side by side:湘南夫婦のあしあと

二人が好きな地元湘南、スポーツ観戦、旅行、食べ歩き,音楽・美術鑑賞など、日々のあれこれを綴ります

ヒルビリー・エレジー J.D.ヴァンス (2440)

2024年10月24日 | 書籍・雑誌


間も無く選挙を迎えるアメリカ大統領選
共和党の副大統領候補 JDヴァンスの自生伝

本作の出版は2016年と少し前(ヴァンスが政治家になる前)
米国の白人労働者層(=貧困層)が多く住むラストベルト(錆びた一帯)で産まれ育った著者が急速な工業化で集まった白人労働者達が産業の衰退とともに街も人も貧困に取りこまれて身動きできない生活実態を著者の経験から語る

離婚を繰り返し薬物中毒にもなった母と父と呼べる人の不在という家庭環境ではあったが、祖父母や姉の支援もあり、その環境から抜け出し大学進学、弁護士となり、自分の故郷を外からみるようになる。
大学進学費用を得るため海兵隊に入隊したことで、著者は自分の育ってきた世界とは違う世界が存在することを身をもって知り、イェール大ロースクールでは社会的資本(いわゆるコネ)の大切さを知る

出版時は起業投資家だったけど、上院議員となり、今夏には副大統領候補に指名という生き様は、まだアメリカンドリームはある、ということを思い出させてくれた人物

ラストベルトに取り残された白人貧困層の実態・問題点を出身者だからこそ愛情をもって語ったうえ、安易な解決策は提示していないことにも好感

祖父母の時代は民主党支持者だった
しかし最近(オバマ以降)の民主党はエリート出身者がエリートの環境で物事を判断していると評価し、その結果トランプ支持者を生んでいるようだ。

間もなくアメリカ大統領選


失敗の科学 マシュー・サイド (2439)

2024年10月15日 | 書籍・雑誌

*****ご注意!一部ネタバレの可能性があります*****


初版が2016年
”一度は読んでおきたい良書”との評価も納得の内容でした。
副題に失敗から学習する組織、学習できない組織とあったけど、個人の成長にも当てはまると思う

序盤に「ミスの報告を非難せず改善へ利用する航空業界」の例がでていて、年初の羽田空港の事故を思い出した。
あの時は「誰の判断ミス」だったのかを糾弾しようとするマスコミや世論に「誰が悪い」の犯人捜しではなく「システムの何が悪かった」のかの検証をすべき、とSNSでの発信を見かけたことを思い出す。

「失敗から学ぶ」ことの重要さ、難しさ、が語られている
失敗を認めることの大変さには意識をもって向き合わなければと思った。

アメリカの犯罪に走りそうな若者に、囚人と対話させ(恐怖で)犯罪を思いとどまらせるプログラム
若者に効果がないのに何年も続けられていた例は背筋が凍る思いだった。
プログラムの良効果があったとの回答はアンケートに答えた人の回答が反映されたもので、返答をしなかった人がプログラムをどう評価したか検証していない
アンケートに嘘の回答の可能性も考慮していない

良い結果に満足してしまい視野が狭くなってしまい、結果重要な事実を見落としたり見えなくなってしまう。

小さな失敗を繰り返すことから進化・解決していく話も説得力があった
トライ&エラーの積み上げていくことの大切さを忘れてはならない

 

クスノキの女神 東野圭吾(2438)

2024年10月08日 | 書籍・雑誌

*****ご注意!一部ネタバレの可能性があります*****


2020年のクスノキの番人の続編
前作は感想にも書いたが、血縁や家(系・業)を継ぐことを大いに意識させられた作品だったと記憶している
舞台が箱根だった、とはすっかり忘れていたが・・・

本作は、最近の時事ネタを連想させる舞台設定だった
パパ活やネットで高額に売れるレア商品の盗難、老いと認知症、余命宣告を受けた少年など
ストーリー展開や結びつきは流石東野作品と思わせた。

クスノキで家族が心の内を知ることで進展するということは、実際には思いの行き違いがいかに多いか、ということだろう

本作の準主役、病状の母を抱える少女、不治の病の少年が絵本に語らせ、認知症に怯える玲斗の叔母が朗読した終盤のメッセージ
「未来を知ることより、今生きていることを感謝することが大事(意訳)」

未来を見せてくれる女神を探していた少年が女神に見せてもらった〇年後の自分はやっぱり女神を探していた、という絵本のストーリーだった

本作の終り方が切なかったが、東野作品らしい終わり方だなと思った

2024年6月5日初版第1刷り
2024年6月10日初版第2刷り

「おーいクスノキ(前編)The Forward vol.1 (2021年10月)~
「今日の僕から明日の僕へ(第4回)The Forward Vol.6 (2023年2月)
の6作品をもとに加筆、長編としてまとめた作品

