昭和51年初版 長谷川甲二/訳 岩井泰三/絵
※「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します
サスペンス冒険のシリーズで「冒険」のほうの物語
推理の楽しみはない代わりに、けっこう本格的なサバイバルの話もとても面白くてワクワクする
絵を描いた岩井さんは、私の大好きな少年探偵団シリーズの人では?
白人の姉弟が墜落事故で砂漠をさまよい
オーストラリアの原住民と初めて遭遇して戸惑う
なぜ幼い姉弟だけで、飛行機に乗っていたのかは謎
突然の遭難から始まって、すぐに引き込まれる
子どもに植え付けられた白人至上主義が切ない
子ども同士なら、会ってすぐ分かりあえただろうけど
13歳という思春期が事をさらに微妙にしてしまっている
私たちにとってただの風邪が原住民にとっては命取りになるのも
植民地として占領した時代と同じ
呪術師から死を告げられると、どんなに健康体でも死んでしまうという
部族のカラダのフシギな仕組みも興味深い
まさに“病は気から”
オーストラリアにしか生息していないような動植物の数々も気になる
肉食動物はいないのかな?
【内容抜粋メモ】
●オーストラリアの砂漠
小型輸送機に乗り、アデレードに住むキース叔父のもとに向かっていたが
どこか故障して不時着し、操縦士も副操縦士も爆発に飲まれて死んでしまった
未知の大陸のど真ん中、スタート平原で迷子になった姉メリーと弟ピーター
メリーは弟を守るために叔父の家まで歩こうと励まし、とりあえず南へ向かう
森の中で“フクログマ”に遭遇
水と食べ物を求めて彷徨い、川を見つけて飛び込む
“トビハネアリ”が群がってきて噛まれる
丘をのぼると、遠くに塩湖が見える
ようやく“クアンドン”と呼ばれるモモの一種を見つけて、ひたすら食べる
●原住民の少年
メリーと同じ歳くらいの少年にばったり出会って、互いににらみあう
ピーターとメリーは一番進化した人類の産物だった
機械文明と科学の発達で、決まりきった白人の生活の中
消化剤入りの栄養食品で育てられ、テレビ、ラジオの娯楽を与えられる
原住民の生活は信じられないほどカンタンだ
家もなければ畑、服、財産もない
わずかな持ち物はみんなで分け合い
水場から水場へとさすらいを続ける
“ロックカンガルー”の赤ん坊を持った少年には、時間はあまり価値がなかった
初めて白人を見て、興味深く観察していると
ピーターがくしゃみを連発したため、大笑いする
ピーターもつられて笑って、すぐに打ち解けてしまうが
メリーは警戒心をゆるめなかった
少年が下流に歩き始めて、ピーターは慌てて後を追う
●クルーラ(ついてこい)
ピーターはイーマラ(食べる)、アクールーラ(水)という“黒ちゃん”の言葉を覚える
弟が少年にすっかり心を移してしまい、メリーは嫉妬する
少年は「クルーラ(ついてこい)」と言って、月のしずくの丘までくる
体の動きが鈍く、生きる術も知らない2人を
知恵の遅れた種族の死にぞこないじゃないかと疑う
火をおこし、ロックカンガルーを焼いて、3人で食べる
土の中にはヤマノイモがあることも教える
●下着のプレゼント
メリーは少年が裸なのがイヤで、宣教師がまだ神の恵みを授けられない可哀そうな人なのだから
自分が宣教師とならねばならないと思い、パンツを脱いで少年に履かせる
ピーターはレースの飾りのパンツを履いた少年を見て大笑いして
「おんなおとこ! エッチおとこ!」と言って、踊り出す
それを見て、下着は儀式の舞の衣装だと思った少年は
1人で敵味方の二役を演る戦闘(コンバット)の舞を真剣に踊ってみせる
パンツのゴムが切れて、メリーの目の中に恐怖の色が浮かんだのを見て
初めて、メリーがジン(娘)だと気づき
自分の中に死霊の幻を見たのだと思い込む
●ひとり歩きの試練
少年の種族の掟では、13か14歳になると、一人前になったことを証明する試練がある
砂漠の水場から水場を歩き、ゴールした者だけが結婚して生き延びることを許される
種族には死後の世界はない
避けられない死の運命を知って、また1人去ろうとするのをピーターが必死で引き留める
自分が死ねば、この2人も死ぬだろう
その前に安全な場所、地下水のわく谷間に連れて行こうと決める
少年は野ガンの雛を捕まえ、断層の中で野宿する
●死神の迎えを待つ
オーストラリア原住民は、頑丈でどんな暑さ、寒さにも耐えられるが
