コナン=ドイル/著 偕成社 初版1983.6 1989年9刷
市川英夫&プラスB/装丁 シドニー・パジェット/挿絵
※「ジュヴェナイル」カテゴリー内に追加します
長編を読み終えて、これが短編の1冊目
1編ごとにそれぞれの面白味がギュッと詰まっているから
1日の終わりに1編ずつ集中して楽しんだ
これらの中でホームズのちょっとしたクセや
ワトソンとの関わり方の変容が見えてくるのもファンには嬉しいもの
ホームズが4回“失敗”を犯したうちの1件が1編目にあるのも興味深い
【内容抜粋メモ】
■ボヘミアの醜聞
正体不明の怪しい女アイリーン・アドラー
ホームズはいつも名前を呼ばずに「あの女性」とだけ言う
ワトソンは結婚して下宿を出て、開業医に戻ってからも
ホームズは事件のない時はコカインを打って夢を見
犯罪の研究にも打ち込んでいた
久しぶりに下宿を訪ねると喜びの優しい目で迎える
7ポンド太ったとか、不器用なメイドがいることを推理してからかうw
ホームズ:君はものを見てはいても観察していない
さっき配達された事件依頼の手紙を見せて
書いたのはドイツ人だと推理
ホームズ:君がそばにいてくれないと張り合いがないんだ
ヘラクレスのような体格で黒い覆面をつけた男が訪ねて来る
偽名を使い、お使いで来たフリをするが
すぐに依頼人本人だと見抜いてしまう
ボヘミアの国王ウィルヘルム陛下:
2年間ふせて欲しい スキャンダルになれば王室の名誉に傷がつく
5年前アイリーンと出会った
ホームズはいろんな人や事柄をまとめた索引を出して
彼女がアメリカ生まれの歌手だと分かる
陛下:
もうじきスカンジナビアの王女との結婚を控えているため
彼女との2ショット写真を取り返して欲しい
アイリーンは相手の王家に送ると脅している
写真を取り戻したら1地方の領地を与えてもいい
翌日、約束の時間に来ると、ホームズは酔っ払いの馬丁に変装している
ホームズ:
馬を扱う者たちは仲間意識が驚くほど強く
知りたいことはなんでも聞ける
彼女の家の周りで欲しい情報は全部頂いた
実際、男が命も投げ出しかねない美しさだったよ
ハンサムなアドラーという男がしょっちゅう来ていて
ひどく急いで馬車を走らせて教会に着き
変装したホームズは2人の結婚の立会人にされたと爆笑して話す
写真のありかを知るため、ワトソンにも一役買ってもらう
ホームズ:
女性は生まれつき秘密が好きで、自分だけで隠そうとする
すぐに取り出せる場所にあるはずだ
牧師姿になり、殴られて倒れたフリをして家の中に入り
合図をしたら、ワトソンは発煙筒を投げ込んで「火事だ!」と叫ぶ
その後、2人は落ち合い、隠し場所は羽目板の後ろだと分かる
ホームズ:
殴った連中は雇った者たち
火事となると一番大切なものに飛んでいく本能を利用した
結婚してる女なら赤ん坊、独身なら宝石箱(随分極端な例だな
写真をとろうと思ったが御者が入ってきたため
後日、陛下とともに訪ねたほうがいいだろうと決める
そこに通りすがりの男が
「ホームズさん、こんばんは」と声をかけ
どこかで聞いた声だが思い出せない
陛下と家を訪ねると、中年女がいて
アイリーンは夫と大陸に発った後だと言う
問題の写真の代わりにイブニングドレスを着た写真に手紙が付いている
手紙:
何か月も前にあなたに注意するよう言われていた
私は女優の修行もしていて、男に化けてあなたに声をかけて確かめた
こんな恐ろしい方に狙われては、逃げるのが一番と考えた
あの写真は万が一のための武器として持っていく
今はもっと良い方と愛し愛されているから心配しないよう
さようなら シャーロック・ホームズ様
ホームズ:ああ、なんという女だろうか!
ホームズは高額な報酬の代わりにその写真をくれと陛下に頼む
それまでは女の浅知恵を嘲笑っていたが
この事件以来言わなくなった
■赤毛連盟
再びワトソンがホームズを訪ねた時
燃えるように赤い毛の男ウィルソンが事件を依頼していた
ホームズは両手の指先を合わせて山の形を作る
考え事をする時のクセ(これはドラマでも演っていたな
ホームズ:
びっくりする事件は日常生活から探さなければならない
現実はどんな空想よりはるかに奇妙だから
世にも珍しい事件は、かえって小さな犯罪のほうが多い
ウィルソンが書き物の仕事をしていることをズバリと言い当てる
ホームズ:“知らないものは、すべて偉大に思われる”という言葉がある
今から2か月前の新聞の広告を見せるウィルソン
そこには「赤毛連盟へ」とあり、1名空席が出来たため
21歳以上の赤毛の男性が申し込んで合格すれば
週4ポンドの給料の仕事が与えられる、とある
ウィルソンはコーバーグ広場で質屋をしている
半分の給料で働く店員ビンセントを1人雇っている
写真きちがいで、すぐカメラを出して撮ると地下室で現像している
そのビンセントがこの広告を持って来て
ウィルソンなら最適だと推して、2人で広告の場所に行くと
さまざまな赤毛の男がわんさか集まり気味が悪くなるほどw
事務所に入ると、条件にピッタリだからとすぐ合格になる
ダンカン・ロス:
赤毛の人を保護し、子孫繁栄させる目的もある
毎日10時~14時まで事務所で大英百科事典をAから全部書き写すだけ
すぐに仕事を始めて、ロスは最初は見張っていたが
そのうち来なくなり、週の土曜に1週間分の給料が支払われる
そうして8週間経ち、今朝、事務所に行くと鍵がかかっていて
「赤毛連盟は解散した」とあり、驚いて他の事務所に聞くと
赤毛連盟もロスのことも誰も知らないという
その男の名はウィリアム・モリスという弁護士で
新しい事務所を訪ねても、どちらの男の名も知らないと言われた
ウィルソン:
男の正体を知りたい
いたずらならどうしてそんなことをしたのか知りたい
ホームズ:この事件は急がなけりゃならないな
ホームズは熱心な音楽愛好家で、作曲家としても素晴らしい
サラサーテの演奏会を聴いてから(!)
ホームズは質屋の周りを調べる
中からビンセントが出て来て、道を聞くフリをする
ホームズ:あの男はロンドンで4番目に悪賢い男だ
質屋の反対側も調べる
ホームズ:ロンドンについて正確な知識を持つのが趣味でね
彼の不思議な性格には2つの面があり、代わる代わる現れる
瞑想に浸っている時と、反動で出る機敏なところ
警視庁のピーター・ジョーンズと
銀行の重役メリウェザーとともに馬車に乗る
犯人はピーターが捕らえたがっていたジョン・クレーで
人殺し、泥棒、贋金作りなどを犯している
メリウェザー氏に案内されて、頑丈な鉄門を通り
地下室のような部屋に入ると
ホームズは虫メガネで床を丹念に調べる
ここはロンドンで指折りの銀行の地下室で
フランス銀行から3万枚のナポレオン金貨を貸し入れて置いてあり
その噂が広まってしまい心配していた
逃げ道は1つしかないため、4人でそれぞれ持ち場について待ち伏せる
四角い穴からクレーと仲間が入ってきて、すぐに捕らえられる
この事件の報酬も経費ばかりで
珍しい話が聞けただけでよしとするホームズ
事件のあらましをワトソンに話して聞かせる
ウィルソンを呼んだのは、質屋の裏にある銀行まで穴を掘る間、質屋を空けておくため
ビンセントが広告でウィルソンを騙し、地下室でトンネル掘りの手伝いをした
ホームズ:
僕はまた退屈の虫に襲われそうだ
ほんのちょっとはなにかの役に立っているのかな
フランスの有名な小説家フローベルが
ジョルジュ・サンドに送った言葉があるよ
“人間というものは何ものでもない
その仕事こそがすべてを物語るものなのだ”
(フランスの格言が好きだね
■花むこ失踪事件
(毎回、ワトソンが端折る他の事件が気になる
ワトソンが小説にしないと、永遠に知り得ないのか?
