ネス湖(Loch Ness)湖畔のアーカート城の駐車場に車を停めたのは、アラプール(Ullapool)を出発してから一時間後のことでした。
既に城跡の公開時間は過ぎておりましたが、柵の外から城の佇いを覗き見ることができました。
私以外にも公開時間に間に合わなかった観光客が、中を覗く場所に代わる代わる来ては、カメラのシャッターを押していました。
ネッシー君はお伽話ですから、外から想像を膨らませて楽しむ程度で、丁度良いのかもしれません。
しかし、居るかもしれないと思って見ると、凡庸なネス湖の風景が何かを語りかけてくるような、そんな気持ちになるのが不思議です。
南北に38キロもある、ネス湖西岸の道を南へ向いまいた。
ご覧のように、特に何があるわけでもないのですが、陰鬱な風景に想像力が膨らみますます。
日本は国策として、観光客誘致に力を入れていますが、観光施策を考える時にネス湖は、人を集めるために重要なことは、風景の中にストーリーを付加することが最も有効なのだと、教えてくれているようです。
朝、インバネス(Inverness)を出発し、イギリス本土最北端の地を、海岸線に沿って一周し、私はいまフォート・ウイリアム(Fort William)の港に到着しました。
港から北の方角へカレドニアン運河が伸び、ロッキー湖とネス湖を繋ぎ、インバネスを経て、北海に繋がっています。
絶え間なく溢れ下る水の音が、永かった今日一日の時の流れを思い出させてくれます。
晴天に恵まれた、素晴らしい一日でした。
野に咲く花は期待したほどに見ることはできませんでしたが、澄み渡った青い空と海、島影を背にした石積みの家、湖にシルエットを映す岩の嶺、お伽噺話の絵のような海辺の町、などなど、数えきれぬ程の美しい映像を脳裏に刻むことができました。
きっと、芳醇なスカッチや頑固な地ビールなどを口に含むたびに、今日出会った幾つかの情景が、突然脳裏に浮かび上がってくるに違いありません。
今日一日で使い切れぬ程の宝物を手にしました。
そうです、今でも思い出す、あの若き日の北の岩稜の、雷雨の岩壁で、ハーケンの横に咲いた赤いタカネバラの一輪のように。
満ち足りた思いを胸に、今夜はこの街で夜を過ごすことに致しましょう。
良い夢に彩られた一夜となりそうです。
6月20日の位置
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