メランコリア

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ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

少年少女サスペンス冒険 10 さばくの冒険旅行 ジェームズ・マーシャル/著 学研

2023-08-15 17:18:59 | 
昭和51年初版 長谷川甲二/訳 岩井泰三/絵

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


サスペンス冒険のシリーズで「冒険」のほうの物語
推理の楽しみはない代わりに、けっこう本格的なサバイバルの話もとても面白くてワクワクする

絵を描いた岩井さんは、私の大好きな少年探偵団シリーズの人では?

白人の姉弟が墜落事故で砂漠をさまよい
オーストラリアの原住民と初めて遭遇して戸惑う

なぜ幼い姉弟だけで、飛行機に乗っていたのかは謎
突然の遭難から始まって、すぐに引き込まれる

子どもに植え付けられた白人至上主義が切ない
子ども同士なら、会ってすぐ分かりあえただろうけど
13歳という思春期が事をさらに微妙にしてしまっている

私たちにとってただの風邪が原住民にとっては命取りになるのも
植民地として占領した時代と同じ

呪術師から死を告げられると、どんなに健康体でも死んでしまうという
部族のカラダのフシギな仕組みも興味深い
まさに“病は気から”

オーストラリアにしか生息していないような動植物の数々も気になる
肉食動物はいないのかな?


【内容抜粋メモ】





●オーストラリアの砂漠
小型輸送機に乗り、アデレードに住むキース叔父のもとに向かっていたが
どこか故障して不時着し、操縦士も副操縦士も爆発に飲まれて死んでしまった





未知の大陸のど真ん中、スタート平原で迷子になった姉メリーと弟ピーター
メリーは弟を守るために叔父の家まで歩こうと励まし、とりあえず南へ向かう

森の中で“フクログマ”に遭遇

水と食べ物を求めて彷徨い、川を見つけて飛び込む
“トビハネアリ”が群がってきて噛まれる

丘をのぼると、遠くに塩湖が見える

ようやく“クアンドン”と呼ばれるモモの一種を見つけて、ひたすら食べる


●原住民の少年
メリーと同じ歳くらいの少年にばったり出会って、互いににらみあう

ピーターとメリーは一番進化した人類の産物だった
機械文明と科学の発達で、決まりきった白人の生活の中
消化剤入りの栄養食品で育てられ、テレビ、ラジオの娯楽を与えられる

原住民の生活は信じられないほどカンタンだ
家もなければ畑、服、財産もない

わずかな持ち物はみんなで分け合い
水場から水場へとさすらいを続ける

“ロックカンガルー”の赤ん坊を持った少年には、時間はあまり価値がなかった
初めて白人を見て、興味深く観察していると
ピーターがくしゃみを連発したため、大笑いする

ピーターもつられて笑って、すぐに打ち解けてしまうが
メリーは警戒心をゆるめなかった

少年が下流に歩き始めて、ピーターは慌てて後を追う


●クルーラ(ついてこい)
ピーターはイーマラ(食べる)、アクールーラ(水)という“黒ちゃん”の言葉を覚える
弟が少年にすっかり心を移してしまい、メリーは嫉妬する

少年は「クルーラ(ついてこい)」と言って、月のしずくの丘までくる
体の動きが鈍く、生きる術も知らない2人を
知恵の遅れた種族の死にぞこないじゃないかと疑う

火をおこし、ロックカンガルーを焼いて、3人で食べる
土の中にはヤマノイモがあることも教える






●下着のプレゼント
メリーは少年が裸なのがイヤで、宣教師がまだ神の恵みを授けられない可哀そうな人なのだから
自分が宣教師とならねばならないと思い、パンツを脱いで少年に履かせる

ピーターはレースの飾りのパンツを履いた少年を見て大笑いして
「おんなおとこ! エッチおとこ!」と言って、踊り出す

それを見て、下着は儀式の舞の衣装だと思った少年は
1人で敵味方の二役を演る戦闘(コンバット)の舞を真剣に踊ってみせる





パンツのゴムが切れて、メリーの目の中に恐怖の色が浮かんだのを見て
初めて、メリーがジン(娘)だと気づき
自分の中に死霊の幻を見たのだと思い込む


●ひとり歩きの試練
少年の種族の掟では、13か14歳になると、一人前になったことを証明する試練がある
砂漠の水場から水場を歩き、ゴールした者だけが結婚して生き延びることを許される

