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大学教授が、「研究だけ」していると思ったら、大間違いだ!

2021年01月12日 | エッセイ・随筆・コラム
大学教授が、「研究だけ」していると思ったら、大間違いだ!
 
斎藤 恭一
イースト・プレス
 
 
 大学教授という職業は「研究」をしているだけではない。大学という教育機関に所属している以上、「教育」「広報」「管理」もやらなければならない。「教育」とは学生を指導することであり、「広報」とは自分が属する大学や学部やゼミをアピールしてその存在意義を知らしめることであり、「管理」とは大学を経営にしていくにあたっての各種避けられないことである。大学には事務職員もいるにはいるが、教授だって駆り出される。本書はその「教育」「広報」「管理」のぶちまけ話だ。
 この「教育」「広報」「管理」という切り分け方は、一中間管理職としてはなかなか身につまされる話である(最近、読む本読む本みんな自分の仕事や会社の境遇に置き換えて読むクセがついてしまっていけない)。
 
 中でも「広報」の話は興味深い。「教育」や「管理」はなんとなくピンとくるが「広報」を要するという観点は今までなかったな。しかし、たしかにこれをやらないと優秀で前向きな学生が入ってこない。企業が評価しない。その大学のステイタスが上がらない。したがって、大学教授も高校や予備校に模擬講義をしにいったり、学園祭や合同展示会でブースを開いたりする。その大学の地域へのアピールや企業への訪問もあるだろう。
 
 こういう広報活動は、好きな人には面白いだろうが、どちらかというとパリピ属性の人にむいているような気がして、研究者属性では苦手な人が多いんじゃないかというのは僕の勝手な偏見である。
 
 だけれど、自分の身に置き換えて、自分の部署の広報を社内外にちゃんとやっているかと言われるとたいへん心もとない。ぼくもぜんぜんパリピな人ではないのである。会社の場合は、所詮は人事経営の世界であって、あの部署に行きたいから行けるというものでもないが、とはいえ部署の広報がまったく無意味ということもないだろう。
 
 
 それから「教育」という点でいうと、本書では学生に対する半分愚痴みたいなエピソードが次々と出てくる。今どきの若い者は・・という人類史で昔からよくあるフォーマットと言えばそれまでだが、連絡よこさない学生とか、あるまじき服装の学生とかそういうのに対しての恨み節がとても多い。学生側の言い分としては「必ず連絡しろ」とか「必ずこの服装でこい」というのがなかった、ということのようだ。年配者と若者のあいだでの言語外での共通認識部分がどんどんずれていってるんだろうなというのがよくわかる。昨今、ネタとしてよく使われる「やる気がないなら出てけ」と言われて本当に出ていくことの是非も、ここでも実話として出てくる。
 
 「教育」というのは、「教えて・育てる」であるが、「育てる」という言葉が入っているがために教育者の人につきまとう義務と責任はなかなか重たいものがある、というのが羽海野チカの「三月のライオン」には出てくる。「教える」だけならば、教わったものをどうするかは学生の責任である。しかし、「育てる」となると、ちゃんと育ってくれるところまで教育者の責任範囲となる。よく言われるように、魚を当面困らないだけ大量に与えるのが「教える」で、釣り方を身に着けさせるのが「育てる」であるが、前者のつもりで大学に入った学生に、後者は大きなお世話であろう。もちろん後者を期待して大学にいく人だってたくさんいることは事実である。
 
 また、「教える」ことの内容はある程度は万人にむけての定型化ができるが、「育てる」ことについては、教育者サイドと被教育者サイドの組み合わせの数だけ、その適切な方法も存在するといってよい。つまり、教育者というのは相当に人間に通じていないとできないということになる。
 そう考えると、研究者と教育者というのは、まったく異なる資質を必要することになる。このあたり、名選手が必ずしも名監督にならない、という野球界の格言と同じ話になる。同様に業績のよかった現場社員が管理職に出世したらいまいちだったとか、その反対という話もよくある。
 
 つまり「研究(実務)」「教育」「広報」「管理」に必要な資質はすべてバラバラなのだけど、全部やらなければならない。これはどうしてなかなか大変なことである。大学教授しかり、会社員もまたしかりだ。
 
 なんで中間管理職はこんなにてんやわんやするのか。単に板挟みというだけでないぞと思っていたが、こんなことだったのかと図らずも本書を読んでわかってしまった次第である。

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