side by side:湘南夫婦のあしあと

二人が好きな地元湘南、スポーツ観戦、旅行、食べ歩き,音楽・美術鑑賞など、日々のあれこれを綴ります

ヒポクラテスの悲嘆 中山七里 (2428)

2024年07月07日 | 書籍・雑誌

*****ご注意!一部ネタバレの可能性があります!*****


法医学室の助教授 栂野真琴と埼玉県警古手川を中心に死体の声を聞くヒポクラテスシリーズ

本作は「8050」問題等言われる、引き籠りの子供を抱える老親家庭に起きた死亡事故の短編集
「7040」「8050」「8070」「9060」「6030」が短編の題
7040は70代の親と40代の子供、8070は唯一夫婦で老々介護問題が背景にある

当事者の一方、あるいは双方が老い先を心配し、事態を改善・解決しようとするのだが、良い解決策があるはずもなく、次第に追い詰められていく
誰もが迎える「老後」がテーマだけに、全体を覆う暗く・無力感を感じる雰囲気がやるせない

途中から最後のどんでん返しがなんとなく読めてしまったのは残念だった

2024年3月20日 初版第一刷発行
初出 月刊「小説NON」2019年11月号~2020年8月号
装丁 高柳雅人
装画 遠藤拓人

俺たちの箱根駅伝 池井戸潤 上・下(2427)

2024年06月29日 | 書籍・雑誌

*****ご注意!一部ネタバレの可能性があります!*****


半沢直樹シリーズの池井戸潤さんは「陸王」という陸上シューズに挑戦したメーカーを題材にした作品も書いていて、既にテレビドラマ化されている

今度の舞台は正月の人気スポーツ箱根駅伝
10月に行われる予選会で本戦の出場権を得られなかった大学から選出された選手で構成される学連選抜にスポットを当てた物語

上下巻あり
上巻は予選会敗退から学連選抜チームが箱根本番を迎えるまでの日々
下巻は箱根駅伝の往路・復路を各区間毎に丁寧に描く
レースの様子は沿道のスポットなども描かれていて、箱根駅伝好きは脳内にレースが展開できることだろう。
手に汗握る展開でもあり、ぐいぐい読ませてくれる

一方で改めて学連選抜ってどうなの?と問われている様にも感じた
特に上巻で展開された学連選抜の不要論、参加するだけのチームと軽視する論調
本作品では、学連選抜の甲斐監督の緻密かつ冷静な采配と各ランナーが意地とプライドをみせる走りで学連選抜の存在感を印象つけるストーリーだが、現実となると本作品のように各区間、特に5,6区のエキスパートがいないとなかなか難しいと思う。

また甲斐監督も元来分析力が優れているとはいえ新監督就任という事情が学連選抜に注力できたのだから、自分のチームを持っている監督に甲斐監督のような対応を求めるのは現実的でないと思う。

つまり、学連選抜って多くの箱根駅伝を目指す大学生ランナーにチャンスを与えるという理念は素晴らしいけど、チームを作ったところで満足してしまって、運用・運営にまで力が及んでいない。
参加するだけ、走るだけなら、「学連選抜チームの代わりに本戦出場校の枠をひとつ増やした方がマシ」と言った作中の監督の言い分も一理あると思う。

学連選抜専任の監督・スタッフを準備するわけにもいかず、、、
なんとも難問だなぁと思った

2024年4月25日第一刷発行
初出 週刊文春 2021年11月11日号から2023年6月15日号
装幀 岩瀬聡
装画 田地川じゅん


産業医・渋谷雅治の事件カルテ 梶永正史 (2426)

2024年06月24日 | 書籍・雑誌

*****ご注意!一部ネタバレの可能性があります!*****


精神科医の渋谷雅治は産業医として電気設備製造の大手MEIと契約した
MEIは「先手を打つ産業医」として、積極的に社員の悩み事・相談事に応じる渋谷の姿勢を評価していた。

そんな中、営業部の長田が電車に飛び込み自殺した
渋谷は再発防止策を検討するため、長田の行動を確認していく。
すると、残業や担当業務の負荷が多くなかったことを確認した会社側は遺族に見舞金を払い早々に幕を閉じようとしていることに違和感を感じる

何故長田はさがみ野駅にいたのか?
残業記録はないのに連日帰宅が遅いのか?
探していた「白木文書」とは何で自殺と関係あるのか?
首を突っ込みすぎて、産業医の契約を解除されてもなお、渋谷は真実を突き止めずにいられず、パンドラの箱を見つけて出してしまう。

自殺の背景には、過去の隠蔽があり、テーマとしては池井戸潤の七つの会議を想起させる
事故発生の確立の前に躊躇する役員達をみると、安全への責任とは何なんだろうと思う


八月の御所グラウンド 万城目学 (2425)