種族には死後の世界はない
避けられない死の運命を知って、また1人去ろうとするのをピーターが必死で引き留める

自分が死ねば、この2人も死ぬだろう
その前に安全な場所、地下水のわく谷間に連れて行こうと決める

少年は野ガンの雛を捕まえ、断層の中で野宿する






●死神の迎えを待つ
オーストラリア原住民は、頑丈でどんな暑さ、寒さにも耐えられるが
死ぬと思い込んだら、安らかに死ぬことだけを考え
自己暗示で死んでしまう傾向がある(驚

一流の医師陣が研究したところ、健康な原住民が
まじない師に死の呪いをかけられただけで
コロっと死んでしまうことが分かった


●風邪
ピーターは疲れ、急激な温度変化で風邪をひいた

少年は川に石を投げ入れて、驚いて浮かび上がる魚を捕まえる

途中で“コトドリ”の素晴らしいダンスを見る
少年はそのダンスを真似て踊り、2人は笑う





だが、少年は急にくしゃみを連発し、熱を出す
ピーターの風邪が回復するころ、少年に感染ったのだった

地下水のわく谷間はまだ5つ眠らないとたどり着けない

少年は夢遊病者のようにフラフラと歩いた
ピーターは心配するが、メリーは“ただの風邪だ”と軽くみる





ヤブシチメンチョウは卵を産みっぱなしで孵すことはないため
卵をとって、焼いて食べる

2人は自分の死体をとむらう方法を知っているだろうか
少年の種族は、働いている者の邪魔をしてはいけないルールがあるため
滝で泳いでいるメリーに聞こうとして、金髪に見とれていると

メリーが気づいて恐怖の目を見開くのを見て
とむらってもらえないと分かり、さらにガッカリして
“マッガウッド”の木陰の下に横たわる

マッガウッド:原住民にとって悲しみの木 失恋の象徴


●森の少年の死
少年は水を飲まず、食べ物も食べず、ピーターに絵を描いて
水と食べ物のある場所を教えると息絶える

メリーは黒い少年をくもりガラスを通して見ていたと気づく
2つに分かれていると思っていた世界は1つだった



●少年の魂に導かれて
2人は少年を葬り、教えてもらった道を歩き始める
少年の魂は草木に宿り、いつも2人と一緒だった





黒ずんだ水たまりをかき混ぜると、ザリガニがたくさん捕れる
この先のことを考えて余分に焼いて持つ

岩石地帯には、黄玉、月長石などが宝石のように輝く
それを越えると草原に蝶の大群が宝石のように美しく見える





丘を越えるとまた別の丘が現れる繰り返し


●エデンの園
とうとう2人は少年の言う“地下水のわく谷間”に着く

砂漠に8日、谷間に6日目が訪れる
アシの家をつくり、森林や沼などを探検し、あらゆる珍しい動植物を見る

“オーストラリアヅル”のダンス、猛烈に絡みついているジッカ、コアラの母子





白色粘土を濡らして、岩の上にいろんな絵を描く


●家の絵
湖の対岸で煙を見つけ、3回たちのぼる信号のよう
2人も同じように信号を送ると、黒人の親子がやってくる

犬が大好きなピーターは、彼らが連れてきた野犬ディンゴの子どもと夢中で遊ぶ
メリーは黒人の女の子と食べ物を交換する

父親はメリーの描いた家の絵を見て
丘をいくつか越えた所に同じ家があると教える





メリー:おお、ピーター! と泣き出す
ピーターはさようならと原住民に握手してから

ピーター:いこう、メリー クルーラ



あとがき
本書の原題は「Walkabout」
オーストラリアの原住民の少年が大人になる前に
ブッシュを1人で歩く試練の旅
をいう

心が疲れた時、テレビを見すぎた時などに思い出してじっくり読んでほしい1冊

オーストラリアの北中部地方には、草原と砂漠が広がる
「スタート砂漠」は、探検家チャールズ・スタートにちなんで名付けた

白の犠牲となる黒の哀れさを訴えている気がしてならない
黒人の裸を恐れて、少女があげた1枚の下着
ピーターの風邪

オーストラリアは、18C末の原住民は約30万人いたが、今は4万人ほど
白人が持ち込んだ「文明病」は最も恐ろしい敵だった
素朴な人々を根絶やしにする文明とはいったい何でしょう?

オーストラリア連邦政府は、原住民保護区を設けて
「男子にはズボン、女子にはシュミーズ」を与えたが
窮屈な生活が合わずに保護区を抜け出してしまう



ジェームズ・バンス・マーシャル
イギリス人
本書は映画化された 『美しき冒険旅行』
カンヌ映画祭で激賞された
少年役には、原住民のデヴィッド・ガンビリルくんが扮した
(この名前からして、原住民ぽくないな



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