを愛す)など人間を尊重する会社だったので、今回の判決の結果を真摯に受け止めて、控訴しない形で、我々を、もとの技術者としてのキャリアを活かせる職場に戻していただきたい、と切に願っています」

 ほかに会見では、原告の所属する東京管理職ユニオンの鈴木剛書記長が、「いま、他の大手企業の40、50代のサラリーマンからも、似たような追い出し部屋に飛ばされたという相談がたくさんきている。とくにリーマンショック以降は、賃金を下げないで、『あなたのための出向、配転』といって追い出す形が目立って増えた。団体交渉ではリコー側は『一円も給料下げていないじゃないですか。解雇されるよりマシでしょ。働けるんですから』と言っていた。パナソニックなどなど、名だたる企業が、みんな同じパターンで、給料は下げていないが、『あなたの仕事は、あなたの就職先を探すことだ』などと判を押したように、同じスキームでやっている」と指摘した。

 また、今回の判決は、出向の無効だったが、配転についても、同じ枠組み、と鈴木氏は指摘し、「配転については、ほとんどフリーハンドで、会社側が自由にできる、と会社の人事も思っている。だが、そうではない。キャリアに見合っていない追い出し部屋への異動は許されないんだ、という判断ができる」と語った。

 鈴木氏の言うように、今回の判決が、横行する追い出し部屋の歯止めになるか――。今後の動向に注目したい。(佐々木奎一)

 
 写真は、原告団の面々。

 


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