砂漠の音楽

本と音楽について淡々と思いをぶつけるブログ。

cero「e o」

2023-06-30 17:40:30 | 日本の音楽

このアルバムを聴きながらジョギングしています。


毎年、寒さが落ち着く春先になるとジョギングを再開していたんです。
それで4月、5月と夜に外を走るものの、梅雨の頃になると「今日は雨だし、いいか」と徐々にジョギングしなくなり、そのまま習慣が失われる…という無限ループに至っていました。

しかしながら。
今年の梅雨はあまり雨が降っていないため、習慣が持続しています。
家に帰ってごはんを食べて、ゼルダをやる。それから音楽を聴きながら外を走る、という流れができていて。
『ハイラルを救う』『ジョギングもやる』「両方」やらなくちゃあならないってところがつらいところだよな。覚悟ばいいか?俺はできてる。



さてceroの新作「e o」について。
5月24日リリース、前作からおよそ5年ぶりですね。
リズムだけでなく歌詞、楽曲自体が難解だった前作「Poly Life Multi Soul」に比べると、うんと聴きやすいです。

「Nemesis」「Fuha」「Cupola」などメロディ自体はポップな曲が多く、つい口ずさみたくなります。執拗なまでに重ねられたコーラスによって歌の感触が滑らかになっていて、そこに無機質なサウンドが間隙を埋めるように配置されていて。聴いている感覚としては非常に心地よい、40分があっという間にも(間にも!)過ぎてしまう。
あれだけドラムとベースの絡みが濃厚だった前作から一転し、今作でドラムをきちんと叩いているのは「Fdf」くらいなのではないでしょうか。とはいえ、この曲のバスドラがめちゃくちゃ格好いいのです。これだけでごはんが2杯くらいいけます。

今作の欠点を1つ挙げるとしたら、まさに「短い」ということでしょうか。全曲通して41分(ちなみに前作は54分)。心地よい音の波にもうしばらく身を浸していたいのですが、うすい靄のなかを身体が通り抜けるように40分が過ぎ去っていく。それが少し切ないというか、曲調ともあいまって、どこかわびしい気持ちになるのです。


歌詞について。
今作も難解です。「アポリア」「モナド」みたいな哲学的、抽象的なことばも多く並べられていて、歌詞の意味がよくわからない場合が多いです。
とはいえ、断片を結び付けて解釈できる部分もあって。
たとえばM1「Epigragh」

DNAに書き込まれたバグ
真新しいものが無くなり
ようやく静けさのなかページが開く


ここでは新型コロナウイルスの変異とパンデミックの沈静化、それにともなう日常への回帰に言及しているように読めて。そう考えると、歌い始めの方に出てくる「スローになるカーブの曲線」は、感染者数の減少に触れているのかな、と想像したり。

またM2 「Nemesis」では

空は凪いで 最後の便が発った
あっという間にもう 霞んで
艘は去った 太陽は翳った
「また会おう」お別れの時 響き合う
「また会おう」お別れの時 絡み合う


という歌詞から始まります。ここでもコロナを連想してしまいます。
緊急事態宣言下、人びとが離れ離れになったあの時期。少し遅い雪が降った2020年3月末の原宿、人が全然いなかったのを今でも憶えています。

ちなみにネメシスは古代ギリシャの神で、人間が神に無礼を働いた際に罰をあたえる神のようです。「義憤」という意味が近いらしいのですが「復讐」の意味で捉えられる場合が多いように感じます。某カプコンのバイオハザードのせいかしらん。スタァーズ...とか言いながら追いかけてくる怖い人がいましたよね。


ネットの評判をぱらぱらと見ていたところ「RadioheadのKid Aに近いものを感じる」という人もいました。無機質なホーンの音、断片的なリズムなど、一致する部分はあるかもしれません。ただ、私個人としては「Amnesiac」の方が近いかな、と感じたり。
Kid Aの方が変化に富んだダイナミックな作品だと思っていて、Amnesiacの方がもう少し静的な、美しい作品だという印象です。


それから。
アルバムのタイトル「e o」について。
彼らは以前からも自身のユニット名ceroをもじって

Contemporary Exotica Rock Orchestra
とか
Contemporary Eclectic Replica Orchestra

なんで歌のなかで歌っていたりしたのです。

となると今作の「e o」というタイトルは何を意味、意図、志向しているのか。
cとrがないから、complete remisssion、すなわち「完全寛解」がない、コロナウイルスと共存していくしかないということなのか。あるいはこのeはepidemic(伝染病の)なのか。ここまで来るとほとんど妄想ですが。

とにかく、ものすごくいい作品でした。
気が向いたら是非聴いてみてください。
みなさまも心地よい音に身を委ねつつ、妄想してみてください。
こんなにいい作品だしてくるなら、ライブ申し込んでおけばよかったな...。

めくるめく妄想を広げつつ、現実から目を背けつつ。
いくら現実から目を背けても、この3年間で大きく世の中は変わりましたね。
私もここ最近、友人と飲みに行く機会が少しずつ戻ってきて。
本当に嬉しいです。友人と会えること自体も嬉しいですし、ああ自分はこんなに人を求めていたんだな、と認識できたことも、私にとっては大きな喜びなのでした。
『友人と飲む』『嫁を大事にする』『ハイラルも救う』「全部」やらなくちゃあならないってところがつらいところだよな。覚悟ばいいか?俺はできてる。


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