物は言いよう
ヨシタケシンスケ
白泉社
本書は絵本作家ヨシタケシンスケの読本である。
僕はヨシタケシンスケの「発見」はかなり早かったと周囲に自慢している。ヴィレッジヴァンガードで自費出版「デリカシー体操」を見つけたのが最初だからこれは相当に初期なのだ。この自費出版は、カバー紙がなく、奧付まで手書きという味わい深いシロモノだった。
小さなカット割りのようなイラストが1ページにいくつも描いてある。その多くにはセリフがついていて、1コマ漫画というのもちょっと違うし、単なるイラストカット集とも言い切れない面白味があった(後年になって「スケッチ集」という言い方になった)。
その後、そこそこ名のある出版社からスケッチ集が出るようになった。「日本のチャーリーブラウン」というコピーが付くようになって、なるほどうまいこと言うなと思ったものである。
したがって、ヨシタケシンスケは僕にとってはアーティストというカテゴリーの人だった。現在の彼の肩書は自他ともに「絵本作家」ということだが、個人的にはちょっとばかり違和感がある。
しかし、絵本作家として累計100万部以上を売り上げたというのだから、立派な「絵本作家」だろう。本書にも書いてあるが、彼に絵本を書いてみないかと誘ってみたのは某出版社の編集者である。彼の独特の作品をみて絵本作家としていけるんじゃないかと見抜いたのだから慧眼である。しかも最初に絵本を提案してきたこの某出版社には自信がなくて断ったらしく、次に「お題」をもって絵本を提案してきた別の出版社(白泉社)で受諾したとのことであるから、何がどうつながるかわからない。
僕自身の彼の本の購入歴でいうとスケッチ集は自分のために買っていたが、絵本に関しては知人の子供あてに数冊プレゼントしたくらいで自分の書棚には1冊もない。ただ、読む機会はいくらかあった。図書館や病院やキッズスペースなんかに置いてあることが多いのである。”大人も楽しめる”からほかに幼児向けの本しかないような場合は彼の絵本を手にすることになる。また、しゃれたカフェなんかに、インテリアがわりに彼の本が置いてあったりする。
そういった彼の何作目かの絵本に「それしか ないわけ ないでしょう」というのがある。このタイトルはけっこう哲学的というか人生の至言のようなものを感じていた。
本書で言及がされていた。彼の口癖なのだそうである。
提示された枠外にも可能性や選択肢はぜったいにある、というこのセンスはアーティストにとって必須のものだとは思うが、なにかとややこしくめんどくさいこの世の中を渡るにあたっての大事な感覚でもあろう。意外にもこのテーマをあつかった子どもむけ絵本はこれまでなかったんじゃないかとも思うが(絵本の世界はあまりよく知らないけれど)、子どもにも、それから子どもと一緒に読むオトナにも「それしか ないわけ ないでしょう」という一呼吸はぜひとも覚えておきたいことである。
ところで本書「ものは言いよう」はちゃんと自宅に購入した。中学生の長女がケタケタ笑いながら読んでいる。