ホームズ:
人生は、人間が考えだすどんなことより不思議なものだね
偶然の一致とか、親子何代にもわたり引き継がれて
世にも奇怪な結果を生み出すんだ
新聞で明るみになる事件なんか平凡なものだよ
実際にテストしてみようじゃないか
ダンダス夫妻の別居事件の真相は
夫が食事後いつも入れ歯を外して妻に投げつけるクセがあるから(ww
質素な生活とは無縁な大きな紫水晶をはめた煙草入れは
前回のボヘミア王からもらった記念品
ダイヤモンドの指輪はオランダ王室から贈られた
今も十何件か事件を持っているが、面白そうなのは1つもない
そこに大柄な女性メアリー・サザーランドが依頼に来て
恋愛問題だと見抜くホームズ
彼女がタイプライターで仕事をしていることも当てる
ホズマ・エンジェル氏について教えて欲しいと依頼
メアリー:
実父が死に、母は15も年下の男と再婚
叔父の遺産を継いで、その一部を親にあげて
自分はタイプライターで自活している
舞踏会でホズマ氏と出会い、互いに好きになったが
父が仕事から帰ると家に来てくれなくなった
その代わり手紙を毎日やりとりして、婚約までしたが
住所も知らないため、いつも局留め
字に自信がないからタイプライターで打ったもの
引っ込み思案で散歩も夜にしたがった
父が帰る前に結婚してしまおうと誓いを立てたが
式の当日、教会に現れなかった
御者は乗せたはずなのにもぬけの殻
何がどうなっているか考えると眠れない
もう会えないのでしょうか?
ホームズ:
お気の毒ですが、そのようです
これはすべて不明のままにしておいて
もうあなたの生活に関わりないものにしなくてはなりません
メアリーが去ると、いつものクレーパイプに火をつけた
ホームズ:
事件より、本人のほうがずっと面白い
僕はいつも女性なら袖口を最初に見る 男はズボンの膝がいい
あの娘の袖口にはタイプを打つ時にこすれるスジが付いていた
メアリーが出した人探しの広告からホズマの人相を確かめる
手紙の本文だけでなくサインまでタイプライターなのはおかしい
法律じゃこの悪人を懲らしめることは出来ない
ホームズは手紙を2通書く
1つはメアリーの義父ウィンディバンク宛てで
後日、彼がベーカー街にやって来る
ホームズ:
タイプライターはフシギなもので、人間の筆跡と同様に
1つ1つが独特のクセを持っている
あなたから頂いた手紙とホズマからの手紙は同じ特徴だ
ホズマはもう捕まえましたよ!
くだらんトリックながら、これほど人の心を踏みにじるものは初めてです
男は金目当てにはるかに年上の女性と結婚した
しかもその娘の金も繋ぎとめる値打ちがあった
娘が結婚すれば年に100ポンド入らなくなる
そうさせないために、妻を言い含めて男はホズマに変装した
娘の心に永遠の思い出が残り
ドラマティックな形で終わらせることで
他の男との結婚をしばらく防げる
式への馬車に乗り、そのまま反対側に出た
血も涙もない悪党だな!
一目散に逃げるウィンディバンク
ホームズ:
ああいう男は次々に犯罪を重ねて
最後は絞首台で死刑になるような大罪を犯すよ
メアリーに本当のことを言っても信じないだろう
ペルシアの古い諺にある
“虎の子を捕らえようとする者に危険あり
女から幻想を奪おうとする者にも危険あり”
■ボスコム谷の謎
ワトソンのもとにホームズから電報が来て
ボスコム谷の惨劇のことで同行してくれないかとある
近頃顔色が優れず、気分転換に行くようすすめるワトソンの妻
アフガニスタンの戦場生活ですぐに支度を整えることが出来るワトソン
几帳面なワトソンのヒゲが片方だけ雑なのを見て
家にある鏡のある方角まで言い当てるホームズ
汽車で向かう中で事件のあらましを聞く
ホームズ:
特色のない犯罪ほど犯人を突き止めるのが難しいものだ
ボスコム谷の一番の大地主はジョン・ターナー
チャールズ・マカーシーと2人で
植民地のオーストリアで金を作り、故国に戻っても近くに住んだ
マカーシーには18歳の息子ジェームズ
ターナーには同い年の娘アリスがいる
マカーシーは家を出て、ボスコム谷に歩いた
ジェームズは銃を持って同じ道を行くのを目撃されている
父と激しく口論するのも見られている
その後、父が森で死んでいるのを見つけたと猟場番人に助けを求めた
父は鈍器で何度も殴られ、そばに息子の銃があり、これが凶器と思われた
『緋色の研究』で活躍したレストレード警部が応援を求めてきた
状況証拠は曲者で、違った見地から見直すと
全然別のことを指示していることがある
明白な事実ほど偽りに満ちたものはないよ
逮捕される時、驚いたり、怒るフリをするなら極めて怪しいが
息子が素直に捕まったのは、無罪か自制力があるということだ
ワトソン:もっといい加減な証拠で絞首刑になった人間がたくさんいるよ
ジェームズの証言を新聞で読むワトソン
ジェームズ:
沼にはノウサギの狩りに行った
父が私との合図として使う「クーイー!」と叫んだのを聞いた
父は非常に激しい気性でした
私は父と口論し、農場に戻ろうとすると叫び声がして
戻ると父は頭にひどい怪我をして息を引き取る前に
「ア・ラット」とか言ったのを聞いたが意味が分からない
グレーの外套のようなものを見た気がする
どんな理由で口論したかは言いたくありません
ホームズ:
死に際にネズミのことなどを言ったと意識的に考えだしたなら
想像力がありすぎる
現地に着くと、アリスが興奮して迎える
アリス:
私たちは小さい頃からよく知り合い
あの人は虫1匹殺せない優しい人です
口論の内容を言えないのは、きっと私に関係しているからです
マカーシーさんは、ジェームズと私を結婚させたがっていた
私たちは兄妹みたいで結婚は望んでいなかった
父も反対だった
父は体が壊れて床についたきり
マカーシーさんとはビクトリア州にいた頃の知り合い
ホームズはジェームズに会いに行き、ワトソンは宿に行き
検死審問の記事を読むと背後から受けた打撃が死因
ホームズ:
手がかりはなかった
ジェームズはアリスに恋い焦がれているが
2年前、酒場の女にひっかかり、登記所に結婚届を出してしまった
これが父に知れたら勘当されるだろう
しかし、逮捕されると女は見限って、夫がいるからと言って関係は切れた
被害者は誰と会う約束をしていたか
息子でないのはハッキリしている
ターナーが重病で先行き短いこと
農場をマカーシーに無料で貸していたと分かる
ホームズは靴のサイズを測り、現場の足跡を調べ始める
普段は物静かな思索家、理論家だが
