ジャーナリスト活動記録・佐々木奎一

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“猫のアウシュビッツ収容所”東京殺処分の実態

2015年02月01日 | Weblog

 

 平成二十七年一月二十五日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号
 
「潜入! ウワサの現場」で記事
 
「“猫のアウシュビッツ収容所”東京殺処分の実態」
 
を企画、取材、執筆しました。

 

 「日本には犬猫のアウシュビッツがある」と海外の人々に言われて久しい。無論、「殺処分」のことを指している。殺処分を行っているのは全国の自治体にある動物愛護センター。13年度は全国で犬猫128,135匹(犬28,569匹、猫99,566匹)が殺処分されている。

 そこで筆者は今月上旬、東京都世田谷区八幡山にある東京都の動物愛護センターに「現場を見たい」と取材を申し込んだ。すると担当の男性は「毎月第三水曜の午後1時半から2時間、見学会をやっているので申し込んで下さい。ただし、写真撮影は禁止です」という。撮影禁止というのが残念だが、見学会に行ってみることにした。

 当日、雨の降りしきる中、京王線八幡山駅から20分ほど歩き現地に着いた。菊池という名札のついた、見た目30歳前後の男性職員の案内で、机、椅子、スクリーンのある部屋に入った。筆者の他に、学生とみられる男性2人も参加していた。

 定時になると、菊池氏がスライドをまじえ、動物愛護センターとは何をしているところなのか、法律や統計を見せながら、1時間20分にわたって解説し続けた。

 それによると、東京都の犬猫殺処分数は、平成25年度が1441匹。内訳は犬89匹、成猫(大人の猫)443匹、子猫909匹。実に殺処分の94%が猫だ。東京都では殺処分とは猫のメガデスを意味しているといっても過言ではない状況だ。

 東京都には、この八幡山のほかに、日野市、大田区にも施設がある。殺処分が決まった犬猫は、大田区の「城南島出張所」に送られ、炭酸ガスにより殺されて、焼却炉で燃やされる。

 菊池氏によると、殺される猫のうち、成猫はほとんど負傷している猫と、庭で野良猫がたくさん子供を産んでいなくなってしまう、といったケースで持ち込まれる子猫だという。

 「これ以上、殺処分を減らせるか疑問。もう限界です」と菊池氏は言っていた。だが、果たして本当にそうなのか?

 菊池氏はひとしきり話した後、10分間の休憩をはさみ、いよいよ犬猫のいる収容所に入った。入口に入ると、建物の見取り図がある。それを見て驚いた。およそ八畳ほどの部屋が八つあるのだが、そのうち実に七つが「犬舎」で、「猫舎」は一つしかない。

 建物をぐるっと回った。犬舎に入ると、ジーとこちらを見ている犬がいた。さらに奥へ行くと、黒犬が、ガラス越しに立ちながらシッポをすごい振り、舌を出してハァハァと言いながら愛想を振りまいている。この犬は柴犬の雑種で、年齢は7、8歳。足立区の警察署で拾得物として引き取られ、昨年10月27日にここにやってきた。システム上は、愛護センターに送られた犬猫は、1週間以内に引き取られなければ、殺処分されることになっている。しかし実際は、施設に空きがあれば、留めておくことにしているのだという。ほかの部屋にも数匹の犬がいたが、どの犬も、飼い主を欲している様子だった。

 なお、犬舎のスペースには空きが目立つ。「今日は、これまで私が見学会をしてきたなかで、一番、動物が少ない日です」と菊池氏はうれしそうに語っていた。動物が少ないと、その分、殺処分もないので、喜んだのである。

 一方、猫はどうか。猫舎を見ると、ボランティアで来ているというトリマーの女性数人が、犬の毛を切っていた。

 「猫はどこにいるんですか?」と筆者が聞くと、「今日は幸いにも猫はいません」と菊池氏はいう。

 こうして見学会は終わった。数字や現地を見ての通り、犬の殺処分は減らしていることはわかった。だが、「猫権」は放置されていると言わざるを得ない。なぜか。実は筆者は昨年後半に、この八幡山の愛護センターに情報公開請求をしていた。内容は「飼い主が殺処分をするよう犬猫を持ってきた全ケース(子猫を除く)の、処分をしたい理由、年齢、特徴、その後どうなったか(殺処分されたか、譲渡されたか

)を詳しく記した文書(直近一年分)」というもの。

 およそ3か月後、数百枚の文書が開示された。一枚紙の「個体管理票」という書類に、一匹一匹の犬猫の写真と、品種、性別、毛色、年齢、収容日、収容地、そして「収容された理由」、「その後の状況」が記されていた。

 まず、目についたのは、飼い主の理不尽なケース。例えば、「転居(猫自身が人馴れしない)」という理由で、アビシニアンという品種の猫(6歳)が13年4月8日に江東区から収容され、翌日、殺処分されている。これは、引っ越しに際し、猫がなつかないので連れて行かずに殺したという意味であろう。

 また、チワワ(めす、6歳)は、「ペット不可住宅で近隣苦情により」墨田区から収容されている。幸い、約1か月後に譲渡先が見つかったが、ペット不可住宅で飼うから、そういうことになるのである。

 ほかに「家族の介護のため、飼養不可」、「生活保護及び家族の介護のため」といった理由で、パピヨン(おす、14歳)や、サビトラの猫(めす、4歳)、雑種猫(10歳)などを手放しているケースもあるが、介護や生活保護だからといって飼えない理由にはならない。

 葛飾区では「転居(経済的な理由による)」で、13年5月13日と15日、合計10匹もの猫を放り出した者がいた。これらの猫は全て即日、または翌日に殺処分された。

 江戸川区では13年8月21日、「性格が凶暴になり、飼育困難」という、にわかに信じ難い理由で、三毛猫(めす、6歳)、シャム猫(7歳)が即日、殺された。

 練馬では14年3月28日、「生活保護受給で引っ越し」という理由で、猫6匹が殺処分された。ほかに「引っ越しで飼養継続不可能」「転居先が犬飼養不可」「マンションペット不可」といった理由で殺されている犬猫もいた。ペット可能マンションは家賃が高く、支払いが可能な物件は立地が悪くて無理、といった事情と見受けられる。首都圏では、持家でない限り、常に引っ越し先で飼えないリスクはつきまとう。借家の人は、失業や収入が途絶える事態になっても、飼育できるよう準備しておかないと、犬猫を殺す側に回ってしまうこともあり得るのだ。

 ほかにも主に猫が殺していることを示す文書が大量にあった。それらの猫は一週間待たずに、即日、翌日といった数日内に殺しまくっているのが実態だった。上述の愛護センター担当者の「ほとんど成猫は負傷している猫しか殺処分していない」との言い分は、虚偽と言わざるを得ない。猫舎のスペースを空けて犬のトリマーに使っているのは、猫の譲渡の可能性を摘み取り、さっさと殺処分していることの裏返しなのだ。

 飼い主はもちろん、動物愛護センターも、もっと猫の命を救うことにも尽力しなければ「猫のアウシュビッツ」のそしりは免れまい。(佐々木奎一)

 

 写真は、殺処分された猫。


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