
近藤ようこ版『夜長姫と耳男』。坂口安吾のこの小説は実に不思議な作品で、私が初めて読んだ時連想したのは折口信夫の『死者の書』である。今読んだら全く別物と思われる可能性が大きいが……。人によっては、手塚治虫の『火の鳥』などを思い浮かべるのではなかろうか。近藤氏は、勇気を持って耳男のつくった化け物の像などを絵で描いている。これは本当に勇気のいる行為で、考えて見れば、化け物だけではなく、耳男や夜長姫さえいざ描こうと思ったら大概の作家は躊躇するのではなかろうか。これは「桜の森の満開の下」ではあまり感じられない困難ではなかろうか。