「手前ぇ!何しに来やがったっ!」
怒声にたじろぎもせず、腰までもある長い黒髪をたなびせながら店の中に入ってきた。
「行き成り怒鳴り付けるとは何時まで経っても野蛮な男です」
溜息を吐きながら眼鏡を指で押し上げると、
何事も無かった様に、大きな声を上げた男が食事をしているテーブルに近づき対面の椅子に腰掛けた。
「何勝手に座ってんだよ。手前ぇの顔を見ながらじゃ飯が不味くならぁ」
食事の手を休め、コップの水を飲み干すと追い払うように手を振った。
「貴方に味の良し悪しが判るとは思えませんがね。すいません、私にも水を一杯頂けますでしょうか」
やれやれと呆れた顔で首を振ると給仕の運んできた水に口をつける。
「用が無ぇならとっとと出てけ!俺ぁ未だ食事の最中なんだぞ!」
出入り口を指差すと、不味い不味いと呟きながら食事を再開した。
「用件は他でもありません貴方に『国』から仕事の依頼です」
「『国』からだとぉ、」瞬間食事の手が止まるが何事も無かった様に食べ続ける。
「王国北部の山間にあるファーエンの村まで行って、多発する行方不明事件を調査して貰います」
「そんな事、手前ぇん所の誰かにでもやらせれば、、、おいっ、今ファーエンの村って、」
食事の手が完全に止まる。
「そうです。近衛騎士団の有する最速の軍馬でも山まで三日、山越えに更に一日、
王立魔術アカデミーの術者が箒で飛んだとしても二日は掛かります。ですが貴方なら、」
「あぁ、俺なら一日で行ける」相手を睨み付ける様にして言う。
「今朝一番に届いた報告書によるとファーエンの村が要請を送ったのが一週間前になります。
その時点で行方不明者は十人を数えます。引き受けて頂けますね」
「ちっ、おばちゃぁん、『あれ』頼まぁ」舌打ちをすると、厨房にいる女主人の方を向かずに声を張る。
あいよ、との声がして沢山の大皿に料理を乗せて持ってくるとテーブルが埋まる。
「無補給で一日だ、食い溜めさせて貰うぜ、食事代が前金代わりで構わねぇな」
「構いませんよ」と、まるでこうなる事が分かっていたかの様に即答する。
返事を待たずして凄まじい勢いで料理が胃袋に消えていく。
会話をしていた時間よりも短い時間で食事を終えると勢い良く店の外へ駆け出していった。
店は街の南北を横切る通りに面した場所にあった。
朝食を終えたばかりの時間では石畳に舗装された道にも馬車は殆ど走ってはいない。
店から男が飛び出すとぶつかりそうになってよろける者も含め、やれやれと近隣の住人は溜息を吐く。
人通りの疎らな道を北へ向かって一直線に走りながら首に掛けていたゴーグルを装着する。
「ジェットっ、聞いてたな、ファーエンの村までの最短予想進路を出しな」
ゴーグルのグラスに地図が映し出され現在地と目標地が表示される。
全速で走る男の後方から漆黒の箒が風を鳴らし速度を上げ追い抜こうとしている。
箒が男に追い付き今にも抜かさんとするその時、
男は右手を伸ばし箒の柄から飛び出るハンドルを握り、下から潜り抜ける様にして飛び乗った。
箒に跨り腰のベルトで体を固定するとぐんぐんと上昇して行く。
『良いんですかぁ、メテオの旦那ぁ。カレンさんの依頼は金輪際受けないって、この間、、、』
装着したゴーグルからメテオにだけ聞こえる様に音声が発せられる。
「うるせぇ!良いからとっとと目的地まで全速力出しやがれっ!」と箒の柄を叩く。
『了解、了解。それではファーエンの村まで快適な空の旅を満喫下さい』
男を乗せた箒は上昇を続け王城で最も高い塔の更に何倍もの高さを飛ぶ。
メテオの決して快適とは言えない一日が始まった。
『ブルームライダー』第一話