犯罪の跡をたどる様子は動物的欲望がむき出しになり
話しかけても聞こえない様子
現場があまりに警部の足跡で乱されていて怒る
ホームズ:ちぇ! 君のその内股の跡が一面に残っているじゃないか(w
ゴミにしか見えないものを集めて封筒に入れ
拾った石が凶器だと言う
ホームズ:
犯人は背の高い左利きの男 グレーの外套を着ている
たぶん夜の列車でロンドンに帰れるだろう
もう謎は解けている
ワトソンの助言が欲しいと説明を始める
ホームズ:
「クーイー」とは、オーストリアの合図で使われるものだ
ビクトリア植民地の地図を取り寄せた
父は殺人犯の名を言おうとしていた
「バララット」の誰それと
息子は最後の音を聞いたんだ
男は父と息子が口論している間、木の後ろに隠れていた
真犯人はターナーさんです
僕はマカーシーさんの件をすっかり知っています
マカーシー:可愛い娘さえいなければ、すぐにでも打ち明けてしまいたい
ホームズ:
私はあなたの娘さんのために働いている
でも息子さんは釈放しなければならない
真実を話して、要点を書いて、サインをしたら
ワトソン君に証人になってもらいます
マカーシー:
私は糖尿病で先が短い
巡回裁判まで生きられないかもしれない
あいつは悪魔の化身でした
1860年代、私もむこうみずでおいはぎ強盗にまでなりました
仲間は6人 バララットのブラック・ジャックというのが私のあだ名でした
ある日、金塊輸送隊が来て、待ち伏せて4人を撃ち落としました
荷馬車の御者に拳銃を当てましたが、それがマカーシーでした
金塊を持ち去り、金持ちになり、イギリスに戻り
かたぎの生活を送ろうと決心し、結婚もしました
過去の償いに全力を尽くしたのです
(堅気もなにも殺人犯じゃん/汗
リージェント街でマカーシーと会い
「俺と息子2人の面倒をみてもらう」と脅された
警察に知れるより、娘に知られるのを恐れていると知っていた
言われるままに家も金もやり
息子を娘と結婚させて全財産を相続させるよう要求してきた
奴の呪われた血を私の血統にまじえたくなかった
ボスコム谷で会う約束をして行くと
奴は息子にアリスと結婚しろと強引にすすめていた
まるで町の女も同然の話し方で
私はやりました もう一度でもやります
逃げる時に落とした外套を拾いに戻った
ホームズ:
ほどなくあなたは、はるかに高い神の裁きに立って
責任を果たすつもりだ
あなたの秘密は私たちで安全に守ります
運命というものはなぜ哀れで
無力な人間にこんなイタズラをするのだろう
僕はいつもバクスターの言葉を思い出す
“神の恵みがなければ、シャーロック・ホームズよ、お前もこうなるぞ”とね
ジェームズは巡回裁判で無罪となり
ターナーは7か月後に亡くなった
ジェームズとアリスは楽しい共同生活を始めるだろう
■五つぶのオレンジの種
「他の様々な事件もいずれ書くこともあるだろう」とワトソンは書いている
妻が叔母の家に行ったので、ワトソンは下宿に戻っている
ホームズは犯罪記録の索引をこしらえていたところに
20代の男性ジョン・オープンショーが依頼に来る
ジョン:
叔父はアメリカでかなりの財産を作ったが、黒人嫌いで帰国した
叔父は父に頼み、私を引き取り、一緒に暮らした
屋根裏の物置部屋は鍵をかけて、誰も入れない
インドから手紙が届き、中からオレンジの種が出てきて
叔父:KKKだ! とうとう罪の報いがきた! と叫んだ
弁護士が来て、地所と屋敷を父に譲ると遺言状を作成
それまでより酒をがぶ飲みし、人を避けるようになった
ある晩、叔父は帰らず、庭の隅の池にうつぶせに死んでいて
自殺と判定されたが納得出来なかった
父が遺産を相続し、例の屋根裏部屋を調べると
小箱の中の紙はすでに燃やされ、フタの内側にKKKとある
父もオレンジの種を受け取り「書類を日時計の上に置け」とある
その書類はもう叔父が焼いてしまった
その3日後、父は白亜抗に転落して死に、過失死と評決が下った
私は遺産を相続し、オレンジの種が届いた
警察は私の話を聞いてもいたずらだと笑うだけ
ホームズ:
信じられない低能さだ!
あなたが手紙を受け取ってもう2日も経っている
やらなければ、やられてしまいます
一刻もぐずぐずしていられません
まず燃えカスの紙片を箱に入れて
他は叔父が焼いてしまったと書いて
指定通り置くのです
ジョンはこれからウォータルー駅から汽車に乗って帰り
ホームズはロンドンを調べると約束
ホームズ:
理想的な推理家なら、ただ一度、1つの事実をあらゆる角度から見せられると
そこに至るすべての出来事、そこから生じる結果さえ推理するだろう
みんなが五感によって解決できない問題も
書斎にいて解くことができる
君は僕の知識の限界を言い当てたことがあったね
ワトソン:哲学、文学、政治、植物、地質学
ホームズ:
こういう事件には、全知識を総動員してぶつかる必要がある
まず、大佐がアメリカを離れるには重大な理由があったという推定から始めよう
極端に孤独な生活をしたのは、なにかひどく恐れていたからだろう
封筒の消印はすべて開港で、相手は帆船で移動していると分かる
今度の手紙はロンドンから来ているから時間の余裕がない
明らかに1人の仕事ではない
君はキュー・クラックス・クランを聞いたことがないのか?
百科事典の「KKK」:
もと南軍の軍人の数名の男たちで結成され、たちまち全国に広まった
政治上の目的で、主に黒人有権者を脅かし、殺害、国外へ追い出す
よく知られた方法で警告を行う オレンジの種を送るなど
警告された者は主義を捨てるか、国外逃亡しかない
殺害されても、犯人がつきとめられた記録はない
ホームズ:
この結社が突然崩れ去ったのと、大佐が書類を持ってアメリカから帰った時期が同じだ
それが南部の有力者に関わりがあり、それがあるまでは枕を高くして眠れない
ワトソン:
もう手遅れだ!
新聞にジョンが暗闇で船着き場から足を踏み外して死んだ記事がある
ホームズがこれほどしょげているのを見たことがない
ホームズ:
僕は体が続くかぎり、このギャングを捕らえるのを諦めないぞ
僕自身が警察になって網を張る!
どうやってあの青年をそこまでおびき寄せたのか?
その日遅くに帰り
ホームズ:奴らをもうこの手の中に握ったよ
ホームズはオレンジから種を5粒取り
アメリカの帆船ローンスター号船長宛てに送り
逆に警告する作戦を思いつくが
犯人らは受け取ることなく、嵐に遭って海の藻屑となる
(これもホームズにとっては「失敗」の1つに入るのかな?
