ジャーナリスト活動記録・佐々木奎一

※ブログ下記移転しました(2015年7月以降)
http://ssk-journal.com/

まん延する〝若者自殺〟の対策シンポジウムに潜入!

2012年10月10日 | Weblog

 日本の自殺者数は昨年まで14年連続3万人突破で、若者の自殺者も多い。(例えば昨年の自殺者3万370人のうち、20歳未満620人、20~29歳3,275人、30~39歳4,410人に達する。警察庁「自殺統計」より)

 また、日本の若者(15~34歳)の死因の第1位は自殺で、死因のうち自殺による死亡率は18.5%。2位の事故9.1%、3位の悪性新生物5.9%に比べ、圧倒的に自殺が多いのが特徴だ(06年)。それに比べて先進7カ国の若者の自殺の死亡率(03~06年)は、イギリス6.8%、フランス7%、ドイツ7%、イタリア7.5%、アメリカ11.2%、カナダ12.2%といずれも日本よりも低い。(ライフリンク資料より)つまり、日本は突出して若者が自殺する国になってしまっている。

 さらに今年1月に内閣府が行った意識調査でも、20代の1割が「この一年以内に本気で自殺を考えたことがある」と回答している。

 こうした現状のなか、「『いのち支える』シンポジウム~若者の自殺対策を考える~」が9月10日、都庁の都民ホールで開催された。主催は東京都。運営はNPO法人ライフリンク。同シンポのトークセッションでは、「生きる意味」(岩波書店刊)の著者の上田紀行氏(東京工業大学教授、文化人類学者)や、小説家の星野智幸氏、10代20代の生きづらさを抱える女性を支援するNPO法人BONDプロジェクト代表の橘ジュン氏、自殺対策支援のライフリンク代表の清水康之氏が語り合うという。現地に向かった。

 会場は約300人が参加。平日昼から開催のためか大半が学生らしき若者たちだった。

 トークセッションでは、若者を取り巻く実情について、橘氏がこう語る。「この間も、ある女の子を取材して、その子は、幼児期に、父親にお風呂に顔を押しつけられたり、ベランダに吊るされたりしていた。その父親は3歳の時に家を出て行ったのですが、すごいリアルだな、と思ったのは、その子が『父親の顔がわからない。その男の人の顔は“真っ暗に見えた”』って言うんですよ。たぶんそれは、本当にそうなんだと思うんです。この言葉の背景を感じられる大人がたくさん増えていけば、子供たちももっと悩みを相談しやすくなると思う」

 また、こうも語る。「リストカットなどの自傷行為をする人は多いが、私は援助交際も自傷行為だと思っている。なぜなら、お金をもらわずに援助交際する子が多いんですね。一瞬でもいいから自分を必要とされたい、今必要としてくれる人が目の前にいるなら、たとえそれが体でもいいって。そういう行為を繰り返している子も多い。でも、その後、彼女たちに待ち受けているのは、望まない妊娠や性感染症であったり、もっと大変な問題になることもあるので、今、つらい、困っている、どうしよう、と思ったら、その瞬間につながれる、信頼できる誰かが必要だなと思う」(橘氏)

 こんな若者も多いという。「うちの団体(BONDプロジェクト)は昨年、東京都の自殺対策事業で、深夜の電話相談(夜22時から早朝5時まで)をやった。そのなかで、昼間、周りと接している時は、“キャラ”を演じているけれども、一人になった時にハタと気づいて、自分に耐えられなくなる子がたくさんいました。本当の自分は何なのか、本当の気持ちは何なのか、わからくなくなって、ギャップに苦しみ、『自分の存在って透明。誰からもみてもらえない存在』と孤独を感じ、消えたい、死にたい、って思って電話をかけてきてくれる子が本当に多かったですね」(橘氏)

 これについて上田氏は「自分のことを透明に感じる人は、自分のことを交換可能で、自分でなくてもいい、と感じてしまう子が多い。多くは、いい子たちで、先生の言うことをよく理解して、試験ではいい点数をとる努力をして、先生の言った通りの枠組みの中でのみ考えて、無駄なことは考えない。そうした優秀と言われて育ったいい子たちは、自己透明化していくなかで、本当の自分が誰なのかわからなくなっちゃう。大人たちも透明化して、その大人たちが育てる若者たちも透明化してしまった。そうやって積み上げた結果が今だと思う」と言い、こう提案した。

 「だから、僕は、自己脱色、自己脱臭して、空気を読んでみんなに合わせるような透明人間になるのではなく、やたら色がついていて臭いくらいの、“人間臭くする運動”が大事だと思う。特に30歳くらいまではまだ青年期ですから、いかにみっともなく生きるかが重要。みっともない自分も、弱みも全部出して生き続ける中で、自分らしさが出てくる」(上田氏)

 その後、上田氏は、「ちょっと違うような話をしてしまうかもしれないけれど」と前置きして、大所高所からこう語った。「この前、野田首相が大飯原発を再開するときにこう言ったんです。『精神論だけではやっていけない。だから大飯原発を再開しないといけない』。しかし、原発が危険だって言うことのどこが精神論なのか教えてほしいと思うわけ。僕みたいに2歳の双子がいる人間にとっては、原発がもう一発爆発したら、もうこの国はアウトだと思っているわけだよ。だから、原発再稼働は、精神論vs現実論ではなく、2つの現実論。原発が危ないというのも現実だし、停電したらマズイというのも現実。本来、2つの現実論のなかでどうなるか言わなければいけないのに、原発を動かさないのは精神論だと言ってしまう」

 そしてこう語る。「つまり、この国の政治家や色々な年長者たちは、経済システムを回していくことだけが現実だと思って、それ以外のことを現実と認めてこなかった。心の豊さとか、自殺対策を論じても、センチメンタルなこととされてしまう。でも、僕たちにとって、本当に生きていてよかったとか、幸せだとか思うことは、精神論なのか!?と言いたい。これこそ、生きていくなかで現実でしょ。僕たちの人生とは別のところに、GNPという数字があって、それだけが現実というのは、見方が逆転している。今、震災を境に、人々は、野田さんの言う現実ではない現実が、実は自分たちにとって重要なんじないのか、と気づき始めている。これから30年くらいかけて、幸せに生きることは、単なるお金だけじゃないんだ、という、これまでとは違う価値観をどれだけ築けるがが大切だと思います」(上田氏)

 トークセッションは熱気に満ちて終了した。上田氏のいう、従来の経済システム至上主義とは別の、これまで一顧だにされなかった現実に為政者たちが目を配り、それを政策に反映するようになれば、今よりも自殺者数は減り、人々が幸せを実感できる社会になるかもしれない。(佐々木奎一)

 

 2012年9月16日、auのニュースサイト EZニュースフラッシュ増刊号
 
「潜入! ウワサの現場」で記事
 
「まん延する〝若者自殺〟の対策シンポジウムに潜入!」
 
を企画、取材、執筆しました。
 
 
 
写真は、上田紀行氏(東京工業大学教授、文化人類学者)。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。