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朧月夜

2008年06月21日 | 1
 
 先日、梅雨の合間に熊本市の河内町にある某加工所を訪問してきました。その場所は熊本市の名峰・金峰山の峠の下。のどかな山間の集落の中にあります。メンバーの乙女達は、梅ゼリーの製造に大忙し。ゴルフボールくらいの大きな梅を袋に入れ、上からゼリーを流しこんで袋を閉じて行きます。「食べてみらんね」と梅を二個、ゴロンと湯飲みに入れてくれる。梅が大きすぎではと心配してしまうけど、その迫力が“売り”で、ジューシーな果肉が口一杯に広がり迫力満点、味も満点、モグモグ何も喋れません、ほんとに。

 実はこの乙女達、今秋発売予定の秘密商品をうちと共同開発(あえて大げさに)中。その打ち合わせと別商品の仕入れに伺ったのです。帰りに裏山の「柚子」の畑を案内してもらいました。花が終わったあとの柚子の実はまだ濃い緑色。いろいろ聞けば、いろいろ教えてくれる。本当に嬉しそう。何年もかけ、自分たちで一途に育て上げてきた木の1本1本は宝の木なんでしょう。今年はウラの年であまり数がとれないそうで、ちょっと心配ではあります。

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 ラジオで聞いた話。(NHK…)瀬戸内海に浮かぶ豊島(としま)でレモンを有機栽培しているAさんがスタジオに。豊島は一時期、産業廃棄物の不法投棄で全国的に有名になった島。ゴミを捨てているわけではないとゴミの不法投棄を続けた会社。それを取り締まれなかった無策無能の行政の二人三脚で島も海も汚されてしまった。今ようやく島の再生が計られている中、Aさんは大阪からUターンして農業を始められたそうです。それまでは大阪で会社に勤め、いつか故郷に帰りたいと思っていたらしい。もちろん家族は大反対。今のところ地元の旧友の力を借りながら、一人で作業をしているとのこと。

 産廃の島で、一から農業…これは相当危険なカケでは?と聞くアナウンサーに淡々と答えるAさん。「都会で体調を悪くし、やはり自然の中で暮らすのが一番いい」と。

 「ところでリクエストは何にしますか?」
 「“おぼろ月夜”をお願いします。」
 「意外な選曲ですね。」
 「私は団塊の世代で、良くフォークソングを聞いてました。でも今はね、俺がどうの君がどうの、愛が恋がとかいう歌はもういいんです。」

 ラジオに流れる“おぼろ月夜”…。

 曲が終わるとAさんは泣いていた。

 アナウンサーももらい泣き。Aさんも10年前、まさかこんなことを自分がするなんて思ってもいなかったろう。それが何故か今、ふるさとの畑を耕しレモンを作る。作業の手を止め汗を拭き、春の野原に咲く菜の花を眺めた時、Aさんの耳の奥に聞こえてきたのが“おぼろ月夜”だったのかもしれない。

 でも私は、泣けはしなかった。アナウンサーのもらい泣きも少し興ざめ。Aさんの思い、涙はAさんだけのもの。大地に立ち、毎日毎日、一人でレモンの木の手入れを続けるAさんだけのものだろう。

 しかし、あらためて思う。昔の歌はいいなぁ。 
曲が流れてなくても、歌詞を読み想像すると私にも”歌”が聞こえてくる。

金峰山の柚子の実も、しっかり実りますように…。


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 ■朧(おぼろ)月夜

 菜の花畑に入日薄れ
 見わたす山の端 霞深し
 春風そよふく空を見れば
 夕月かかりてにおい淡し

 里わの火影も森の色も
 田中の小路をたどる人も
 蛙のなくねもかねの音も
 さながら霞める朧月夜


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