列車は有家港を過ぎた辺りで標高を上げて、海へ落ち込む急峻な斜面の縁を走り始めました。
斜面にマツが育ち、斜面の下の岩礁に砕け散る白い波が見えました。
有家港を境として地形が大きく変化したようです。
程なく列車は陸中中野駅に停車しました。
植え込みにアジサイが青い花を咲かせていました。
アジサイは通常5~7月に花を咲かせますが、今は8月下旬です。
実はこの辺りでは、6~8月にヤマセと称する、オホーツク高気圧から流れ込む、北東からの冷たく湿った風が吹き込み、ヤマセが続くと、イネの生育に被害が出て、大飢饉や不作を招く歴史を重ねてきました。
季節に遅れて青く咲いたアジサイはそんなことを思い出させます。
陸中中野を発車した列車は右方向に進路を変えて、海岸から離れ始めました。
濃い緑の森に包まれた、猫の額ほどの畑を横目に列車は進みます。
車両先頭の窓から景色を見ると、この先に線路が続くことを疑いたくなります。
そんな景色の中を走り続け、列車は侍浜(さむらいはま)駅に停車しました。
侍浜とは興味深い地名ですが、1614年に南部藩主・南部利直が津波の被災地を巡視した際、休憩した花崗岩の岩が「侍石」と呼ばれ、それが地名の由来になったとする説、あるいは、侍が開拓した地との説もあるそうです。
列車が侍浜駅を離れると直ぐに、線路の下に落ち着いた雰囲気の家並が見えました。
人里離れた濃い緑の森を走り続けてきたので、この光景はちょっと意外でした。
この辺りをグーグルマップで見ると、緑の丘陵地を縫う谷に沿って、畑や民家が並びます。
室町時代に侍浜八幡宮が建立された頃から、更にはもっと昔から、この地に受け継がれてきた人々の暮らしを垣間見るような気がしました。
侍浜駅を出た列車は緑の中を進み、丘陵地を下り、少し開けた場所に設けられた陸中夏井駅に停車しました。
貨物車掌車を改造した駅舎が朝日を浴びていました。
以前訪ねた宗谷本線の駅の風景を想い出します。
陸中夏井駅を発車した列車は大きく進路を西に変え、数分後に久慈川を渡り、
八戸駅を7時17分に発車した八戸線の普通列車は1時間47分の運行を終えて、9時04分、久慈駅に到着しました。
さて、今回の旅は青春18きっぷで、東京と日本最東端の街根室を往復する旅ですが、青春18きっぷが有効なのはJR久慈駅までです。
久慈から先の三陸鉄道はJRとは別の第三セクター鉄道ですから、改めてきっぷを買い求める必要があります。
筆者は2019年に、青春18きっぷで東京・稚内間を往復しました。
その時、日本の北半分を普通列車のみで往復縦断できることを確認しましたので、今回は青春18きっぷに拘らず、日本で一番長い第三セクター三陸鉄道の旅を試みることにしました。
三陸鉄道の宮古行き列車は10時39分に久慈駅を発車します。
久慈で1時間35分の待ち時間を得ましたので、いつもの通り、気ままに街を散策することにしました。
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