装丁 菊池祐
装画 千海博美



この嘘がばれないうちに 川口俊和 オーディオブック(2437)

2024年09月29日 | 書籍・雑誌
*****ご注意!一部ネタバレの可能性があります!!*****



前作の全編に通じて感じられた温かさが心地よく、続編を手にした
今回もオーディオブックで
舞台は同じ喫茶店「フニクリフニクラ」の7年後
店側の登場人物は同じ、前作で余命少なかったケイが亡くなり、当時お腹にいた娘ミキが7歳になるところ

今回も4つのストーリーからなる
親友に会いたい
自分を応援してくれていた母に会いたい
元恋人に会いたい
妻に会いたい

今回も心染入るエピソードが続く
全編を通じて、「残された者は亡くなった人のためにも幸せな人生を送るべき」というメッセージ
きっと悲しみの余り「自分は幸せになってはいけない、生きていてはいけない」という思考に入ってしまう人が多いのだと思う

第1作の「コーヒーが冷めないうちに」は不定期ながら今も舞台興行も行われています。
好評な本シリーズは続編が何冊かでています。



コーヒーが冷めないうちに 川口俊和 オーディオブック(2436)

2024年09月23日 | 書籍・雑誌

*****ご注意!一部ネタバレの可能性があります!*****


地下にあるその喫茶店「フニクリフニクラ」は夏でもヒンヤリしている
過去に戻れるという都市伝説が雑誌で紹介されて一時人が殺到したが、色々なルールに面倒くささを感じたか今は落ち着いている

そんな喫茶店で、過去に戻りたいと願った3人と未来に行きたいとした1人のエピソード
過去に行っても、未来に行っても現実は何も変わらないというルールだが、それぞれの心持が変わり次の一歩へと進んでいく
誰も傷つかない心温まる作品

オーディオブックで聴いていて、登場人物のやりとりが舞台向きだな、と思っていたら、作者は脚本家でもあり、本作は最初舞台で演じられていた
2017年本屋大賞ノミネート
2018年実写映画化(主演有村架純)



まいまいつぶろ 村木嵐 (2435)

2024年09月17日 | 書籍・雑誌

*****ご注意!一部ネタバレの可能性があります!*****


170回(2023年後期)直木賞にノミネートされた作品(直木賞は河崎秋子「ともぐい」)

徳川第9代将軍家重は生まれつき重い障害をもっていて、半身を上手く使えず、舌が回らず家重の言葉を理解する者はなく、8代吉宗の長男であったにもかかわらず廃嫡が噂されていた。

家重の運命を変えた14歳の時の忠光との出会いから将軍になり、嫡子家治に10代将軍を譲り渡すまでの歴史小説

まいまいつぶろとはカタツムリのこと
長時間の謁見時には頻尿故に失禁をしてしまう家重の歩いた後には尿を引きずった跡が残る姿を蔑んで読んでいた

肉体的には障害を持っていたが、家重は聡明で心優しく人の傷みへの思いやりの深かったことが描かれている
生涯通詞に徹した忠光・侍女に家重の子を産むよう遺言した正室比宮など家重は周囲の人には恵まれていた

本作は家重と忠光の主従を超えた信頼関係が描かれていると思う。
忠光は家重に難が及ばぬよう、家重の「口」になることのみに徹し、家重は忠光が恨まれないようと余計なことを語らなかった
最後の忠光が下城を決意する場面は二人の信頼関係と互いを思いやり心に、こんな人間関係を築ければ理想だな、と思わせた

とはいえ、エピローグでは家重・忠光の息子二人の会話で、それぞれの家族が寂しい思いをしていたことも語られ、家重・忠光の関係の犠牲になった者がいることにも触れている。

家重と比宮との印象的な場面で、家重が育てたバラ園でyesなら一度、Noなら2度手を握る(触れる)約束をつくるくだりで、急に過去のNHK大河ドラマを思い出した
「徳川吉宗(主演西田敏行)」で、家重役は中村梅雀、今も記憶に残る名演技だったと思う
そして、最近では大奥の三浦透子の家重も好評

本作の続編(スピンオフ作品?)まいまいつぶろ御庭番耳目抄は隠密万里のエピソードでこちらも面白そう


ゲームの名は誘拐 東野圭吾 (2434)