■唇のねじれた男
アイザ・ホイットニーは、アヘンにひどく溺れていた
貴族の慣れの果てという姿
妻の友・ケートはアイザの妻で
夫が2日も帰って来ないと血相を変えて助けを求めに来る
最近アイザはシティ(旧市部)の外れのアヘン窟に通っているから
ワトソンは主治医として様子を見に行くことにした
細長い部屋にアヘンの煙がもうもうとたちこめ
大勢が奇妙な姿勢でどんよりしている
アイザは2、3時間しかいなかったと主張しつつ
妻が可哀想だと帰ることにする
そこで背の低い老人に声をかけられ、ホームズの変装と気づいて驚く
ホームズはアイザを馬車に乗せて帰らせ
宿命の敵の1人が関わる事件でここにいると話す
ホームズ:
あのアヘン窟で正体をさとられたら命がいくつあっても足りないよ
あすこの経営者はインド人の水夫だが、僕に必ず復讐すると言っている
あの建物の裏手に落とし穴があり、1人殺すたびに千ポンドもらえる
セント・クレアさんの屋敷に泊っていて、ワトソンも誘う
ホームズ:
君には沈黙という素晴らしい才能がある
それだけで君はかけがえのない友人だ
数年前、リー市にネビル・セント・クレアという金持ちが来た
結婚して2人の子どもがいる
夫人は心待ちにしていた小包を取りにシティに行くと
大きな叫び声がして振り向くと、3階の窓に夫がいて
両手を狂ったように振り、ふっと窓から消えた
その建物の階段に上がる途中でインド人水夫に止められた
警部と巡査を連れて入ると、醜い“いざり”とインド人水夫の2人だけ
子どもへのお土産の積み木と、夫の衣服が出てきた
窓には血がついている
このインド人水夫は札付きの悪人だ
いざりの本職は乞食だが、警察の取り締まりを避けるため
蝋マッチを売るふりをしていた
街角に毎日出かけて、帽子を置くと
またたく間にたくさんのもらいがあるのはビックリする
顔は酷いひきつれで唇がめくれあがっている
いざりは捕らえられたが証拠はないまま拘束されている
窓の下の水から夫の上着が出てきて
ポケットには1ペンス、半ペンスの銅貨がぎっしり詰まっていた
クレア氏を窓から突き落としたにしても誰も見ていない
アヘン窟で聞き込みをしても、彼に何が起きたか解決しない
こんなに厄介な事件は他に思い出せないよ
家に行くと夫人が迎えてくれ、今日夫から手紙が届いたと見せる
字は確かに夫に間違いない
手紙:
万事うまくいく
少したてば元通りにおさまるはずだ
辛抱して待っていてくれ
夫人は夫が生きていると確信する
ホームズ:女性の勘のほうが、分析的な推理家より貴重なことがある
その夜、ホームズは徹夜で推理を巡らせ
翌朝、早くにワトソンと馬車に乗り警察に行っていざりに会う
警官の言う通り、彼はひどく汚れていたため
ホームズはばかでかい入浴用スポンジでこすると
彼こそがネビル氏だと分かる
ネビル:
問題は妻ではなく、こんな父を持つ子どもたちです
なんという恥さらし!
ホームズ:
あなたが事情をよく説明して罪のないことを警察に納得してもらえば
この秘密が新聞に漏れる恐れはないでしょう
ネビル:
父は校長をしていて、私も立派な教育を受けました
役者として舞台にも立ちましたが、しまいにはロンドンで記者になりました
ある日、ロンドン市内で乞食をするという連載記事を任され
役者当時のメーキャップの腕前が役立ちました
シティの人通りの多い場所に座ると、7時間に26シリングもらいました
顔に顔料を塗り、帽子を置いて座っているだけで
1日に2ポンドにもなるのに
1週間で2ポンドの記者を続けるのがどんなに辛いか
私は苦しんだ挙句、記者の職を捨て
アヘン窟の主人の下宿で乞食姿に変わり
夕方にはロンドン紳士に変わる
1年に700ポンド稼ぎ、とうとうシティの名物男にまでなった
私は田舎に家を持ち、結婚したが
妻もどんな仕事か知らなかった
月曜に、部屋で着替えをしていると、窓の下に妻がいて
驚いて顔を隠し、水夫に誰が来ても上げるなと頼んだ
また乞食の変装をして、妻も見破れなかった
今朝、寝室で怪我した傷が開いて血がついた
上着にその日の儲けを入れて、窓から捨てた
逮捕され、妻が心配しているだろうと手紙を出してもらった
警部:警察に目をつむってもらいたければもう止めることだ
■シャーロック=ホームズを推理する 各務三郎 名探偵ホームズのモデル
●探偵小説のおこり
探偵小説を初めて書いたのはエドガー・アラン・ポー
『モルグ街の殺人』のオーギュスト・デュパンの名探偵ぶりはよく知られる
ポーは「探偵小説の父」と呼ばれる
アメリカ探偵作家クラブでは、毎年優れた探偵小説家にエドガー賞を授けている
時に「永遠の名探偵」と呼ばれるホームズは
世界で唯一の私立顧問探偵(明智小五郎は違うの?
ホームズが活躍したのは、イギリスのビクトリア女王時代(1837~1901)
「探偵小説など、犯人や謎が分かれば、二度も読めない」と言われるが
ホームズ物語は何度読んでも飽きない
現代の探偵小説は、サスペンス、犯罪、パズル(謎解き)、警察、スパイ、ハードボイルドに分かれるが
ホームズ物語はほぼすべての分野にわたる
原題は「〇〇の冒険」とあり、冒険小説ですが
英語のアドベンチャーは「珍しい、ワクワクする出来事」の意味もある
『Yの悲劇』
『ローマ帽の謎』
●ふたりのモデル
『すばらしいモデルたち』アービング・ウォーレス
『ロビンソン・クルーソー』のモデルはスコットランド出身の副船長
航海中にケンカして、太平洋の無人島に置き去りにされ
4年後に救出された
『ジキル博士とハイド氏』の原型は、イギリスに住むウィリアム・ブロディという
大工組合の長で、名士だが、夜には泥棒を働いていた
一流の外科医ジョゼフ・ベル博士:
たいていの人は目で見るだけで観察しない
立派な探偵なら、相手をひと目見るだけで
職業や経歴を見抜いてしまう
「まるでシャーロック・ホームズじゃないですか!」
ベル:私がそうなんですよ
コナン:
私は旧師ベルを思い浮かべ
あの人が探偵なら魅惑的だのにと思った
『わが思い出と冒険』
ドイル夫人は夫の死後:
シャーロック・ホームズはコナン・ドイルだった
時には警察が手をこまねく事件を解決した
フローベルは「ボバリー夫人は私である」と語った
●名コンビの誕生
コイル『わが思い出と冒険』より:
本人に功績を語らせるわけにはいかないから
引き立て役として平凡な仲間を必要とする
この人物には単調な名がよい
ポワロ探偵とヘースティングス
隅の老人と女記者ポリー
メースン弁護士と女秘書ストリート・・・といろいろあるが
ホームズとワトソンほどの名コンビはいないだろう
■作品解説
本書はドイルの第一短編集
発売から3年で売れたのはたった3万部
●ボヘミアの醜聞
ホームズが解決しそこなった唯一の事件
『盗まれた手紙』の影響を受けているのは間違いない
●赤毛連盟
ホームズ物語でもっとも有名な短編
●花むこ失踪事件
依頼人から話を聞くだけで真相を見抜く名探偵を
「アームチェア・ディテクテイィヴ(安楽椅子探偵)」と呼ぶ
●ボスコム谷の謎
被害者が死に際に手がかりを残すことを
探偵小説専門用語で「ダイイング・クルー」と呼ぶ
生きている者はウソをつくが、死にかけている者はウソをつかないと信じられている
しかし、ダイイングクルーに頼る探偵小説家は
謎づくりの才能が枯れ始める危険信号だとも言える
●五つぶのオレンジの種
ホームズはしばしば犯人を捕らえ損ねることがある
●唇のねじれた男
「乞食は3日やったらやめられない」という諺がある
ホームズ物語には、ビクトリア朝後期の物価が登場する