死ぬと思い込んだら、安らかに死ぬことだけを考え
自己暗示で死んでしまう傾向がある(驚
一流の医師陣が研究したところ、健康な原住民が
まじない師に死の呪いをかけられただけで
コロっと死んでしまうことが分かった
●風邪
ピーターは疲れ、急激な温度変化で風邪をひいた
少年は川に石を投げ入れて、驚いて浮かび上がる魚を捕まえる
途中で“コトドリ”の素晴らしいダンスを見る
少年はそのダンスを真似て踊り、2人は笑う
だが、少年は急にくしゃみを連発し、熱を出す
ピーターの風邪が回復するころ、少年に感染ったのだった
地下水のわく谷間はまだ5つ眠らないとたどり着けない
少年は夢遊病者のようにフラフラと歩いた
ピーターは心配するが、メリーは“ただの風邪だ”と軽くみる
ヤブシチメンチョウは卵を産みっぱなしで孵すことはないため
卵をとって、焼いて食べる
2人は自分の死体をとむらう方法を知っているだろうか
少年の種族は、働いている者の邪魔をしてはいけないルールがあるため
滝で泳いでいるメリーに聞こうとして、金髪に見とれていると
メリーが気づいて恐怖の目を見開くのを見て
とむらってもらえないと分かり、さらにガッカリして
“マッガウッド”の木陰の下に横たわる
マッガウッド:原住民にとって悲しみの木 失恋の象徴
●森の少年の死
少年は水を飲まず、食べ物も食べず、ピーターに絵を描いて
水と食べ物のある場所を教えると息絶える
メリーは黒い少年をくもりガラスを通して見ていたと気づく
2つに分かれていると思っていた世界は1つだった
●少年の魂に導かれて
2人は少年を葬り、教えてもらった道を歩き始める
少年の魂は草木に宿り、いつも2人と一緒だった
黒ずんだ水たまりをかき混ぜると、ザリガニがたくさん捕れる
この先のことを考えて余分に焼いて持つ
岩石地帯には、黄玉、月長石などが宝石のように輝く
それを越えると草原に蝶の大群が宝石のように美しく見える
丘を越えるとまた別の丘が現れる繰り返し
●エデンの園
とうとう2人は少年の言う“地下水のわく谷間”に着く
砂漠に8日、谷間に6日目が訪れる
アシの家をつくり、森林や沼などを探検し、あらゆる珍しい動植物を見る
“オーストラリアヅル”のダンス、猛烈に絡みついているジッカ、コアラの母子
白色粘土を濡らして、岩の上にいろんな絵を描く
●家の絵
湖の対岸で煙を見つけ、3回たちのぼる信号のよう
2人も同じように信号を送ると、黒人の親子がやってくる
犬が大好きなピーターは、彼らが連れてきた野犬ディンゴの子どもと夢中で遊ぶ
メリーは黒人の女の子と食べ物を交換する
父親はメリーの描いた家の絵を見て
丘をいくつか越えた所に同じ家があると教える
メリー:おお、ピーター! と泣き出す
ピーターはさようならと原住民に握手してから
ピーター:いこう、メリー クルーラ
■あとがき
本書の原題は「Walkabout」
オーストラリアの原住民の少年が大人になる前に
ブッシュを1人で歩く試練の旅をいう
心が疲れた時、テレビを見すぎた時などに思い出してじっくり読んでほしい1冊
オーストラリアの北中部地方には、草原と砂漠が広がる
「スタート砂漠」は、探検家チャールズ・スタートにちなんで名付けた
白の犠牲となる黒の哀れさを訴えている気がしてならない
黒人の裸を恐れて、少女があげた1枚の下着
ピーターの風邪
オーストラリアは、18C末の原住民は約30万人いたが、今は4万人ほど
白人が持ち込んだ「文明病」は最も恐ろしい敵だった
素朴な人々を根絶やしにする文明とはいったい何でしょう?
オーストラリア連邦政府は、原住民保護区を設けて
「男子にはズボン、女子にはシュミーズ」を与えたが
窮屈な生活が合わずに保護区を抜け出してしまう
ジェームズ・バンス・マーシャル
イギリス人
本書は映画化された 『美しき冒険旅行』
カンヌ映画祭で激賞された
少年役には、原住民のデヴィッド・ガンビリルくんが扮した
(この名前からして、原住民ぽくないな
※「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します
サスペンス冒険のシリーズで「冒険」のほうの物語
推理の楽しみはない代わりに、けっこう本格的なサバイバルの話もとても面白くてワクワクする
絵を描いた岩井さんは、私の大好きな少年探偵団シリーズの人では?
