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★さちゅりこん――渡邊史郎と縦塗横抹

世界が矛盾的自己同一的形成として、現在において過去と未来とが一となるという時、我々は反省的である。(西田幾多郎)

働きすぎたので倫敦塔の幻を見る

2010-12-13 23:52:58 | 文学


もう研究室に15時間以上も居るわけであるが……







そろそろ限界である……

……眼こそ見えね、眉の形、細き面、なよやかなる頸の辺りに至まで、先刻見た女そのままである。思わず馳け寄ろうとしたが足が縮んで一歩も前へ出る事が出来ぬ。女はようやく首斬り台を探り当てて両の手をかける。唇がむずむずと動く。最前男の子にダッドレーの紋章を説明した時と寸分違わぬ。やがて首を少し傾けて「わが夫ギルドフォード・ダッドレーはすでに神の国に行ってか」と聞く。肩を揺り越した一握りの髪が軽くうねりを打つ。坊さんは「知り申さぬ」と答えて「まだ真との道に入りたもう心はなきか」と問う。女屹として「まこととは吾と吾夫の信ずる道をこそ言え。御身達の道は迷いの道、誤りの道よ」と返す。坊さんは何にも言わずにいる。女はやや落ちついた調子で「吾夫が先なら追いつこう、後ならば誘うて行こう。正しき神の国に、正しき道を踏んで行こう」と云い終って落つるがごとく首を台の上に投げかける。眼の凹んだ、煤色の、背の低い首斬り役が重た気に斧をエイと取り直す。余の洋袴の膝に二三点の血が迸しると思ったら、すべての光景が忽然と消え失せた。

――漱石「倫敦塔」


「倫敦塔」は、私が最初に感激した小説の一つである。坂口安吾が同じことを言っていたので、更にうれしかったの覚えています。

Far East Suite

2010-12-12 22:57:45 | 音楽
今日は、演習Ⅱのレポート採点しつつ、飽きたら大澤真幸の「〈世界史〉の哲学」を読んだ。

眠くなってきたので、Duke Ellingtonの「Far East Suite」で眼を覚ます。「極東組曲」と訳されているアルバムである。



何回聴いてもおかしげなメロディーにお尻がむずむずしてくるが、とにかくすごい音楽である。1曲目の「Tourist Point of View」のあやしげなサックスの旋律で油断してると、2分30秒ぐらいから、突然ドラムがデゲデゲデゲデゲデゲとやり始めたとおもったら、よく知らないんだけどたぶんキャットアンダーソンという男の意味不明な超高音トランペットの雄叫びがww──全く、東の世界をなんと心得るっ。

2曲目、はいはい天才天才……

3曲目の、アルトサックスの【神】ホッジス【神】のソロで陶然となっていると……第4曲目「Depk」でピアノうめえな、誰だこれ?(←エリントンです)となる。しかし、5曲目の「Mount Harissa」から、6曲目の「Blue Pepper (Far East of the Blues)」の流れで、俄然、なんだか決断したぞ、何をかはわからんが!という感じになってくる。

高校生の時に、学生のなんとかジャズフェスティバルに出た。ほとんど初めての東京滞在であった。本番前の練習場所がないので、皇居の周辺の道路で吹いていたら(私はピアノ担当なので関係ないぞ……)、機動隊が来た。――それはともかく、そのフェスティバルで、己の実力も省みず、カウントベイシー楽団の「ウィンドマシーン」をやって天下に恥をさらして以来、私の辞書には「トラウマ【名詞】ジャズのこと。」と載っているのであるが、デューク・エリントンは言わずと知れたジャズネ申であって、これを聴いていると「トラウマ=ジャズ神」ということになり、なんだか気分がよくなってくるというものだ。という気分で、第7、8曲目に至る。とにかく、旗にも多少の精霊だ!

最後の、第9曲目「Ad Lib on Nippon」……地の果て日本。ありがとうエリントン様。

架空線および導体

2010-12-11 20:17:23 | 文学
 

――私が自然の事物の中から導体になるものを選んだのは、ふとした発見からです。床の採光窓から覗いて、それが外壁の回転窓にある朱線にまで達した時、後何分経てば下の動力線に触れるか? 数回に渉って実験した結果、その時間に正確な測定をとげることが出来ました。そして、その導体は瞬時に消滅してしまうばかりでなく、その出発点である鉄管には、頂上の十字架に続いているイリヤの架空線が絡まっているのです。さらに十字架の根元は、鐘を吊す鉄の横木を支えているのですから。さて、私は頃合を見計い置洋燈に点火して、いよいよ聖アレキセイの恐怖が起るのを待ちました。ですから、階段の中途にある壁燈をともしたのは、光がちょうどあの辺まで届くので、導体の具合を見るためだったのです。しかも、硝子に映る壁は黒いので、視野を妨げません。

――小栗虫太郎「聖アレキセイ寺院の惨劇」

共通科目ただいま「少女」に停滞中

2010-12-10 12:12:06 | 文学

共通科目日和である。


「少女病」の説明するのは難しいですね。漫才のネタを説明しているようなもんだから。
来週は「ロリータ」や「コレクター」、「日の出前」に「パンズ・ラビリンス」だからもうちょっと気が楽である。

「大正野球娘。」より、石原慎太郎の「処刑の部屋」方に対して、おもしろそうに画面を凝視する傾向があるね、いまの学生は。いかがなもんかと思うよ……。リンチで殴られたり彼女に刺されたりすると痛いよ。野球で遊んだ方がよくないかなあ?人間関係があるからつらいのかな……

昼間でも流れ星らしきもの

2010-12-09 21:59:04 | 文学


 たくさんあったクリスマスのロウソクはみんな、ぐんぐん空にのぼっていって、夜空にちりばめた星たちと見分けがつかなくなってしまいました。そのとき少女は一すじの流れ星を見つけました。すぅっと黄色い線をえがいています。「だれかが死ぬんだ……」と、少女は思いました。

――アンデルセン「マッチ売りの少女」(大久保ゆう訳)