メランコリア

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ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

少年少女世界推理文学全集 No.10 学園の名探偵 ヒルトン著 あかね書房

2023-06-24 10:13:18 | 
1985年 第35刷 高橋豊/訳 駒埼晶子/絵

「ジュヴェナイルまとめ」カテゴリー内に追加します


【注意】
トリックもオチもネタバレがあります
極上のミステリーなので、ぜひ読んで犯人当てをしてみてください


「スパイの秘密」と「学園の名探偵」の2作
これまで読んだ推理小説とは違った「スパイ小説」というジャンルらしい

戦争中のスパイの話は短編をつなげた感じ
とても陰鬱な空気が漂い、読後の後味が悪くて
すぐに2つ目の話に移ったほど

著者の体験に基づいていると聞いて納得
平和な時代、平和な国に生まれて本当にありがたいなあとしみじみ思う

それにしてもこの全集で使われているイラストレーターは独特だな


【内容抜粋メモ】

スパイの秘密
第一次世界大戦の最中、イギリスの作家アシェンデンはR大佐から
数か国語を話せて、作家は煙幕になるという理由で
スパイにうってつけだと言われて協力することにした

スイスのジュネーブに行き、1か月が過ぎた
当時、ドイツ側はインドに駐留するイギリス軍を釘付けにするため
内乱を起こそうとして地下活動をしていた

スイスで国際スパイ活動をすると最低2年は刑務所に入れられるため
さとられないように細心の注意を配る

週に2度、指令を受けに行く
早朝に市場に行き、百姓のおばあさんからバターを買い
おつりをもらう際、手紙を受け取る

彼女は息子が西部戦線で戦っているため危険な任務を引き受けた
大きな胸の下に手紙を隠して国境を越えてくる!

ジュネーブはウイーンとともに、スパイの都!
あらゆる国のスパイが活動している

アシェンデンはミス・キングと呼ばれる老女と知り合いになろうとするが嫌われる
彼女はエジプトのアリ殿下の2人の王女の世話をする英国婦人

ミス・キングが急病でアシェンデンに会いたいと言っていると呼ばれて驚く
なにか重要な情報を伝えようとしているが体がきかず涙を流す

「トルコが・・・」とひと言言って亡くなる
その3日後、トルコはロシアに宣戦布告し、イギリスに攻撃を開始した



アシェンデンはルーティンに退屈し、スパイと思われるヒギンス男爵令嬢と交際していると
R大佐から注意され、アシェンデンの行動もまた監視されていることに気づく

チャンドラー・ラールというインド独立党員の幹部は
各地で爆弾事件や暴動を起こし、国外に逃れた

亡き妻に似たイタリア女性ジュリア・ラザリーナという踊り子に書いたラブレターを使い
スイスの国境を越えてフランス領におびきだし、射殺する計画

スパイ容疑で刑務所にいたジュリアは大佐に脅されて自供書を書かされたと話す
チャンドラー宛てに会いに来てくれと手紙を書かせられる

ホテルに1人で自由にさせておくと
諜報部員フェリックスの報告で逃げ出そうと試みたことが分かる

チャンドラーからフランス領に行くのは自殺行為に等しいからムリだと返事が来る
ジュリアはこれは罠だから来るなと手紙を渡そうとして、それもバレる

2人の刑事に囲まれ、手紙を書かなければ、また刑務所に送ると脅す
会いに来れないなら、パリへ行くという手紙を仕方なく書く

チャンドラーはついに国境を越えるが
罠に気づいて、用意していた青酸カリを飲んで自死

ジュリアにチャンドラーの死を伝え、希望していたスペインの切符を渡すと
チャンドラーにプレゼントした腕時計を返して欲しいと言う



R大佐はグスターフの報告書を見習うようにと読ませる
彼はドイツの情勢を暗号の手紙で妻に送り
妻はアシェンデンに渡し、中から重要と思われるものを本部に知らせる流れ

そのグスターフの仕事ぶりを監視する仕事
連合国軍、同盟軍、両方に適当な情報を送り、金をもらっている疑いがある

それを見逃す代わりに、スイスにいるドイツ側のスパイのイギリス人
グラント・ケイパーについて知らせたら2000フラン支払うと持ちかける

ケイパーは植物学者で、ほぼ毎日歩き回っているという噂
妻はドイツ人でイギリス人を心底憎んでいる様子

ケイパーは戦争前からドイツ情報部の仕事をしていて
最近は、ドイツで活動する連合国側のスパイを暴いていたため
R大佐お気に入りの若いスペイン人が銃殺され、暗号も解読された