白人の姉弟が墜落事故で砂漠をさまよい
オーストラリアの原住民と初めて遭遇して戸惑う
なぜ幼い姉弟だけで、飛行機に乗っていたのかは謎
突然の遭難から始まって、すぐに引き込まれる
子どもに植え付けられた白人至上主義が切ない
子ども同士なら、会ってすぐ分かりあえただろうけど
13歳という思春期が事をさらに微妙にしてしまっている
私たちにとってただの風邪が原住民にとっては命取りになるのも
植民地として占領した時代と同じ
呪術師から死を告げられると、どんなに健康体でも死んでしまうという
部族のカラダのフシギな仕組みも興味深い
まさに“病は気から”
オーストラリアにしか生息していないような動植物の数々も気になる
肉食動物はいないのかな?
【内容抜粋メモ】
●オーストラリアの砂漠
小型輸送機に乗り、アデレードに住むキース叔父のもとに向かっていたが
どこか故障して不時着し、操縦士も副操縦士も爆発に飲まれて死んでしまった
未知の大陸のど真ん中、スタート平原で迷子になった姉メリーと弟ピーター
メリーは弟を守るために叔父の家まで歩こうと励まし、とりあえず南へ向かう
森の中で“フクログマ”に遭遇
水と食べ物を求めて彷徨い、川を見つけて飛び込む
“トビハネアリ”が群がってきて噛まれる
丘をのぼると、遠くに塩湖が見える
ようやく“クアンドン”と呼ばれるモモの一種を見つけて、ひたすら食べる
●原住民の少年
メリーと同じ歳くらいの少年にばったり出会って、互いににらみあう
ピーターとメリーは一番進化した人類の産物だった
機械文明と科学の発達で、決まりきった白人の生活の中
消化剤入りの栄養食品で育てられ、テレビ、ラジオの娯楽を与えられる
原住民の生活は信じられないほどカンタンだ
家もなければ畑、服、財産もない
わずかな持ち物はみんなで分け合い
水場から水場へとさすらいを続ける
“ロックカンガルー”の赤ん坊を持った少年には、時間はあまり価値がなかった
初めて白人を見て、興味深く観察していると
ピーターがくしゃみを連発したため、大笑いする
ピーターもつられて笑って、すぐに打ち解けてしまうが
メリーは警戒心をゆるめなかった
少年が下流に歩き始めて、ピーターは慌てて後を追う
●クルーラ(ついてこい)
ピーターはイーマラ(食べる)、アクールーラ(水)という“黒ちゃん”の言葉を覚える
弟が少年にすっかり心を移してしまい、メリーは嫉妬する
少年は「クルーラ(ついてこい)」と言って、月のしずくの丘までくる
体の動きが鈍く、生きる術も知らない2人を
知恵の遅れた種族の死にぞこないじゃないかと疑う
火をおこし、ロックカンガルーを焼いて、3人で食べる
土の中にはヤマノイモがあることも教える
●下着のプレゼント
メリーは少年が裸なのがイヤで、宣教師がまだ神の恵みを授けられない可哀そうな人なのだから
自分が宣教師とならねばならないと思い、パンツを脱いで少年に履かせる
ピーターはレースの飾りのパンツを履いた少年を見て大笑いして
「おんなおとこ! エッチおとこ!」と言って、踊り出す
それを見て、下着は儀式の舞の衣装だと思った少年は
1人で敵味方の二役を演る戦闘(コンバット)の舞を真剣に踊ってみせる
パンツのゴムが切れて、メリーの目の中に恐怖の色が浮かんだのを見て
初めて、メリーがジン(娘)だと気づき
自分の中に死霊の幻を見たのだと思い込む
●ひとり歩きの試練
少年の種族の掟では、13か14歳になると、一人前になったことを証明する試練がある
砂漠の水場から水場を歩き、ゴールした者だけが結婚して生き延びることを許される
種族には死後の世界はない
避けられない死の運命を知って、また1人去ろうとするのをピーターが必死で引き留める
自分が死ねば、この2人も死ぬだろう
その前に安全な場所、地下水のわく谷間に連れて行こうと決める
少年は野ガンの雛を捕まえ、断層の中で野宿する
●死神の迎えを待つ
オーストラリア原住民は、頑丈でどんな暑さ、寒さにも耐えられるが