市川英夫&プラスB/装丁 シドニー・パジェット/挿絵
※「ジュヴェナイル」カテゴリー内に追加します
長編を読み終えて、これが短編の1冊目
1編ごとにそれぞれの面白味がギュッと詰まっているから
1日の終わりに1編ずつ集中して楽しんだ
これらの中でホームズのちょっとしたクセや
ワトソンとの関わり方の変容が見えてくるのもファンには嬉しいもの
ホームズが4回“失敗”を犯したうちの1件が1編目にあるのも興味深い
【内容抜粋メモ】
■ボヘミアの醜聞
正体不明の怪しい女アイリーン・アドラー
ホームズはいつも名前を呼ばずに「あの女性」とだけ言う
ワトソンは結婚して下宿を出て、開業医に戻ってからも
ホームズは事件のない時はコカインを打って夢を見
犯罪の研究にも打ち込んでいた
久しぶりに下宿を訪ねると喜びの優しい目で迎える
7ポンド太ったとか、不器用なメイドがいることを推理してからかうw
ホームズ:君はものを見てはいても観察していない
さっき配達された事件依頼の手紙を見せて
書いたのはドイツ人だと推理
ホームズ:君がそばにいてくれないと張り合いがないんだ
ヘラクレスのような体格で黒い覆面をつけた男が訪ねて来る
偽名を使い、お使いで来たフリをするが
すぐに依頼人本人だと見抜いてしまう
ボヘミアの国王ウィルヘルム陛下:
2年間ふせて欲しい スキャンダルになれば王室の名誉に傷がつく
5年前アイリーンと出会った
ホームズはいろんな人や事柄をまとめた索引を出して
彼女がアメリカ生まれの歌手だと分かる
陛下:
もうじきスカンジナビアの王女との結婚を控えているため
彼女との2ショット写真を取り返して欲しい
アイリーンは相手の王家に送ると脅している
写真を取り戻したら1地方の領地を与えてもいい
翌日、約束の時間に来ると、ホームズは酔っ払いの馬丁に変装している
ホームズ:
馬を扱う者たちは仲間意識が驚くほど強く
知りたいことはなんでも聞ける
彼女の家の周りで欲しい情報は全部頂いた
実際、男が命も投げ出しかねない美しさだったよ
ハンサムなアドラーという男がしょっちゅう来ていて
ひどく急いで馬車を走らせて教会に着き
変装したホームズは2人の結婚の立会人にされたと爆笑して話す
写真のありかを知るため、ワトソンにも一役買ってもらう
ホームズ:
女性は生まれつき秘密が好きで、自分だけで隠そうとする
すぐに取り出せる場所にあるはずだ
牧師姿になり、殴られて倒れたフリをして家の中に入り
合図をしたら、ワトソンは発煙筒を投げ込んで「火事だ!」と叫ぶ
その後、2人は落ち合い、隠し場所は羽目板の後ろだと分かる
ホームズ:
殴った連中は雇った者たち
火事となると一番大切なものに飛んでいく本能を利用した
結婚してる女なら赤ん坊、独身なら宝石箱(随分極端な例だな
写真をとろうと思ったが御者が入ってきたため
後日、陛下とともに訪ねたほうがいいだろうと決める
そこに通りすがりの男が
「ホームズさん、こんばんは」と声をかけ
どこかで聞いた声だが思い出せない
陛下と家を訪ねると、中年女がいて
アイリーンは夫と大陸に発った後だと言う
問題の写真の代わりにイブニングドレスを着た写真に手紙が付いている
手紙:
何か月も前にあなたに注意するよう言われていた
私は女優の修行もしていて、男に化けてあなたに声をかけて確かめた
こんな恐ろしい方に狙われては、逃げるのが一番と考えた
あの写真は万が一のための武器として持っていく
今はもっと良い方と愛し愛されているから心配しないよう
さようなら シャーロック・ホームズ様
ホームズ:ああ、なんという女だろうか!
ホームズは高額な報酬の代わりにその写真をくれと陛下に頼む
それまでは女の浅知恵を嘲笑っていたが
この事件以来言わなくなった
■赤毛連盟
再びワトソンがホームズを訪ねた時
燃えるように赤い毛の男ウィルソンが事件を依頼していた
ホームズは両手の指先を合わせて山の形を作る
考え事をする時のクセ(これはドラマでも演っていたな
ホームズ:
びっくりする事件は日常生活から探さなければならない
現実はどんな空想よりはるかに奇妙だから
世にも珍しい事件は、かえって小さな犯罪のほうが多い
ウィルソンが書き物の仕事をしていることをズバリと言い当てる
ホームズ:“知らないものは、すべて偉大に思われる”という言葉がある
今から2か月前の新聞の広告を見せるウィルソン
そこには「赤毛連盟へ」とあり、1名空席が出来たため
21歳以上の赤毛の男性が申し込んで合格すれば
週4ポンドの給料の仕事が与えられる、とある
ウィルソンはコーバーグ広場で質屋をしている
半分の給料で働く店員ビンセントを1人雇っている
写真きちがいで、すぐカメラを出して撮ると地下室で現像している
そのビンセントがこの広告を持って来て
ウィルソンなら最適だと推して、2人で広告の場所に行くと
さまざまな赤毛の男がわんさか集まり気味が悪くなるほどw
事務所に入ると、条件にピッタリだからとすぐ合格になる
ダンカン・ロス:
赤毛の人を保護し、子孫繁栄させる目的もある
毎日10時~14時まで事務所で大英百科事典をAから全部書き写すだけ
すぐに仕事を始めて、ロスは最初は見張っていたが
そのうち来なくなり、週の土曜に1週間分の給料が支払われる
そうして8週間経ち、今朝、事務所に行くと鍵がかかっていて
「赤毛連盟は解散した」とあり、驚いて他の事務所に聞くと
赤毛連盟もロスのことも誰も知らないという
その男の名はウィリアム・モリスという弁護士で
新しい事務所を訪ねても、どちらの男の名も知らないと言われた
ウィルソン:
男の正体を知りたい
いたずらならどうしてそんなことをしたのか知りたい
ホームズ:この事件は急がなけりゃならないな
ホームズは熱心な音楽愛好家で、作曲家としても素晴らしい
サラサーテの演奏会を聴いてから(!)
ホームズは質屋の周りを調べる
中からビンセントが出て来て、道を聞くフリをする
ホームズ:あの男はロンドンで4番目に悪賢い男だ
質屋の反対側も調べる
ホームズ:ロンドンについて正確な知識を持つのが趣味でね
彼の不思議な性格には2つの面があり、代わる代わる現れる
瞑想に浸っている時と、反動で出る機敏なところ
警視庁のピーター・ジョーンズと
銀行の重役メリウェザーとともに馬車に乗る
犯人はピーターが捕らえたがっていたジョン・クレーで
人殺し、泥棒、贋金作りなどを犯している
メリウェザー氏に案内されて、頑丈な鉄門を通り
地下室のような部屋に入ると
ホームズは虫メガネで床を丹念に調べる
ここはロンドンで指折りの銀行の地下室で
フランス銀行から3万枚のナポレオン金貨を貸し入れて置いてあり
その噂が広まってしまい心配していた
逃げ道は1つしかないため、4人でそれぞれ持ち場について待ち伏せる
四角い穴からクレーと仲間が入ってきて、すぐに捕らえられる
この事件の報酬も経費ばかりで
珍しい話が聞けただけでよしとするホームズ
事件のあらましをワトソンに話して聞かせる
ウィルソンを呼んだのは、質屋の裏にある銀行まで穴を掘る間、質屋を空けておくため
ビンセントが広告でウィルソンを騙し、地下室でトンネル掘りの手伝いをした
ホームズ:
僕はまた退屈の虫に襲われそうだ
ほんのちょっとはなにかの役に立っているのかな
フランスの有名な小説家フローベルが
ジョルジュ・サンドに送った言葉があるよ
“人間というものは何ものでもない
その仕事こそがすべてを物語るものなのだ”
(フランスの格言が好きだね
■花むこ失踪事件
(毎回、ワトソンが端折る他の事件が気になる
ワトソンが小説にしないと、永遠に知り得ないのか?
