メランコリア

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海外SFミステリー傑作選 19 ひきさかれた過去 ヒュー・ペンティコースト/原作 国土社

2023-06-21 16:38:57 | 
1995年初版 内田庶/訳 渡辺安芸夫/装画・挿絵

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


【注意】
トリックもオチもネタバレがあります
極上のミステリーなので、ぜひ読んで犯人当てをしてみてください


このシリーズはほんとうにイラストがゆるいなw

当時のラジオドラマが生番組なのがビックリ

脚本家が台本を書き、オーケストラの生演奏を流して
声優たちが演じるって、今演ったら相当面白そう

でも、テレビもラジオもスポンサーが真実を捻じ曲げていることがよく分かる


【内容抜粋メモ】






●鉄鋼王クレイマー
「あすのニュース」社で社長ミルトンが会議を開き
昔、鉄鋼王と言われるほどの金持ちだったクレイマーが
アイスピックで頭を刺されて殺された事件についての話が出る

「あすのニュース」がスポンサーとなっているラジオ番組の
脚本を書いているビルたちは、その週起きた一番大きなニュースを
ドキュメントドラマにして放送している

クレイマーの死体第一発見者はビル
スペイン大統領について聞きに行くと
部屋には冷蔵庫が1つあるきり

中にはカクテルがたくさん冷やされていて
始終酒を飲んでいるぽいが、まったく酔ってる気配がないのをフシギに思う

クレイマー:
昨日のことを調べれば、明日のことは分かる
人間は昨日したことから逃げられるものではない

この言葉がやけにひっかかった


●殺人事件には触れるな




クレイマーは社の論説委員だったため、宣伝になるから
ビルはミルトン社長からクレイマーの功績について書くよう命令されるが
殺人事件については書くなと釘を打たれる

ビルを育てた恩人サンズ編集長に聞いても
なぜクレイマーがこの社の論説委員になったか
なにも仕事をしていないのに、高い給料をもらっているかは誰も知らない

資料室に目録があるから調べれば分かるし
ワシントン支局のブローから夜0時に情報を電話で話してもらうよう手配してくれる


●切り取られた資料
資料室の受付のジョーンはビルと仲良し

先に殺人課のパスカル警部が来ていて
クレイマーが殺されたのはビルが死体を見つけた5~10分前だという

ビルはクレイマーは自分が殺されるのを知っていたのではないかという推理を話す

1939年の資料のクレイマーの部分が切り取られている
ジョーンが調べると、ラジオ放送用に使われた





ラジオを制作しているのは、脚本家のビル、マネージャーのラニイ
音楽担当のルウ、監督のマックス みんな仲が良い

しかも、半年ほど前にクレイマー自身も持ち出している

同じ資料が社長室にもあるが、それも同じ部分が切り取られていた
そこには大物の写真があったはずと言うルウ

社長が自宅に私用として保管しているものがあるが
2時までに印刷所に回さなければならないため
先にサンズ編集長が借りることになる


●クレイマーの謎
パスカル警部がクレイマーのホテルに行くのに同行するビル

凶器のアイスピックはカクテルを運んだ出前係が忘れたもの
彼のアリバイはあるし、計画性がないため
咄嗟に近くにあったアイスピックで殺したと思われる

クレイマーは大富豪のはずなのに、家の中は何も家具がなく
引き出しに書類などもないし、所持金は314ドルだけで驚く


●悲鳴!
雑誌社に戻ったビルにジョーンから電話がある

社長宅から資料を持ってきて見たら、驚く写真があり
社に1人で持ち帰るのは怖いから、刑事を呼んでくれと頼む

だが、ブローからの電話がきて、ビルはサンズ編集長に代わる







その部屋を離れてすぐ悲鳴のような声が聞こえたが、構わず仕事をしていると
サンズ編集長が16階から落下死する事件が起きる