2024年09月10日 | 書籍・雑誌

*****ご注意!一部ネタバレの可能性があります!*****


東野圭吾 2000年~2002年雑誌掲載、2005年に文庫化された作品
2002年に実写映画化(主演藤木直人)、今年10月にWOWWOW連続ドラマ(主演亀梨和也)が予定されている

敏腕広告プランナー佐久間は、大手クライアントの副社長葛城にプロジェクトから外されてしまう
プライドを傷つけられた佐久間は葛城邸から家出してきた樹里と遭遇し、狂言誘拐で葛城から三億円をだまし取ろうと画策し、見事成功
しかし、帰宅したはずの樹里が行方不明後遺体で発見された
報道された樹里の写真は佐久間が行動を共にした樹里ではなかった

序盤から、佐久間と葛城の騙しあいだと想像し、樹里が佐久間の協力者の振りをした葛城への内通者なのも明白だった。
ただ理由は、マンネリ化のみえる佐久間への刺激?あるいは佐久間の実力試し?かと思っていた

頭の良い人、スリリングな展開が好きな人の気持ちは一生分からないな、と最後に思った作品


地面師 森功 (2433) オーディオブック

2024年09月05日 | 書籍・雑誌

*****ご注意!一部ネタバレの可能性があります!*****


話題の綾野剛主演のNetflix「地面師たち」が大いに気になっています。
だからというわけではないのですが、オーディオブックで聴いた本書

積水ハウスが55億円以上をだまし取られた五反田の地面師事件を中心に類似事件、地面師事件のカラクリ、背景、立件解明の難しさを調べ上げたノンフィクション作品

著者を含め記者は取材でギリギリのところまで行くようだが、被害が発生しないと通報も叶わないし、被害が明るみになった時点で被害金は霧散しているという

騙される被害者はデベロッパーや不動産屋の「プロ」。
振り返るとせかされたり売主に会えなかったりと不自然なこともあったそうだが、儲け話になる物件を”絶対”手に入れたいという気持ちに付け込まれてしまうようだ。
地面師たちは証明書類の偽造屋やなりすまし役のスカウトを抱えているという
「良心」など夢の単語の世界だ

一般人には直接的には無縁の詐欺事件ではあるが、被害額が巡り巡って消費者の負担に転嫁されているだろう。
マイナンバーの導入による本人確認の厳格化は歓迎すべき点
「所有権が移転されたのでは?」との忠告で事件が発覚することもあるとの記述に複雑な思いも感じた
相続の上手くいかない土地は危ないなと思った



休養学 片野秀樹 (2432)

2024年09月01日 | 書籍・雑誌

*****ご注意!一部ネタバレの可能性があります*****


疲れをとるなら、「何もせず寝る」だけでは、十分な疲労回復にはならない。
最近耳にするアクティブレストに通じるお話
著者は「活力を得る」休養を説いている

読みやすい文章ながら、既に「疲れ」「休養」をキーワードに目にしている事項が多く真新しさはなかった。

個人的には
  • レム睡眠時、首から下の体が動かない状態になること
  • レム睡眠時に何らかの影響で意識が戻り体を動かそうとしても動かない状態が「金縛り」
を知ったことが収穫

著者 片野秀樹氏はリカバリーウエアという新分野を世に送り出した「ベネクス(VENEX)」創業者の一人
兄貴もパジャマとして利用しています。
久しぶりにサイトをみたら、商品が随分増えていました。



限界ニュータウン 吉川祐介 (2431)

2024年08月19日 | 書籍・雑誌

*****ご注意!一部ネタバレの可能性があります!*****


著者はYoutubeでも「限界ニュータウン探訪記」を配信している

自分の住まい探しをしていた著者は、千葉県北東部に1970-80年代に投機目的で開発された分譲地があり、「限界ニュータウン」と命名して実態を紹介している。

土地神話に踊らされて開発されたエリアは、交通利便性が悪く、投機目的だったため生活インフラへの配慮も少ない。
更地のまま放置されていて荒れ地化しており、分譲エリアの共同設備は劣化、開発・販売会社はとうに倒産し、管理不全の状態になっている箇所も多い
持ち主が不明な土地も多く、相続で売りに出されても買い手がつかないエリアになっているらしい。

無計画な土地開発の末路ではあるが、そこに今も生活をしている人がいるので、行政の関与度合が難しいところ。
荒れ地に不法投棄の事件もニュースで見聞きする

購入者の多くが鬼籍に入り売り物件としてでてきている昨今、(千葉南部では)複数の区画を購入している人もいる話も耳にするようになった。
人口の減少、過疎地の行政関与、荒れ地問題など、見て見ぬふりはできない問題だと思う