ホームズ:
人生は、人間が考えだすどんなことより不思議なものだね
偶然の一致とか、親子何代にもわたり引き継がれて
世にも奇怪な結果を生み出すんだ
新聞で明るみになる事件なんか平凡なものだよ
実際にテストしてみようじゃないか
ダンダス夫妻の別居事件の真相は
夫が食事後いつも入れ歯を外して妻に投げつけるクセがあるから(ww
質素な生活とは無縁な大きな紫水晶をはめた煙草入れは
前回のボヘミア王からもらった記念品
ダイヤモンドの指輪はオランダ王室から贈られた
今も十何件か事件を持っているが、面白そうなのは1つもない
そこに大柄な女性メアリー・サザーランドが依頼に来て
恋愛問題だと見抜くホームズ
彼女がタイプライターで仕事をしていることも当てる
ホズマ・エンジェル氏について教えて欲しいと依頼
メアリー:
実父が死に、母は15も年下の男と再婚
叔父の遺産を継いで、その一部を親にあげて
自分はタイプライターで自活している
舞踏会でホズマ氏と出会い、互いに好きになったが
父が仕事から帰ると家に来てくれなくなった
その代わり手紙を毎日やりとりして、婚約までしたが
住所も知らないため、いつも局留め
字に自信がないからタイプライターで打ったもの
引っ込み思案で散歩も夜にしたがった
父が帰る前に結婚してしまおうと誓いを立てたが
式の当日、教会に現れなかった
御者は乗せたはずなのにもぬけの殻
何がどうなっているか考えると眠れない
もう会えないのでしょうか?
ホームズ:
お気の毒ですが、そのようです
これはすべて不明のままにしておいて
もうあなたの生活に関わりないものにしなくてはなりません
メアリーが去ると、いつものクレーパイプに火をつけた
ホームズ:
事件より、本人のほうがずっと面白い
僕はいつも女性なら袖口を最初に見る 男はズボンの膝がいい
あの娘の袖口にはタイプを打つ時にこすれるスジが付いていた
メアリーが出した人探しの広告からホズマの人相を確かめる
手紙の本文だけでなくサインまでタイプライターなのはおかしい
法律じゃこの悪人を懲らしめることは出来ない
ホームズは手紙を2通書く
1つはメアリーの義父ウィンディバンク宛てで
後日、彼がベーカー街にやって来る
ホームズ:
タイプライターはフシギなもので、人間の筆跡と同様に
1つ1つが独特のクセを持っている
あなたから頂いた手紙とホズマからの手紙は同じ特徴だ
ホズマはもう捕まえましたよ!
くだらんトリックながら、これほど人の心を踏みにじるものは初めてです
男は金目当てにはるかに年上の女性と結婚した
しかもその娘の金も繋ぎとめる値打ちがあった
娘が結婚すれば年に100ポンド入らなくなる
そうさせないために、妻を言い含めて男はホズマに変装した
娘の心に永遠の思い出が残り
ドラマティックな形で終わらせることで
他の男との結婚をしばらく防げる
式への馬車に乗り、そのまま反対側に出た
血も涙もない悪党だな!
一目散に逃げるウィンディバンク
ホームズ:
ああいう男は次々に犯罪を重ねて
最後は絞首台で死刑になるような大罪を犯すよ
メアリーに本当のことを言っても信じないだろう
ペルシアの古い諺にある
“虎の子を捕らえようとする者に危険あり
女から幻想を奪おうとする者にも危険あり”
■ボスコム谷の謎
ワトソンのもとにホームズから電報が来て
ボスコム谷の惨劇のことで同行してくれないかとある
近頃顔色が優れず、気分転換に行くようすすめるワトソンの妻
アフガニスタンの戦場生活ですぐに支度を整えることが出来るワトソン
几帳面なワトソンのヒゲが片方だけ雑なのを見て
家にある鏡のある方角まで言い当てるホームズ
汽車で向かう中で事件のあらましを聞く
ホームズ:
特色のない犯罪ほど犯人を突き止めるのが難しいものだ
ボスコム谷の一番の大地主はジョン・ターナー
チャールズ・マカーシーと2人で
植民地のオーストリアで金を作り、故国に戻っても近くに住んだ
マカーシーには18歳の息子ジェームズ
ターナーには同い年の娘アリスがいる
マカーシーは家を出て、ボスコム谷に歩いた
ジェームズは銃を持って同じ道を行くのを目撃されている
父と激しく口論するのも見られている
その後、父が森で死んでいるのを見つけたと猟場番人に助けを求めた
父は鈍器で何度も殴られ、そばに息子の銃があり、これが凶器と思われた
『緋色の研究』で活躍したレストレード警部が応援を求めてきた
状況証拠は曲者で、違った見地から見直すと
全然別のことを指示していることがある
明白な事実ほど偽りに満ちたものはないよ
逮捕される時、驚いたり、怒るフリをするなら極めて怪しいが
息子が素直に捕まったのは、無罪か自制力があるということだ
ワトソン:もっといい加減な証拠で絞首刑になった人間がたくさんいるよ
ジェームズの証言を新聞で読むワトソン
ジェームズ:
沼にはノウサギの狩りに行った
父が私との合図として使う「クーイー!」と叫んだのを聞いた
父は非常に激しい気性でした
私は父と口論し、農場に戻ろうとすると叫び声がして
戻ると父は頭にひどい怪我をして息を引き取る前に
「ア・ラット」とか言ったのを聞いたが意味が分からない
グレーの外套のようなものを見た気がする
どんな理由で口論したかは言いたくありません
ホームズ:
死に際にネズミのことなどを言ったと意識的に考えだしたなら
想像力がありすぎる
現地に着くと、アリスが興奮して迎える
アリス:
私たちは小さい頃からよく知り合い
あの人は虫1匹殺せない優しい人です
口論の内容を言えないのは、きっと私に関係しているからです
マカーシーさんは、ジェームズと私を結婚させたがっていた
私たちは兄妹みたいで結婚は望んでいなかった
父も反対だった
父は体が壊れて床についたきり
マカーシーさんとはビクトリア州にいた頃の知り合い
ホームズはジェームズに会いに行き、ワトソンは宿に行き
検死審問の記事を読むと背後から受けた打撃が死因
ホームズ:
手がかりはなかった
ジェームズはアリスに恋い焦がれているが
2年前、酒場の女にひっかかり、登記所に結婚届を出してしまった
これが父に知れたら勘当されるだろう
しかし、逮捕されると女は見限って、夫がいるからと言って関係は切れた
被害者は誰と会う約束をしていたか
息子でないのはハッキリしている
ターナーが重病で先行き短いこと
農場をマカーシーに無料で貸していたと分かる
ホームズは靴のサイズを測り、現場の足跡を調べ始める
普段は物静かな思索家、理論家だが
