読書の記録

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ゲーム理論を読みとく 戦略的理性の批判

2008年06月12日 | 経営・組織・企業
ゲーム理論を読みとく 戦略的理性の批判---竹田茂夫---新書

 Amazonのレビューをみると非常に評価が低いことがわかる。そして、少数の高得点をつけた人に対しては、「参考にならなかった」人の数が非常に多いということがわかる。

 Amazonの星の付き方というのは「このレビューは参考になりましたか? 」つまり、「まだその本を買ってない人が、その本の中身を知るに参考になったかどうか」で付くというのが前提になっているが、実態は「既に読んだ人」が自分と同じ意見だったレビューには「はい」、反対の意見だったレビューには「いいえ」」にチェックをつけるというのが常態化している。

 したがって、「ゲーム理論を読みとく」で書かれた主張は、Amazonレビューを見る限り、どちらかというと社会に受け入れられがたい、という現実がわかる。


 で、本書のAmazonで見られるこの結果は、たぶんタイトルの影響が大きい。「ゲーム理論を読みとく」であれば、「ゲーム理論」が好きな人が手にとりやすいと思われるからだ。が、本書の中身は言ってみれば「ゲーム理論」の徹底的な批判なのである。
 自分の好きなもの、信じているものを批判されれば、たいていの人は面白くない。だから、その批判がいかに的外れであるかを徹底的に暴こうとする。


 逆に、著者としては「ゲーム理論」に関心のない人に対して、本書の主張を言ってみたいわけでもないだろう。むしろ「ゲーム理論」が大好きな人にこそ、批判をぶつけたいに違いない。

 しかし、本書のタイトルに「ゲーム理論は信じるな」なんてつけると、そもそも「ゲーム理論」が好きな人は、手にとらないだろう。自分が好きなものを批判している本なんて、立ち読みくらいはするかもしれないが、わざわざ金を出して買う気にはならない。

 だから「ゲーム理論を読みとく 戦略的理性の批判」というタイトルなのだ。批判という文字が入っているが、何に対しての批判なのかいまひとつぼやかしている。むしろ、批判する立場としての「ゲーム理論」と解釈することだって可能だ。むしろ先入観から、これならば、自分の好きな「ゲーム理論」についてポジティブなことが書いてあるに違いない、と思い込む人だっているだろうし、表紙折り返しの短文などを読んでみても、少なくとも公正中立さを予感させる。

 だが、読んでみた本書の中身は実は正反対だったと知ったときは後の祭り。金を払った悔しさもあって、そのはけ口がAmazonのレビュー書き込みという行動にでる(正確にはゲーム理論を否定しているのではなくて、過剰な効果や副作用も多いので、盲信には注意されたし、という批評だけど)。


 さて、以上はもちろん、著者の「竹田茂夫」氏と、「ゲーム理論が好きな人」の2人がプレイヤーとなったまさに「ゲーム理論」による説明である。著者の戦略は、本のタイトルに「ゲーム理論を読みとく」とつけることであり、「売り上げ(Amazonの売り上げランキングも決して低くない)」と、「ゲーム理論が好きな人に批判を読ませる」という2つの目標を達成したわけである。しかし、「ゲーム理論が好きな人」からの報復として、Amazonのレビューがあり、著者への社会的信用のマイナスとなって顕れている。
 しかし、最終的には「ゲーム理論が好きな人」のダメージのほうがやっぱり大きかろう。金を払い、時間を食い、不快な話を聞かされているからだ。そういう意味では「勝者」は著者ということになる。
 ただ、著者のゲーム理論批判が図らずもゲーム理論的に売り上げをつくったことは、これは著者の思想的敗北ということにもなりはしまいか。

 そうすると、結局これはナッシュ均衡がパレート最適にならなかった例ということで、まさしく囚人のジレンマということになる。

 ゲーム理論恐るべし。

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