●ジョーンは?
パスカル警部に事情を話すと、ジョーンは電話をかけた薬局にいなかった

警部は公立図書館で調べて例の記事を読んだ
記事は第二次世界大戦でナチスドイツがポーランドに侵略を始めた時

クレイマーは列車を借りきって
アメリカ人を市外の安全な所に避難させることに成功

その時助かった1人は「あすのニュース」社の大株主クリーク
それで高い給料の理由が分かる

パスカル警部:
サンズが窓から突き落とされたのは
ジョーンが記事のことを話したからだ

ルウは非常線が張られる前に雲隠れした
彼はチェコスロバキア人で、チェコ人を救うために戦時中は大活躍した

パスカル警部はルウを犯人扱いしているが、信じられないビル

ジョーンの身も心配で仕事が手につかないが
なんとかチームの助けも借りて、謄写版係に回る


●ファイルをもどせ
ビルも公立図書館へ行って資料を見ようとすると、ルウに捕まる
ジョーンは無事だが、今夜の放送が終わるまで動かないで欲しいと脅される

ユナイテッド放送局では俳優がセリフ合わせをしている
ラニイが俳優になにか話してから本番が始まる








●筋が違う!
最後のポーランドのワルシャワ駅のシーンで
いきなり台本と違うセリフを喋りはじめる俳優たち

クレイマーが金で列車を貸し切ろうとして
それでは国外に避難する亡命者が皆殺しにされてしまうと止めようとする男

警官が来て、その男を取り押さえると、マックスだと分かる

放送は途中で中止され、監督のマックスはビルが勝手に書き換えたと思い銃で脅すが
ルウはパスカル警部らと来て、警部の一撃で銃を落とすマックス
ジョーンも助かった







資料の写真にはクリークが写っていたが
その背後に警官に連行されるマックスが写っていた

マックスはポーランドの生まれ
ワルシャワ大学で1人の女の子を好きになった

女の子と家族は、避難する人たちと一緒にワルシャワ駅に集まったが
クレイマーが列車を買いきったため、降ろされた

避難民らはドイツ軍に捕まり、強制収容所に送られ、毒ガスで殺された
マックスは収容所から出て、アメリカに渡り、クレイマーを探したが分からなかった

昨日の朝、社内で見つけて、クレイマーだと気づいた

クレイマー:やあ、マックス だいぶ時間がかかったね

と言われてカッとして殺してしまった
ジョーンの電話でサンズも知ったと分かり窓から突き落とした

ラニイらは放送直前に書き換えた台本を渡した

クレイマーは、当時のことを深く後悔し、その後、自分の全財産を
ヒトラーから逃れて国外に避難した人たちを助ける資金に寄付していた

社内でマックスを見て恐ろしくなり、資料を切り取ったのはクレイマーと思われる
それでも逃げずに、毎日酒を飲んで殺されるのを待っていた

ビル:みんないい人間だったのに、殺し殺され合うなんて、なんて悲劇だろう

ルウ:
戦争の急降下爆撃機の音、前線の体験をすれば
逃げ出すことしか考えられないのも分かる

ビル:戦争が生んだ悲劇だ

ジョーン:悲劇を繰りかえさないために、民主主義を壊すナチスみたいなものに反対しなきゃないない



解説 各務三郎
推理小説には、知識を増やしたり、認識を新たにする効果もある(ほんと、そうだね
本書には当時のアメリカの出版社、民間ラジオ放送局のことが興味深く描かれている

作者は登場人物を通じて、戦争を告発している

ヒュー・ペンティコースト
本名ジャドスン・ペンティコースト・フィリップス
1903年 アメリカ マサチューセッツ州生まれ

父はオペラ歌手、母は女優で、小さい頃から世界中を旅して回った

大学在学中から雑誌に短編ミステリを書いて
その後も長編100冊、短編は数百書いている

第二次世界大戦、祖国フランスの地下工作員の経験をもつ
ホテル支配人シャンブランものは有名

巨漢の赤ひげ画家ジェリコなどもあるが
あまり日本で紹介されていない


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