犯罪の跡をたどる様子は動物的欲望がむき出しになり
話しかけても聞こえない様子
現場があまりに警部の足跡で乱されていて怒る
ホームズ:ちぇ! 君のその内股の跡が一面に残っているじゃないか(w
ゴミにしか見えないものを集めて封筒に入れ
拾った石が凶器だと言う
ホームズ:
犯人は背の高い左利きの男 グレーの外套を着ている
たぶん夜の列車でロンドンに帰れるだろう
もう謎は解けている
ワトソンの助言が欲しいと説明を始める
ホームズ:
「クーイー」とは、オーストリアの合図で使われるものだ
ビクトリア植民地の地図を取り寄せた
父は殺人犯の名を言おうとしていた
「バララット」の誰それと
息子は最後の音を聞いたんだ
男は父と息子が口論している間、木の後ろに隠れていた
真犯人はターナーさんです
僕はマカーシーさんの件をすっかり知っています
マカーシー:可愛い娘さえいなければ、すぐにでも打ち明けてしまいたい
ホームズ:
私はあなたの娘さんのために働いている
でも息子さんは釈放しなければならない
真実を話して、要点を書いて、サインをしたら
ワトソン君に証人になってもらいます
マカーシー:
私は糖尿病で先が短い
巡回裁判まで生きられないかもしれない
あいつは悪魔の化身でした
1860年代、私もむこうみずでおいはぎ強盗にまでなりました
仲間は6人 バララットのブラック・ジャックというのが私のあだ名でした
ある日、金塊輸送隊が来て、待ち伏せて4人を撃ち落としました
荷馬車の御者に拳銃を当てましたが、それがマカーシーでした
金塊を持ち去り、金持ちになり、イギリスに戻り
かたぎの生活を送ろうと決心し、結婚もしました
過去の償いに全力を尽くしたのです
(堅気もなにも殺人犯じゃん/汗
リージェント街でマカーシーと会い
「俺と息子2人の面倒をみてもらう」と脅された
警察に知れるより、娘に知られるのを恐れていると知っていた
言われるままに家も金もやり
息子を娘と結婚させて全財産を相続させるよう要求してきた
奴の呪われた血を私の血統にまじえたくなかった
ボスコム谷で会う約束をして行くと
奴は息子にアリスと結婚しろと強引にすすめていた
まるで町の女も同然の話し方で
私はやりました もう一度でもやります
逃げる時に落とした外套を拾いに戻った
ホームズ:
ほどなくあなたは、はるかに高い神の裁きに立って
責任を果たすつもりだ
あなたの秘密は私たちで安全に守ります
運命というものはなぜ哀れで
無力な人間にこんなイタズラをするのだろう
僕はいつもバクスターの言葉を思い出す
“神の恵みがなければ、シャーロック・ホームズよ、お前もこうなるぞ”とね
ジェームズは巡回裁判で無罪となり
ターナーは7か月後に亡くなった
ジェームズとアリスは楽しい共同生活を始めるだろう
■五つぶのオレンジの種
「他の様々な事件もいずれ書くこともあるだろう」とワトソンは書いている
妻が叔母の家に行ったので、ワトソンは下宿に戻っている
ホームズは犯罪記録の索引をこしらえていたところに
20代の男性ジョン・オープンショーが依頼に来る
ジョン:
叔父はアメリカでかなりの財産を作ったが、黒人嫌いで帰国した
叔父は父に頼み、私を引き取り、一緒に暮らした
屋根裏の物置部屋は鍵をかけて、誰も入れない
インドから手紙が届き、中からオレンジの種が出てきて
叔父:KKKだ! とうとう罪の報いがきた! と叫んだ
弁護士が来て、地所と屋敷を父に譲ると遺言状を作成
それまでより酒をがぶ飲みし、人を避けるようになった
ある晩、叔父は帰らず、庭の隅の池にうつぶせに死んでいて
自殺と判定されたが納得出来なかった
父が遺産を相続し、例の屋根裏部屋を調べると
小箱の中の紙はすでに燃やされ、フタの内側にKKKとある
父もオレンジの種を受け取り「書類を日時計の上に置け」とある
その書類はもう叔父が焼いてしまった
その3日後、父は白亜抗に転落して死に、過失死と評決が下った
私は遺産を相続し、オレンジの種が届いた
警察は私の話を聞いてもいたずらだと笑うだけ
ホームズ:
信じられない低能さだ!
あなたが手紙を受け取ってもう2日も経っている
やらなければ、やられてしまいます
一刻もぐずぐずしていられません
まず燃えカスの紙片を箱に入れて
他は叔父が焼いてしまったと書いて
指定通り置くのです
ジョンはこれからウォータルー駅から汽車に乗って帰り
ホームズはロンドンを調べると約束
ホームズ:
理想的な推理家なら、ただ一度、1つの事実をあらゆる角度から見せられると
そこに至るすべての出来事、そこから生じる結果さえ推理するだろう
みんなが五感によって解決できない問題も
書斎にいて解くことができる
君は僕の知識の限界を言い当てたことがあったね
ワトソン:哲学、文学、政治、植物、地質学
ホームズ:
こういう事件には、全知識を総動員してぶつかる必要がある
まず、大佐がアメリカを離れるには重大な理由があったという推定から始めよう
極端に孤独な生活をしたのは、なにかひどく恐れていたからだろう
封筒の消印はすべて開港で、相手は帆船で移動していると分かる
今度の手紙はロンドンから来ているから時間の余裕がない
明らかに1人の仕事ではない
君はキュー・クラックス・クランを聞いたことがないのか?
百科事典の「KKK」:
もと南軍の軍人の数名の男たちで結成され、たちまち全国に広まった
政治上の目的で、主に黒人有権者を脅かし、殺害、国外へ追い出す
よく知られた方法で警告を行う オレンジの種を送るなど
警告された者は主義を捨てるか、国外逃亡しかない
殺害されても、犯人がつきとめられた記録はない
ホームズ:
この結社が突然崩れ去ったのと、大佐が書類を持ってアメリカから帰った時期が同じだ
それが南部の有力者に関わりがあり、それがあるまでは枕を高くして眠れない
ワトソン:
もう手遅れだ!
新聞にジョンが暗闇で船着き場から足を踏み外して死んだ記事がある
ホームズがこれほどしょげているのを見たことがない
ホームズ:
僕は体が続くかぎり、このギャングを捕らえるのを諦めないぞ
僕自身が警察になって網を張る!
どうやってあの青年をそこまでおびき寄せたのか?
その日遅くに帰り
ホームズ:奴らをもうこの手の中に握ったよ
ホームズはオレンジから種を5粒取り
アメリカの帆船ローンスター号船長宛てに送り
逆に警告する作戦を思いつくが
犯人らは受け取ることなく、嵐に遭って海の藻屑となる
(これもホームズにとっては「失敗」の1つに入るのかな?