「人食い蜘蛛に捕らわれた愛」
怒声にたじろぎもせず、腰までもある長い黒髪をたなびせながら店の中に入ってきた。
「行き成り怒鳴り付けるとは何時まで経っても野蛮な男です」
溜息を吐きながら眼鏡を指で押し上げると、
何事も無かった様に、大きな声を上げた男が食事をしているテーブルに近づき対面の椅子に腰掛けた。
「何勝手に座ってんだよ。手前ぇの顔を見ながらじゃ飯が不味くならぁ」
食事の手を休め、コップの水を飲み干すと追い払うように手を振った。
「貴方に味の良し悪しが判るとは思えませんがね。すいません、私にも水を一杯頂けますでしょうか」
やれやれと呆れた顔で首を振ると給仕の運んできた水に口をつける。
「用が無ぇならとっとと出てけ!俺ぁ未だ食事の最中なんだぞ!」
出入り口を指差すと、不味い不味いと呟きながら食事を再開した。
「用件は他でもありません貴方に『国』から仕事の依頼です」
「『国』からだとぉ、」瞬間食事の手が止まるが何事も無かった様に食べ続ける。
「王国北部の山間にあるファーエンの村まで行って、多発する行方不明事件を調査して貰います」
「そんな事、手前ぇん所の誰かにでもやらせれば、、、おいっ、今ファーエンの村って、」
食事の手が完全に止まる。
「そうです。近衛騎士団の有する最速の軍馬でも山まで三日、山越えに更に一日、
王立魔術アカデミーの術者が箒で飛んだとしても二日は掛かります。ですが貴方なら、」
「あぁ、俺なら一日で行ける」相手を睨み付ける様にして言う。
「今朝一番に届いた報告書によるとファーエンの村が要請を送ったのが一週間前になります。
その時点で行方不明者は十人を数えます。引き受けて頂けますね」
「ちっ、おばちゃぁん、『あれ』頼まぁ」舌打ちをすると、厨房にいる女主人の方を向かずに声を張る。
あいよ、との声がして沢山の大皿に料理を乗せて持ってくるとテーブルが埋まる。
「無補給で一日だ、食い溜めさせて貰うぜ、食事代が前金代わりで構わねぇな」
「構いませんよ」と、まるでこうなる事が分かっていたかの様に即答する。
返事を待たずして凄まじい勢いで料理が胃袋に消えていく。
会話をしていた時間よりも短い時間で食事を終えると勢い良く店の外へ駆け出していった。
店は街の南北を横切る通りに面した場所にあった。
朝食を終えたばかりの時間では石畳に舗装された道にも馬車は殆ど走ってはいない。
店から男が飛び出すとぶつかりそうになってよろける者も含め、やれやれと近隣の住人は溜息を吐く。
人通りの疎らな道を北へ向かって一直線に走りながら首に掛けていたゴーグルを装着する。
「ジェットっ、聞いてたな、ファーエンの村までの最短予想進路を出しな」
ゴーグルのグラスに地図が映し出され現在地と目標地が表示される。
全速で走る男の後方から漆黒の箒が風を鳴らし速度を上げ追い抜こうとしている。
箒が男に追い付き今にも抜かさんとするその時、
男は右手を伸ばし箒の柄から飛び出るハンドルを握り、下から潜り抜ける様にして飛び乗った。
箒に跨り腰のベルトで体を固定するとぐんぐんと上昇して行く。
『良いんですかぁ、メテオの旦那ぁ。カレンさんの依頼は金輪際受けないって、この間、、、』
装着したゴーグルからメテオにだけ聞こえる様に音声が発せられる。
「うるせぇ!良いからとっとと目的地まで全速力出しやがれっ!」と箒の柄を叩く。
『了解、了解。それではファーエンの村まで快適な空の旅を満喫下さい』
男を乗せた箒は上昇を続け王城で最も高い塔の更に何倍もの高さを飛ぶ。
メテオの決して快適とは言えない一日が始まった。
『ブルームライダー』第一話
「人食い蜘蛛に捕らわれた愛」