2024年06月15日 | 書籍・雑誌

*****ご注意!一部ネタバレの可能性があります!*****


2023年下期直木賞受賞作品
表題作のほか、高校駅伝を題材にした「十二月都大路上下(カケ)ル」も収録されている
いずれも舞台は作者の出身、京都大学がある京都

語り手の大学生朽木は友人の多聞に夏休みに草野球に誘われる
最初は渋々参加した草野球大会だが、徐々にのめり込んでいく
特に試合を成立させるために、9人の人数揃えに腐心する。
朽木のチームはグラウンド横で観ていたエーちゃんとその仲間を助っ人に勝利を重ねていく。
一方でエーちゃんが何者か気になり、調べていくと過去の野球人と重なることに気づく

京都らしく、歴史・史実を背景に、もしかしたら過去の人とニアミスを起こしているかも、と想像してしまうほのぼのファンタジー

2023年8月10日第一刷発行
初出 「オール読物」2022年5月号、2023年6月号
装画 石居麻耶
装丁 池田デザイン室

罪の年輪 ラストライン6(岩倉剛シリーズ) 堂場瞬一 (2424)

2024年06月05日 | 書籍・雑誌

*****ご注意!一部ネタバレの可能性があります!*****


驚異の記憶力を持つ「ガンさん」こと岩倉剛シリーズ
ガンさんの定年までの10年間をカウントダウンするシリーズだったが、公務員の定年延長が作品にも反映された。

「ガンさん」も定年延長となり、捜査一課復帰への声がかかる
捜査一課の刺激的な日々に魅力を感じるも居心地の良い立川署を去ることに後ろ髪を引かれる気持ちを否定できない。

そんな中起こった事件は87歳になる施設入居者の遺体が発見された。
被害者は元小学校教師で退職後は自宅で無償の塾を開いていた人物で、今は車椅子が必要だが、施設を抜け出して被害にあった。
その後87歳の男性が自主してきたが、二人60年以上前の砂川事件 に接点があるものの殺人の動機が明確にならない。

好きな街として立川在住を続けていた被害者と加害者にあった別の接点を見つけ出していく。
施設を抜け出す被害者の邪心というか、弱味というか、
犯罪はもとより「人に言えない趣味」は早くに決別しないと老いて・亡くなってから判明するのは遺族にとって辛い事実をつきつける罪なことだと思う。

最近の堂場瞬一作品は退職年齢を気にする作品や記述が多いと思う。
作者も年齢を重ねて新たに(別の側面の)見えるものがでてきたのかな。


ラウリ・クースクを探して 宮内悠介 (2423)

2024年06月01日 | 書籍・雑誌

*****ご注意!一部ネタバレの可能性があります!*****


2023年下半期の直木賞候補にノミネートされた作品

舞台はソ連から独立前のエストニア。
プログラミングに魅せられた少年ラウリがライバル、ロシア人のイヴァンと出会い進学先ではカーテャにも出会い、プログラミング技術を高め、友人関係も充実した学生生活を送っていた。
ラウリの将来はモスクワの大学に進みプログラミング技術を極めること。
しかしソ連からの独立へと進む時代の流れに3人の人生も違う方向へと進んでしまう。

プログラミングで繋がった3人の青春の一コマが瑞々しく描かれているし、その後の時代に翻弄される様は「小説あるある」だけど、結末への導き方と描き方が秀逸で清々しい読後感

コンピューター数が限られた時代から独立後に幼児教育にプログラミング授業を取り入れたり、有事に備えてIt国家を作っていくエストニアの国としての背景も語られている。
物理的に領土は奪われても、国民の情報があれば「国家は失われない」という考えはウクライナ戦争があったこともあり、大国に接したり領土問題を抱える国の切迫感を感じるし、日本も他山の石とするべきだと思った


絡新婦の糸 警視庁サイバー犯罪対策課 中山七里 (2422)

2024年05月26日 | 書籍・雑誌

*****ご注意!一部ネタバレの可能性があります!*****


中山七里の新シリーズになるのかな?
新設されたサイバー犯罪対策課の延藤(えんどう)が主人公

SNSのインフルエンサーの書き込みで”バズる”事例に当惑する事例から始まる。その様子をみていた延藤はインフルエンサー「市民調査室」に不穏な部分を感じていた。
「市民調査室」の書き込みで銀行融資を断られた老舗旅館の夫婦が自殺したことで、延藤は「市民調査室」とその囃し立てフォロワーの個人特定と逮捕を視野に捜査を開始
フォロワーに事情聴取を開始後、延藤の画像とフェイクニュースが晒されるという「市民調査室」の反撃に遭う

ネットの世界、SNSの世界の危険や恐怖を感じさせられる題材だった。
インフルエンサーに信奉してしまうフォロワーの心理も、個人的には理解できないが、そうなのかとは思う。

自分が晒され、誹謗中傷に合った際、自分自身より家族への攻撃が一番堪えると思う。
その場合の対処や寿退社した同僚の「SNS断ち・ネット断ちしてテレビを見る」とはなんとも皮肉な方策だな、と思った。

捜査情報を悪用し、SNSフォロワーの意を操り、更に警察官を晒すとはどんな難敵かと思いきや、、、
小者にもネットでは大きな事ができるのか、ネットだから大事の判断ができなくなるのか、

