11

11

生態系

2019年03月19日 | Weblog

前回は極私的路上観察学会などと調子に乗り、江津湖の湖畔をうろつき、時に、這いつくばりカメラを構える怪しい男を演じて、意気揚々と事務所に帰還し、デザイナー兼用務員のイワサキ君に、USBを渡したのだが、パソコンで開いてみるに、鼻息、フンッ!と掃き出し「こりゃ、ダメですね、使えません」と言う。まさかあの「ラーメン屋に行きたくて、出かけたんじゃないでしょうね」とまで言いやがった。彼は例年頼まれる環境系のNPOの冊子の編集、デザインを一人でやっているのだ。「この写真がどこが悪い。湖畔の自然の風景ではないか」と反論すると「これらは外来性植物、要するに、セイタカアワダチソウと同じですよ、いくらきれいでも、日本古来の植生を侵す、エイリアンのようなものですからね。単なる、ホテイ草、アマゾン血止め草、熱帯魚の水槽からはみ出て、湖で繁殖して、日本の河川の生態系のバランスを崩している、水草の群れなんです。この写真を環境NPOが認めるわけないじゃないですかっ。」焦りながらも、マウスを動かす手を止めずに答える。「それとこれは、なんですか?」「そりゃぁ、江津湖の三段の滝じゃい」「三段?」「そうだ。路上観察学では、人工三段の滝とわしが名付けた。」「路上観察学会?」「本日より、熊本支部の活動開始じゃ」「もう、いいですから、表紙の写真は後でなんとかします」イワサキ君のテーブルの横にはラーメンの鉢が置いたままになっている。NPOから、すでに締め切りが過ぎているのに、原稿が送ってこないのだ。いつものように。

仕方がないので2階に上がる。我が事務所は古びた二階建ての事務所で、二階は大家さんに内緒で、不法に使用させてもらっている。大家さんとは、もう5年近く会ったことはない。もちろん、家賃は定期的に振り込んでいるのだが、1階分だけ。そもそも大家さんはこの事務所のカギを無くしていた。「いつも遅くまで仕事してもらい、灯りが点いているので、防犯にもいいと近所にも喜んでもらっている」と玄関先で会うと、話してくれていたのだが。今、その二階には僕の机と、配送係りの徳永さんの机がある。ドアを開けると、徳永さんが「コカインが何ですかね」といきなり話かける。「そう、コカインくらい、なんてこたぁなか」「そぎゃんです。エリッククラプトンの歌にコカインって歌もありますけんね」「ビデオにコカインを巻いたたばこに火をつけギターの先に差して歌っているものがあり、カッコいいですもんね」「コカインやろうが、やりまいが、いいものができればよかです」徳永さんと二人で、2階はコカイン容認の議論で盛り上がる。徳永さんは65歳過ぎた、おばちゃんで、クラプトン大好きのパート女史なのだが、私と徳永さん二人の存在がわが社のコカインのようなもので、1階の常識軍団には煙たがれている存在なのだ。

しかし、テレビを見てみろ。芸人、学者どものペラペラの良識の生態系が、ペラペラ妄言をはいてやがる。


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。