読書の記録

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この国の経済常識はウソばかり

2008年09月26日 | 経済
 この国の経済常識はウソばかり---トラスト立木

 著者の名前や本のタイトルからして、いかにも怪しいが、著者は、以前「立木信」という名前で本を出していた。改名にあまり深い意味はなさそうだ。

 本論のベースになっているのは、日本の人口動態が人口ボーナス(労働人口が増える)ではなく、人口オーナス(少子高齢化で労働人口減る)という状況、つまり基本的にはGDPは下がるという力学が働いているのに、人々の記憶や前提が、人口ボーナスの頃のままになっている、ということだ。特に、げんざい国や大企業を動かしているエライ人の成功体験は、基本的には経済成長率が(ある意味で自然に)上がっていくという土壌を前提とした時代のそれであった。役員クラスが高度成長時代であり、中間管理職クラスがバブル時代の経験知にある人である。
 だが、それと同じことをもう一度しようと思っても、うまくいかない。労働人口の世代が交代してしまっているからだ。その結果、今の土壌は、労働人口の減少という少子高齢化社会が大前提となり、油断するとすぐに下がるGDPを、BRICsなどの外需でどうにか支えるという環境下なのである。にもかかわらず、かつての栄光を普遍的なものと信じ、世代が交代していることを気付いてないのか気付かぬふりをしているのか、「上げ潮」を期待したり、目標予算達成率10X%を掲げたり、自分らの世代の既得権益にこだわったりする。

 たとえば、政府が定める標準世帯というのがあって、これが税制とか社会保障とか公共料金の基準になっているのだけれど、この標準世帯とは「正社員の夫、専業主婦の妻、子ども2人」なのである。これはまさしく高度成長期における日本型経済成長単位として機能してきたのだった。だが非正社員が3分の1を越え、専業主婦より働く主婦のほうが今や過半になり、子どもの平均人数が1.34人で、世帯の中では単身世帯が最も多い、という現状で、この標準世帯はもはやマイノリティなのである。
 しかし、肝心なのは、現状と「標準世帯」が乖離しているということではない。政府がいまだに標準世帯、つまり「正社員の夫、専業主婦の妻、子ども2人」こそが「国家の理想」と信じきっているところが問題なのである。勿論「主婦は専業がよい」などとは口が裂けても言わないが、実をいうと現実と「標準世帯」の乖離は、もう何年も前から指摘され続けており、にもかかわらず一向にこれを見直すつもりがない。これは政府としてはあくまで現在の世帯状況は特異あるいは非理想なものなのであって、すべからく是正してほしい、というホンネがあるのだ。だってそうすれば、高度成長時代みたいになれるんだもん。そしたら国債だって償還できるもん。

 だが、本当は「単身世帯が多く、非正社員も多く、子どもは少なく、夫婦ともに外で働いている」状態においてなお、持続可能な国家運営への舵取りは、やはり時間の問題だと思うのである。だが、現在のマクロ経済政策はどう考えても世代移転という問題に対処していない(というか始めから念頭にないままこの30年間やってきたというのが真相か)。55年体制以降、事実上「高度成長期」の政策運営の経験知と記憶が絶対になっている自由民主党に、この世代移転の舵取りができるとはやはりどうしても思えないんだよね。

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