絡新婦は「じょろうぐも」と読む
本来は女郎蜘蛛と表記されますが、漢字を当てた熟字訓
美女に姿を変えて男(人)を誘惑する妖怪名
承認欲求が満たされるなどSNSにはまる姿はまさに絡新婦に誘惑される姿なのかも。


2023年11月30日発行
初出 小説新潮 2022年7月号~2023年4月号
挿画 神田ゆみこ





ラストヴォイス 楯岡絵麻シリーズ 佐藤青南 (2421)

2024年05月20日 | 書籍・雑誌

*****ご注意!一部ネタバレの可能性があります!*****


通常では分からない、人の細微なマイクロジェスチャーを読み取る楯岡絵麻が主人公の行動心理捜査官シリーズ
タイトル「ラストヴォイス」や帯「最後の敵」にシリーズ最後かなと思いながら読んだ

相棒の西野の婚約者宅が放火された場面で終わった前作
絵麻は獄中の死刑囚楠木ゆりかが事件の背後にいると判断、同僚の筒井ともに連絡役を割り出そうとしていた矢先、筒井の娘、さらに筒井が襲われる

獄中の楠木と絵麻と対決・・・
なのだが、人の根深い恨み、悪に魅せられる人などが入り混じる。
登場人物もやや多く、その点でもシリーズの区切りを感じさせられた。



令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法 新川帆立 (2420)

2024年05月14日 | 書籍・雑誌

*****ご注意!一部ネタバレの可能性があります!*****


”れいわ”と読める架空の6つの時代の架空の法律に絡んだSF短編集
どれも、現代の流れが行き過ぎると起こりそうな感じがするし、ブラックな部分が痛快な作品集でした。
以下ネタバレになりますが。

第1話 動物裁判は動物に「命権」を認めた時代
動物ユーチューバーが命権を争う裁判を人間が裁くのだが、原告の飼い主、被告の飼い主、そして弁護士の「動物愛護」を謳う背後にある本心は・・・

第2話 自家醸造の女 は 禁酒法下、各家庭で酒造りが行われている時代
結婚した主人公はどうしても美味しいお酒が作れなず、下だとみていた同級生に頼んで分けてもらった酒を自作と嘘を言って義実家に持って行く。
こんなことが続くわけがないのだが。

第3話 バーチャル世界で作られた私が、バーチャル外で起こった闘争で存在が危うくなっていく。

第4話 労働者保護法が制定された時代、会社は社員の健康管理をしなくてはいけない時代で、一日中立ち仕事の社員に、健康のため歩けと指示をする

第5話 最後のYUKICHI 現金が廃止されて時代に現金を持っている(闇で商売をしている)人をYUKICHIハンターが捜しだそうとする

第6話 接待麻雀士 認知症予防に賭けマージャンが合法化された時代。
接待で相手をわざと勝たせて気持ち良くさせる接待麻雀士が主人公

インタビューで作者新川帆立さんが、東野圭吾の〇笑小説の影響を受けていると語っていた。
〇笑シリーズか、懐かしい
怪笑小説、毒笑小説、黒笑小説、歪笑小説、と4作あってどれもブラックが効いていて小気味よかった記憶があります。


2023年1月30日第一刷り発行
初出 小説すばる (2021年9月号~2022年10月号)
装丁 川名潤
ソフトカバー

SRO neo1 新世界 富樫倫太郎 (2419)

2024年05月08日 | 書籍・雑誌

*****ご注意!一部ネタバレの可能性があります!*****


事件は解決したものの、SROメンバーそれぞれに問題が残って終わった前作

その後 やはり個性派刑事が終結して事件にあたるSM班シリーズが続いてSROは終わったのかな、、、と思っていました。

SROの新作は登場人物は多くがこれまでのSROと同じだが、SRO室の体制が大きく変わった。
前室長の腐れ仲間 夏目がSROの新メンバーになった
空気を読まないマイペースの夏目だが、未解決事件の身元不明の遺体に血を抜かれているという共通項をみつけ、本作では見事解決に導く

夏目が解決した、本作の主事件は、既に老齢に入った元女優。
映画に復帰したい、再び賞賛を浴びたいと願う元女優は若さを維持するため若い女性の血に目をつける。
家出少女らをマッチングアプリで物色・調達する執事とともに、一線を越えたからか狂ってしまっていた。

並行して、SROの宿敵殺人鬼近藤房子とともに行動していた麻友のその後や、元SROメンバー沙織が教祖の第三夫人となった宗教団体の不穏な動き、針谷や尾形のプライバシーが絡む問題など、伏線が張り巡らされた作品だった。

気になるのが、新しく室長となった芝原麗子
存在感が薄くなってしまって、夏目の毒気に取り込まれてしまいそう。

これからの構想はすでにできている感じがしたので、次作は左程時間が空かずに書店に並ぶかな、と期待

2024年1月25日初版発行
書下ろし作品