ケイパーが金をもらえばイギリス側につくかどうか調べるのが
アシェンデンの任務

ケイパーの自慢のスコッチテリアを褒めて近づき
ドイツ語の個人教授を探していると言って、夫人に頼む

ケイパーは新しい商売を始めるという理由でベルンに行ったが
本当はフォン・M少佐と会っていた

最近、ケイパーが仕事をしないので注意し
イギリスに行って情報を探るよう指示した

ケイパーはアシェンデンが検閲局に勤めていると聞いて
仕事を紹介して欲しいと頼む

その後、ケイパーからの手紙が届かないので
郵便局員に問い詰める夫人

愛犬が長く物悲しい遠吠えをしたため
ケイパーの運命を知ってよろめきながら出て行く



アシェンデンは、横浜から敦賀を経由して(!)
ウラジオストクからシベリア鉄道でペテログラードに向かう

イギリス領事館の通訳ベネディクトは
アメリカ人のハリントンという商事会社の男が一緒だと伝える

10日間の旅の間、潔癖症のハリントンはトイレでの身支度を忘れず
下着、シャツも着替えるほど

ロシアはケレンンスキー政権が危うく、大飢饉になることも分かっていた
戦前チェコからアメリカに亡命した神学者オルト博士に通訳を頼む

ハリントンの通訳には、以前婚約したことのある女性を紹介した
アナスターシャ・アレクサンドローウブナの一家は
毎朝いりたまごを食べると分かり結婚を諦めたw

1917年 大暴動が起こり、内閣の大臣は捕らえられ
レーニンとトロツキーが政権をとった

暴動軍の死刑名簿にアナスターシャの名も入っていると逃げてくる
逆にハリントンはようやく契約がとれたと喜び
そんな契約は無効だと聞いて驚く

今すぐ列車に乗らないと帰国できなくなるという事態なのに
ホテルのボーイに洗濯を預けたシャツを取り返すと言って聞かない

町中に戦車が来て、いきなり機関銃を撃った
アナスターシャと見に行くと、ハリントンは
シャツを大事に持ったまま死体となっていた



学園の名探偵
コーリン・レベルは、母校オーキントンのローズビア校長から手紙を受け取る
今は作家のレベルが以前小さな事件を解決したことを思い出し協力して欲しいとのこと

ウィルブウラム・マーシャルの弟ロバートが
寄宿舎のベッド上にあるガス灯が落ちてきて頭に命中して死んだ

マーシャル兄弟の叔父で舎監のエリントンが見回った時は何も異常はなかった

兄弟の後見人グラーム大佐が荷物をまとめて欲しいと言われて見ると
事件の夜に遺書っぽい手紙を遺していたことが分かった

学校の名誉を守るために警察沙汰にはしたくないが
しばらく泊まって監視してもらいたいという依頼

美しく、優しいエリントンの妻ロザムンドと親しくなるレベル
日曜のお説教をするダガット牧師の口ぐせは「神のおぼしめし」

ランボーンは戦争で毒ガスにやられてから砲弾恐怖症になった
校長は医学博士で、なかなかのしたたかものだと話す

校長は急に今回は偶然の悲劇的事故だったと意見をかえたため
レベルもロンドンに帰る

半年後、今度は兄のウィルブウラムが水のないプールに飛び込んで
死体で発見された記事を読む

飛び込み台の上に彼の腕時計が置かれていた
プールの電灯はなぜかヒューズが切れていた

さすがに事件性を感じて、再び校長を訪ねて、調べるレベル
兄弟が死んで多額の遺産をもらうのはエリントン

ウィルブウラムの遺体を見せてもらうと包帯に巻かれて顔が分からない
レベル:これは絶対、殺人事件だ!

事件当夜、エリントンを見かけたと話すランボーン
エリントンは間もなくアフリカで農業経営する計画

ロバートのベッドの上は中二階の古い病室で
はめ板を外せばガス灯に工作することが可能と分かる

そこにガスリー刑事がきて、ウィルブウラムの後頭部に
ピストルの弾丸を見つけたと話す

後見人が事件を疑い警察に捜査を依頼した
レベルも内部で調査して欲しいと頼む

校長に改めて話を聞くと、ロザムンドは夫がロバートを殺したのではないかと怯えていることから
レベルを呼び、遺書をでっち上げた

その後、エリントンのピストルがなくなったことが判明
校長は自殺説を推すが捜査に協力することにする

ガスリーが尋問する間、隣りの部屋で聞くよう言われる
エリントンの話が校長と同じであることに不審を抱く
クリケットのバットも紛失していた

ランボーンはプールにいたのを見られていた
その夜、プールに行って死体を見つけたことを明かす

エリントンが犯人だと思い、クリケットのバットに血をつけて隠した
ランボーンは神経衰弱で気絶して、ロザムンドが介抱する

ランボーンはそのまま死体で発見される

ロザムンドはランボーンがエリントンを殺すつもりで
間違えてロバートを殺したと告白したと話す

死体の解剖で睡眠薬を飲みすぎて心臓麻痺を起こしたと推定される

ランボーンの兄ジョフリーがレベルを訪ね
ランボーンの財産をロザムンドに遺していたと話す

弟は自殺するような人間ではないとほのめかし
レベルはランボーンの告白はロザムンドをかばうためのウソだと気づく

真犯人について書いた手紙を出すところだとロザムンドに話すと
お喋りが長引いて、集める時間が過ぎる

その後、部屋で小説を書いていたレベルは銃で狙われる
ガスリーの助けで、ロザムンドが犯人だと分かる

ロバートの事件は事故だったが
それをきっかけに兄弟の財産を手に入れようと計画したロザムンドは
夫を犯人にしたてた

好意を寄せていたランボーンに睡眠薬を盛ったのもロザムンド

ジョフリーは兄ではなくガスリーの部下ターナー



作者と作品について 高橋豊

サマーセット・モーム「アシェンデン」
生まれはフランス 作品はすべて英語
ゴーギャンの一生について書いた『月と6ペンス』ほか
自分をモデルにした小説も書いた
本書もモームが第一次世界大戦でイギリス情報部に勤めていた経験を土台にしている


ジェームズ・ヒルトン 「学園の名探偵」
イギリスの作家 1900年生まれ
『チップス先生、さようなら』で流行作家となった(!
長編推理小説は本書の1編のみ



読書の手びき 滑川道夫

「スパイ小説」
スパイ:
軍事探偵、秘密諜報機関支配下で活動する部員のこと
敵の情勢をいちはやく味方に通報して
戦争を有利に導くことが大事な任務

第二次世界大戦の様相はさらに深刻化
第二次世界大戦を扱ったエリック・アンブラー、エセル・ヴァンス、
ヘレンマキーンズなどのスパイ小説が生まれる源泉となった

推理小説を面白く読むには、どこまで読んだ時に犯人を発見したか、という点にも関わる


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