
すべての肉体的運動のうち、大地を両脚で蹴つて進む歩行ほど、全身の筋肉を平等に働かせるものはないであらう。錬成の基本となる運動は歩行である。その歩行も駈足でなく、スタスタとあるく歩行である。
歩行は脚部だけの運動ではない、腰部は云ふ迄もなく、腹筋も背筋も、進んではうなじの諸筋肉に到る迄、相当の活動をしなくてはならぬのである。唯強ゐて云へば、手の筋肉の活動が比較的少いだけである。幸にも釣人は一日中竿をふつて居なくてはならぬので、肩から手先の筋肉まで活動する事になるのである。
溪谷に沿つて釣り登る場合には、全身の筋肉の活動の程度は一層強いのである。
──正木不如丘「健康を釣る」