■唇のねじれた男
アイザ・ホイットニーは、アヘンにひどく溺れていた
貴族の慣れの果てという姿
妻の友・ケートはアイザの妻で
夫が2日も帰って来ないと血相を変えて助けを求めに来る
最近アイザはシティ(旧市部)の外れのアヘン窟に通っているから
ワトソンは主治医として様子を見に行くことにした
細長い部屋にアヘンの煙がもうもうとたちこめ
大勢が奇妙な姿勢でどんよりしている
アイザは2、3時間しかいなかったと主張しつつ
妻が可哀想だと帰ることにする
そこで背の低い老人に声をかけられ、ホームズの変装と気づいて驚く
ホームズはアイザを馬車に乗せて帰らせ
宿命の敵の1人が関わる事件でここにいると話す
ホームズ:
あのアヘン窟で正体をさとられたら命がいくつあっても足りないよ
あすこの経営者はインド人の水夫だが、僕に必ず復讐すると言っている
あの建物の裏手に落とし穴があり、1人殺すたびに千ポンドもらえる
セント・クレアさんの屋敷に泊っていて、ワトソンも誘う
ホームズ:
君には沈黙という素晴らしい才能がある
それだけで君はかけがえのない友人だ
数年前、リー市にネビル・セント・クレアという金持ちが来た
結婚して2人の子どもがいる
夫人は心待ちにしていた小包を取りにシティに行くと
大きな叫び声がして振り向くと、3階の窓に夫がいて
両手を狂ったように振り、ふっと窓から消えた
その建物の階段に上がる途中でインド人水夫に止められた
警部と巡査を連れて入ると、醜い“いざり”とインド人水夫の2人だけ
子どもへのお土産の積み木と、夫の衣服が出てきた
窓には血がついている
このインド人水夫は札付きの悪人だ
いざりの本職は乞食だが、警察の取り締まりを避けるため
蝋マッチを売るふりをしていた
街角に毎日出かけて、帽子を置くと
またたく間にたくさんのもらいがあるのはビックリする
顔は酷いひきつれで唇がめくれあがっている
いざりは捕らえられたが証拠はないまま拘束されている
窓の下の水から夫の上着が出てきて
ポケットには1ペンス、半ペンスの銅貨がぎっしり詰まっていた
クレア氏を窓から突き落としたにしても誰も見ていない
アヘン窟で聞き込みをしても、彼に何が起きたか解決しない
こんなに厄介な事件は他に思い出せないよ
家に行くと夫人が迎えてくれ、今日夫から手紙が届いたと見せる
字は確かに夫に間違いない
手紙:
万事うまくいく
少したてば元通りにおさまるはずだ
辛抱して待っていてくれ
夫人は夫が生きていると確信する
ホームズ:女性の勘のほうが、分析的な推理家より貴重なことがある
その夜、ホームズは徹夜で推理を巡らせ
翌朝、早くにワトソンと馬車に乗り警察に行っていざりに会う
警官の言う通り、彼はひどく汚れていたため
ホームズはばかでかい入浴用スポンジでこすると
彼こそがネビル氏だと分かる
ネビル:
問題は妻ではなく、こんな父を持つ子どもたちです
なんという恥さらし!
ホームズ:
あなたが事情をよく説明して罪のないことを警察に納得してもらえば
この秘密が新聞に漏れる恐れはないでしょう
ネビル:
父は校長をしていて、私も立派な教育を受けました
役者として舞台にも立ちましたが、しまいにはロンドンで記者になりました
ある日、ロンドン市内で乞食をするという連載記事を任され
役者当時のメーキャップの腕前が役立ちました
シティの人通りの多い場所に座ると、7時間に26シリングもらいました
顔に顔料を塗り、帽子を置いて座っているだけで
1日に2ポンドにもなるのに
1週間で2ポンドの記者を続けるのがどんなに辛いか
私は苦しんだ挙句、記者の職を捨て
アヘン窟の主人の下宿で乞食姿に変わり
夕方にはロンドン紳士に変わる
1年に700ポンド稼ぎ、とうとうシティの名物男にまでなった
私は田舎に家を持ち、結婚したが
妻もどんな仕事か知らなかった
月曜に、部屋で着替えをしていると、窓の下に妻がいて
驚いて顔を隠し、水夫に誰が来ても上げるなと頼んだ
また乞食の変装をして、妻も見破れなかった
今朝、寝室で怪我した傷が開いて血がついた
上着にその日の儲けを入れて、窓から捨てた
逮捕され、妻が心配しているだろうと手紙を出してもらった
警部:警察に目をつむってもらいたければもう止めることだ
■シャーロック=ホームズを推理する 各務三郎 名探偵ホームズのモデル
●探偵小説のおこり
探偵小説を初めて書いたのはエドガー・アラン・ポー
『モルグ街の殺人』のオーギュスト・デュパンの名探偵ぶりはよく知られる
ポーは「探偵小説の父」と呼ばれる
アメリカ探偵作家クラブでは、毎年優れた探偵小説家にエドガー賞を授けている
時に「永遠の名探偵」と呼ばれるホームズは
世界で唯一の私立顧問探偵(明智小五郎は違うの?
ホームズが活躍したのは、イギリスのビクトリア女王時代(1837~1901)
「探偵小説など、犯人や謎が分かれば、二度も読めない」と言われるが
ホームズ物語は何度読んでも飽きない
現代の探偵小説は、サスペンス、犯罪、パズル(謎解き)、警察、スパイ、ハードボイルドに分かれるが
ホームズ物語はほぼすべての分野にわたる
原題は「〇〇の冒険」とあり、冒険小説ですが
英語のアドベンチャーは「珍しい、ワクワクする出来事」の意味もある
『Yの悲劇』
『ローマ帽の謎』
●ふたりのモデル
『すばらしいモデルたち』アービング・ウォーレス
『ロビンソン・クルーソー』のモデルはスコットランド出身の副船長
航海中にケンカして、太平洋の無人島に置き去りにされ
4年後に救出された
『ジキル博士とハイド氏』の原型は、イギリスに住むウィリアム・ブロディという
大工組合の長で、名士だが、夜には泥棒を働いていた
一流の外科医ジョゼフ・ベル博士:
たいていの人は目で見るだけで観察しない
立派な探偵なら、相手をひと目見るだけで
職業や経歴を見抜いてしまう
「まるでシャーロック・ホームズじゃないですか!」
ベル:私がそうなんですよ
コナン:
私は旧師ベルを思い浮かべ
あの人が探偵なら魅惑的だのにと思った
『わが思い出と冒険』
ドイル夫人は夫の死後:
シャーロック・ホームズはコナン・ドイルだった
時には警察が手をこまねく事件を解決した
フローベルは「ボバリー夫人は私である」と語った
●名コンビの誕生
コイル『わが思い出と冒険』より:
本人に功績を語らせるわけにはいかないから
引き立て役として平凡な仲間を必要とする
この人物には単調な名がよい
ポワロ探偵とヘースティングス
隅の老人と女記者ポリー
メースン弁護士と女秘書ストリート・・・といろいろあるが
ホームズとワトソンほどの名コンビはいないだろう
■作品解説
本書はドイルの第一短編集
発売から3年で売れたのはたった3万部
●ボヘミアの醜聞
ホームズが解決しそこなった唯一の事件
『盗まれた手紙』の影響を受けているのは間違いない
●赤毛連盟
ホームズ物語でもっとも有名な短編
●花むこ失踪事件
依頼人から話を聞くだけで真相を見抜く名探偵を
「アームチェア・ディテクテイィヴ(安楽椅子探偵)」と呼ぶ
●ボスコム谷の謎
被害者が死に際に手がかりを残すことを
探偵小説専門用語で「ダイイング・クルー」と呼ぶ
生きている者はウソをつくが、死にかけている者はウソをつかないと信じられている
しかし、ダイイングクルーに頼る探偵小説家は
謎づくりの才能が枯れ始める危険信号だとも言える
●五つぶのオレンジの種
ホームズはしばしば犯人を捕らえ損ねることがある
●唇のねじれた男
「乞食は3日やったらやめられない」という諺がある
ホームズ物語には、ビクトリア朝後期の物価が登場する