読書備忘録

私が読んだ本等の日々の
忘れない為の備忘録です

宮本輝著 『骸骨ビルの庭』

2009-10-08 | ま行
主人の公の八木沢省三郎は、住人を立ち退かせるため骸骨ビルと付近で噂される杉山ビルの管理人としては東京から単身赴任で着任する。
このビルは、戦後復員して阿部徹正と茂木泰造が、戦争孤児たちを育てた場所であった。
食料にも事欠き、庭で野菜を作りながら、二人は人生を賭して子供たちと生きたそこで育った子供達にも思い出の場所なのだ。
成人してもなおビルに住み続ける、かつての孤児たちと老いた育ての親の茂木。
一人一人の思いや思い出を聞くうちにそれぞれの人生の軌跡と断ち切れぬ絆が、八木沢の心を動かして・・・。
人生の意味という究極的問いに対しては、どんな知的な答えはあり得ない。
ただ実存的な答えしかあり得ないとし、フランクル著『意味への意志』という本の中の引用で『われわれが彼に与えることのできるもの、
・・・それはただひとつ、実例、つまりわれわれのまるごとの存在という実例だけ』という文が2回引用されています。
実例というのは阿部や茂木の生き方のそのものだと著者が言いたいようです。
親が子に掛ける無償の愛や苦労、恋人に対する苦労を論じて
意識を変えることにより『苦は楽に変じた・・・自分のことを考えての苦労やから、苦労と感じるんやないのか』(169P)と。
そして、読者に想像する余地を与える為この本のなかにあえて
『書かれていないこともいっぱいある。・・・いかに語らないか』に苦心したとも。また、阿部の世間から非難と疑惑の中で死んだことを取り上げて
『死に方によって、死のとらえ方が変わるのはおかしい』とも。
『小説の中でおいしいものを出すの、好きなんですよ。』と著者自身が言うようにたくさん美味しそうな料理のシーンや薀蓄が出てきます。
どれも美味しそうで一度味わってみたくなる場面が一杯です。
いつもの通り宮本さんの本は善人ばかりの登場者たちで不満が残るが
十三という大阪特有の地を舞台に大阪弁をうまく使いながら人の生き方を問う、考えさせられる小説です。
2009年6月講談社刊

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