治療院を始めたばかりの頃なのでだいぶ昔になってしまうが、印象深い治療だったので思い出しながら書いてみます。
肘が曲がって伸びないという婦人、半年か1年かかっただろうか、鍼をし灸をし、マッサージをしたりしてそれでも真っ直ぐにはならなかったと思う。でも、来院した当初に比べるとかなり伸びた。
「先生、近いうちに連れてきますので、娘を診ていただけませんか。」とおっしゃる。てっきり娘さんも肘や腕が痛むのかなと思っていたら、膵臓炎であった。
腰痛できた患者は腰痛の患者を紹介することが多いが、運動器系はよく紹介される。肘の治療に来ていた患者が慢性膵炎の患者を紹介することは珍しいと思う。
「10年前から、慢性膵炎と言われ、1ヶ月に1度腹痛と下痢に襲われ数日続きます。薬は痛み止めだけで飲んでも痛みは止まりません。このままでいいのかと疑問がわきます。今回も昨日から腹痛と下痢が続いています。」
病院では、慢性膵炎の治療は痛み止めの薬による治療だけで、根本治療はないようである。現在30歳のこの女性は、20歳の頃から膵炎が始まり、油っこいものは食べられず、いつ痛み出すかと思いながらの日常だという。
慢性膵炎の治療は、腎経の治療が主になるのだがその頃はそういう治療はせずに、腹部に圧痛点や特効穴を探して、鍼をし灸をした。
翌日来院「腹痛のほうはいかがですか。」「少しいいような気がしますがまだ痛みます。でも、下痢が1回で止まりました。これだけでもずいぶん楽です。」
三日続けて治療して、腹痛も治まった。
仕事に復帰して、週1回の治療を続けた。1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月を過ぎても痛みは出なかった。もう治ったのかなとも思ったが、本人がまた痛み出すと怖いので、週1回の治療は続けたいということで、お灸だけの治療を続けた。
「先生、お酒を少し飲んでもいいでしょうか。」慢性膵炎はお酒飲みの女性が多いということを聞いたことがある。
「飲み過ぎなきゃいいんじゃないですか。」
しばらくして、「先生、実は数日前にエビフライを食べたんですけど、なんともありませんでした。」と嬉しそうに報告する。以前はちょっと脂っこいものを口にしただけで腹痛が始まり苦しんだのだそうで、油のものはほとんど口にしていなかったらしい。
結局3年ほど治療に通い、その間に離婚、再婚とあり、再婚相手とともに大阪に引っ越すことになったという。
「先生、大阪の生活は心配していませんが、先生のところが遠くなるのが心配です。」と・・
「もう3年間腹痛も下痢もないんですから完治したものと思いますよ。それに。関西は関東よりも鍼灸が盛んですから心配はいりませんよ。」と答えて、治療を終了した。
その後、治療院も今の自宅に移ったりしてお会いすることもないが、元気で大阪で暮らしていることだろうと思います。
鎌田はりきゅう整骨院