死ぬと思い込んだら、安らかに死ぬことだけを考え
自己暗示で死んでしまう傾向がある(驚
一流の医師陣が研究したところ、健康な原住民が
まじない師に死の呪いをかけられただけで
コロっと死んでしまうことが分かった
●風邪
ピーターは疲れ、急激な温度変化で風邪をひいた
少年は川に石を投げ入れて、驚いて浮かび上がる魚を捕まえる
途中で“コトドリ”の素晴らしいダンスを見る
少年はそのダンスを真似て踊り、2人は笑う
だが、少年は急にくしゃみを連発し、熱を出す
ピーターの風邪が回復するころ、少年に感染ったのだった
地下水のわく谷間はまだ5つ眠らないとたどり着けない
少年は夢遊病者のようにフラフラと歩いた
ピーターは心配するが、メリーは“ただの風邪だ”と軽くみる
ヤブシチメンチョウは卵を産みっぱなしで孵すことはないため
卵をとって、焼いて食べる
2人は自分の死体をとむらう方法を知っているだろうか
少年の種族は、働いている者の邪魔をしてはいけないルールがあるため
滝で泳いでいるメリーに聞こうとして、金髪に見とれていると
メリーが気づいて恐怖の目を見開くのを見て
とむらってもらえないと分かり、さらにガッカリして
“マッガウッド”の木陰の下に横たわる
マッガウッド:原住民にとって悲しみの木 失恋の象徴
●森の少年の死
少年は水を飲まず、食べ物も食べず、ピーターに絵を描いて
水と食べ物のある場所を教えると息絶える
メリーは黒い少年をくもりガラスを通して見ていたと気づく
2つに分かれていると思っていた世界は1つだった
●少年の魂に導かれて
2人は少年を葬り、教えてもらった道を歩き始める
少年の魂は草木に宿り、いつも2人と一緒だった
黒ずんだ水たまりをかき混ぜると、ザリガニがたくさん捕れる
この先のことを考えて余分に焼いて持つ
岩石地帯には、黄玉、月長石などが宝石のように輝く
それを越えると草原に蝶の大群が宝石のように美しく見える
丘を越えるとまた別の丘が現れる繰り返し
●エデンの園
とうとう2人は少年の言う“地下水のわく谷間”に着く
砂漠に8日、谷間に6日目が訪れる
アシの家をつくり、森林や沼などを探検し、あらゆる珍しい動植物を見る
“オーストラリアヅル”のダンス、猛烈に絡みついているジッカ、コアラの母子
白色粘土を濡らして、岩の上にいろんな絵を描く
●家の絵
湖の対岸で煙を見つけ、3回たちのぼる信号のよう
2人も同じように信号を送ると、黒人の親子がやってくる
犬が大好きなピーターは、彼らが連れてきた野犬ディンゴの子どもと夢中で遊ぶ
メリーは黒人の女の子と食べ物を交換する
父親はメリーの描いた家の絵を見て
丘をいくつか越えた所に同じ家があると教える
メリー:おお、ピーター! と泣き出す
ピーターはさようならと原住民に握手してから
ピーター:いこう、メリー クルーラ
■あとがき
本書の原題は「Walkabout」
オーストラリアの原住民の少年が大人になる前に
ブッシュを1人で歩く試練の旅をいう
心が疲れた時、テレビを見すぎた時などに思い出してじっくり読んでほしい1冊
オーストラリアの北中部地方には、草原と砂漠が広がる
「スタート砂漠」は、探検家チャールズ・スタートにちなんで名付けた
白の犠牲となる黒の哀れさを訴えている気がしてならない
黒人の裸を恐れて、少女があげた1枚の下着
ピーターの風邪
オーストラリアは、18C末の原住民は約30万人いたが、今は4万人ほど
白人が持ち込んだ「文明病」は最も恐ろしい敵だった
素朴な人々を根絶やしにする文明とはいったい何でしょう?
オーストラリア連邦政府は、原住民保護区を設けて
「男子にはズボン、女子にはシュミーズ」を与えたが
窮屈な生活が合わずに保護区を抜け出してしまう
ジェームズ・バンス・マーシャル
イギリス人
本書は映画化された 『美しき冒険旅行』
カンヌ映画祭で激賞された
少年役には、原住民のデヴィッド・ガンビリルくんが扮した
(この名前からして、原住民ぽくないな